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社会起業家のための対話デザイン / 壮大な夢を実行プランへ

「ファシリテーターとして、社会の良い変化を促したい」
そう思う私にとって、今回の仕事はとても有意義でした。クライアントの許可をいただいてワークショップのデザインを紹介します。社会起業家やソーシャルベンチャーの方、ワークショップをデザインする方などの参考になれば幸いです。

背景:フードリボンについて

今回のクライアントである株式会社FOOD REBORN(フードリボン)は、社長の宇田悦子さんが2017年に沖縄県大宜味村で創業したソーシャルベンチャーです。「捨てるものがない、循環型社会を実現する」ことを目指し、未利用農産物資源を活用するための研究開発,企画,製造に取り組んでいます。

例えば、従来廃棄されていたパイナップルの葉等から天然繊維を抽出してファッション素材に変える「ファーマーズテキスタイル」事業は、農家の所得向上、従来の天然繊維生産過程で生じる環境問題や児童労働など多くの社会課題を解決する新たなテクノロジーとビジネスモデルとして注目されており、沖縄県から台湾、インドネシアへと海外へ広がりつつあります。

現在、フードリボンが行政と連携して「ファーマーズテキスタイル」の製造・発信拠点を沖縄県大宜味村に建設する計画が進行しています。この機に改めて、フードリボンの目指す社会へのロードマップを描き、事業や拠点で実現したいことを明確にするために、私がファシリテーターとして伴走させていただきました。


ワークショップで解決したい課題

事前のヒアリングと設計の段階で私が解決したいと考えた課題は、以下4つでした。これらはフードリボンに限らず、多くの社会起業家やソーシャルベンチャーにも当てはまるのではないでしょうか。

①創業者の社会に対する想いが溢れているため、創業者自身も言語化しきれず、メンバーにも伝えきりにくい。

②社会を良くするために成したいことは多くある一方で、現在自社がすべきことにフォーカスする必要がある。

③複雑な社会課題を解決するためビジネスモデルも複雑になりがちなので、価値提供の全体像が見えにくい。

④資金調達等により可能になった大規模なプロジェクトを、限られた人数と蓄積で、着実に実装する必要がある。


ワークショップデザイン

ワークショップは2023年1〜2月で3回に分けて計15時間行いました(1回目は対面、2,3回目はオンライン開催)。参加者は社長の宇田さんを含むコアメンバー4名、加えて今回は、ワークショップの成果物をもとにフードリボンのブランディングを担うクリエイター陣もオブザーブ参加しました。

「フードリボンの目指す社会へのロードマップを描き、事業や拠点で実現したいことを明確にする」ことをゴールとして、以下4つのプロセスをデザインしました。各プロセスは上記で挙げた、解決したい課題①〜④に対応しています。以下では各プロセスで用いた手法や問い、その結果等について紹介します。

■ワークショップのプロセス
①社会への想いを引き出し理解し合う
②共に目指したい社会への道のりを描く
③事業が生み出す価値の循環を俯瞰する
④サービスが持つべき機能を具体化する
ワークショップの全体像

また、複雑かつ長いプロセスとなる今回のワークショップでは、全体設計として以下3点に留意しました。

■全体設計のポイント
・時間軸(現在→未来),空間軸(関係者),抽象度(抽象→具体)など多視点で考えること
・言葉,作品,モデル図,表など様々な表現で可視化すること
・全体を構造化して各プロセス間のつながりを保つこと


プロセス① 社会への想いを引き出し理解し合う

このプロセスで用いた「レゴ・シリアスプレイ」という手法は、ブロックを使うことで、無意識下の想いを可視化したり、心理的安全に対話することができる手法です(ファシリテーターは認定が必要)。普段言語化しきれない想いを引き出すことと、メンバーのチームビルディングにも役立つと考えて用いました。

「私が人生をかけて変えたい、世の中の現状」「私が人生をかけて叶えたい、世の中への願い」という問いで対話しました。
その結果、様々な形と共に引き出された宇田さんの想いに共鳴して、メンバーも自分なりの想いを表現、最後はそれら全てが驚くほどピッタリと組み合わさった合作ができあがりました。社会への想いについて多くの気づきと、チームとしての強い一体感が生まれました。

