貧血の治療、どの鉄剤がいいの?

今日は「鉄欠乏性貧血」の患者さんが鉄を補うためにどのような薬、サプリメントを選べば良いか、という話をしたいと思います。

鉄のサプリメントには、①非ヘム鉄、②ヘム鉄、③キレート鉄の3種類があります。病院で処方される鉄剤は「非ヘム鉄」です。

結論から言うと、どれでも良いと思います。

試してみないと何とも言えないので、まずは飲んでみて、合わないと感じたら別な方法を試せば良いです。

しかし、後で詳しく書きますがキレート鉄に関しては不自然な経路で体内に吸収されるため、警戒する医師は多いです。私もあまり推奨はしていません。

まず、大前提

症状のみで「貧血」と決めつけたり、貧血の中でも「鉄欠乏性貧血」かどうかを確認せずに鉄剤を飲み始めると、改善への遠回りになる場合があります。

なお、「鉄欠乏性貧血」の診断を受けている方も、他の栄養素が一緒に不足していることが多く、鉄だけを補っても改善が乏しい場合があることは知っておいて下さい。

①非ヘム鉄

食事の中で、植物に含まれる鉄は、「非ヘム鉄」です。先ほどお話した通り、病院で処方される鉄も「非ヘム鉄」です。次の4種類がありますが、だいたい1日100~200mgくらいが治療に使われる量です。

フェロミア錠(クエン酸第一鉄ナトリウム)
フェログラデュメット錠(乾燥硫酸鉄)
フェルムカプセル(フマル酸第一鉄)
インクレミンシロップ(溶性ピロリン酸第二鉄)

非ヘム鉄の一番の魅力は値段でしょうか。例えばフェログラデュメット錠は1錠が8.10円で、3割負担なので更に安いです。血液検査も定期的に保険で受けられることもメリットですね。もちろん、この安さでも皆さん効果は出ています。

ただ、保険で処方してもらうのは受診が必要で、消化器症状((嘔気・腹痛・便秘・下痢)が出やすいのが非ヘム鉄の欠点です。効果が出る前提条件はもちろん、きちんと内服出来れば、ということになります。

ちなみに、上記処方される4剤でも副作用の出現率は異なります。インクレミンは副作用がかなり少ない代わりに効果も低いようです。フェログラデュメットは「どぎつい」赤色ですが、副作用が少なくなるように開発された経緯があり、いくらか良いようです。飲めない場合、他に変えてみるのもひとつです。

非ヘム鉄のもう一つの欠点は吸収の問題です。非ヘム鉄は小腸のDMT-1トランスポーターという入口(名前は覚えなくて良いです)から体内に入って来ますが、他のミネラルも同じ場所から身体に取り込まれます。

このため、一度に大量の鉄が吸収される時は、他のミネラルの吸収が悪くなると言われているのです(ヘム鉄はこのようなことがありません)。ある程度症状や血液検査が改善したら、1日の内服量を落とすか、マルチミネラルのようなタイプを使うと良いのではないかと思います。

それから、よく知られるようにビタミンCは鉄の吸収を促進します。一方フィチン酸やタンニンは鉄吸収を弱めます。一般的に食事は非ヘム鉄の吸収を阻害しますので空腹時のほうが効果が高いです。ただ、経験的には空腹時はより消化器症状が出やすいです。食後の内服でも皆さん効果は出ていますので、無理に空腹時でなくても良いと思います。

私のお勧めの非ヘム鉄は以下の通りですが、市販のものは含有量が少なく、治療というよりは健康維持のニュアンスです。



②ヘム鉄

色々考えると、一番のお勧めはヘム鉄になります。食事では、動物の肉に含まれる鉄は、このヘム鉄です。ヘム鉄はHCP-1という、他のミネラルとは別に吸収され、他の食べ物の影響を受けないところが非ヘム鉄とは大きく異なります。

また、非ヘム鉄よりずっと吸収の効率が良いので、摂取量は5~10分の1のmg数で済みます。だいたい、15~30mgが貧血の治療量の目安になります。

長期にわたって摂取するには、このヘム鉄が一番お勧めです。ただ、どのヘム鉄サプリがお勧めかは難しいところがあります。DHCも安いのですが…ちょっと…ですし、MSSが圧倒的に安心でお勧めですが高いんですよね。


③キレート鉄

さて、問題のキレート鉄です。栄養療法ではカリスマ的な存在になっている藤川徳美医師は、このキレート鉄を絶賛されていますが、一方で多くの医師がキレート鉄を警戒しています。

googleで「キレート鉄」と検索しようとすると、「キレート鉄 発がん」「キレート鉄 危険」などと予測変換されるのを見たことがある方もいらっしゃると思います。

危険と考えられている根拠は、このキレート鉄は鉄が「グリシン」というアミノ酸で包み込まれるような構造をしており、人体はどうやらヘム鉄や非ヘム鉄と異なる入口から、アミノ酸としてこのキレート鉄を吸収しているようなのです。

通常、身体の中に鉄が飽和状態になると、小腸から新たに鉄が吸収されなくなります。このため、通常内服の薬・サプリメントでは鉄過剰にはならないと考えられています。

しかし、キレート鉄はこの限りではなく、鉄がどんどん吸収されていく結果、フェリチンが500、1000などと異常な値になる方がいると聞きます。実際、私のクリニックでも300を超す人は何人か見ています。

画像1

写真は一般的な硫酸鉄(左)とキレート鉄(右)の小腸での吸収の違いを示したものです。キレート鉄では、小腸の細胞内にびっしりと鉄(赤黒く染まっている部分)が並び何か異常な感じがします。

それでも一方で強調しておきたいのは、キレート鉄で体調が良くなる人もいる、ということです。吸収の高さが早期の体調改善に関係している可能性はあると思っています。

ここからは、私の意見です。日本ではキレート鉄の販売は認められていません。これは、やはり安全面において未知、あるいは疑問が残るからではないかと考えています。動物実験で発がん性を認めた、という報告も確かにあります。ですので、わざわざキレート鉄を選ばなくても無難なヘム鉄が良いのではないかと思います。

しかし、今本当に体調や気分が優れずすぐに結果を出したいという人や、ヘム鉄・非ヘム鉄が副作用でどうしても飲めない、という人はキレート鉄という方法を試して頂くことは、もちろん良いと思います。

しかし、キレート鉄を1日2~3個飲んでいるという人は定期的なフェリチン検査をお勧めしますし、体調が良くなってもならなくても2~3か月を目安に可能ならヘム鉄に変更して頂くと安心です。


感情論があることにも注意

キレート鉄が「嫌いな」医師もいて、エビデンスがないことを話し内服をやめさせようとしたり、逆にキレート鉄推奨派からは「高いサプリメントを売りつけるためにキレート鉄が危険と言う医者がいる」等という意見も聞きます。どっちもどっち、です。

オーソモレキュラー栄養療法は、もともとエビデンスが乏しく、それぞれの医師が「私はこれでうまくいった」だけを根拠に「これが正しい」と主張する状況が続いています。これは、もちろん私自身も同じことが言えると思いますが、自分と違う意見を悪く言う態度は感心出来ません。

ですので経験がある先生の意見は参考になりますが、自分の力で考え納得した治療を試みて、改善がなければ他を試す、といった柔軟な対応が望ましいと思います。

その時に、「自分の意見と違う患者さん」にも感情的にならず、根気よく治療に協力してくれる医師がいると心強いですよね。私はそうありたいと思っています。

まとめ

①非ヘム鉄、②ヘム鉄、③キレート鉄の長所と短所についてお話しました。どの方法でも良くなる人がいますが、私自身は色々考えるとヘム鉄が最も無難だと思っています。

医師の間でも色々な意見があり、迷う人も多いと思いますが、「ココナラ」で栄養療法のサービスも行っていますのでよろしければ是非ご活用下さい。医師が行う栄養相談では、かなりリーズナブルだと思います。





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