メンバー全員の想いを組合せてできた作品


プロセス② 共に目指したい社会への道のりを描く

このプロセスで用いた「Theory Of Change (TOC)」という手法は、理想の社会を実現するための道のりと必要なアクションを描き、幅広い関係者と共有・連携しながら変化を生み出すことを促す手法です。フードリボンが目指す未来から逆算した道のりを描くと共に、時間軸と行動主体の観点で、自社が今すべきことを整理できると考えて用いました。また、連携する多くの関係者とビジョンを共有するためにも有効です。

ブロックで表現した現状と理想の社会を踏まえて、「10年後にはどんな社会の状態を実現したいか?逆算すると3年後,1年後にはどんな状態を実現したいか?」「実現のために、どんな事業活動、または外的要因や関係者の協力が欠かせないか?」という問いで対話・議論しました。

TOCの手法で設定した問い

その結果、農業,繊維,衣服といったフードリボンの取組む課題領域が、互いに影響し合いながら理想の社会へ変化する道のりと、そのために自社が今すべきこと/今はしないこと/他の関係者に委ねたいことなど整理がつきました。

TOCで対話・議論した結果(イメージ)


プロセス③ 事業が生み出す価値の循環を俯瞰する

このプロセスで用いた「顧客価値連鎖分析(CVCA)」という手法は、事業が生み出し顧客に提供する価値の流れの全体像を可視化して、ビジネスモデルを分析・改善する手法です。フードリボンの事業が生み出す多様なモノや価値の循環の全体像を俯瞰して、中でも重要な価値の流れを特定するために有効だと考えて用いました。

TOCで言語化した3年後の社会の状態をCVCAで視覚化するために「この事業にはどんな関係者がいるか?」「関係者間でどんな価値を提供し合っているか?」「どの価値の流れが事業にとって特に重要なのか?」という問いで議論しました。

CVCAの手法で設定した問い

その結果、モノ,お金,知識,感情など様々な価値が農業,繊維,衣服などの領域を横断して循環する全体像が描き出され、その中でも(見逃されがちだったけれども)特に重要な価値の流れを特定することができました。

CVCAで対話・議論した結果(イメージ)


プロセス④ サービスが持つべき機能を具体化する

このプロセスで用いた「システムズ・エンジニアリング」という手法は、大規模で複雑なものごとを着実に実現するための体系的な考え方です。中でも「要求定義(成果物が実現すべきことの明確化)」のプロセスを簡易的に取り入れました。限られた人数と蓄積のフードリボンが、大規模な拠点を建設し運営していくために必要な手法だと考えて用いました。

CVCAで描いた価値循環の全体像をもとに「拠点のユーザーは誰で、どんな価値をやりとりするのか?」「ユーザーはどんな流れで拠点を利用するか?」「利用の流れを実現するにはどんな機能が必要か?」「必要な機能をどんな手段で実現するか?」という問いで議論し、拠点に必要なハード,ソフト,人員などを明確化していきます。尚、今回のワークショップでは時間の制約上、このプロセスはやり方を解説するまでに留めました。

要求定義の手法で設定した問い


今後に向けて

今回のワークショップの成果物は、チームビルディング、ビジョンの共有、ビジネスモデルの検討、サービス設計など様々に活用できます。特に、フードリボンが目指す循環の世界観を世の中に伝えていくためのブランディングの検討材料となっており、これからクリエイター陣がどんなストーリーを紡いでくれるか楽しみです。

ワークショップの中では、メンバーそれぞれの強い想いが、対話を通じて混じり合い、新たな未来の可能性が出現しました。そんな瞬間は、まさにファシリテーター冥利に尽きます。今後も、フードリボンのように複雑な社会課題を強い想いとともに解決する社会起業家やソーシャルベンチャーを、ファシリテーターとして支援したいと思います。

嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/