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大きなハートに包まれて

グリーフケア

 グリーフ【grief】悲嘆。死別などによる深い悲しみ。日々の幸せを実感していた私が、こんな言葉を知り、調べる日が来るとは思わなかった。
〈あの日〉は突然やってきて、その日までの日常を失う作業に追い立てられる日々を過ごし、失業し引っ越しをし、新しい日常が始まると思っていた頃にグリーフの波に飲み込まれていった。

 それは頭の上から飲み込まれるような大波のようであり、深い谷の底のようでもあり、まさに異次元。〈前を向く〉という前が存在しない世界であって、〈あの日〉から止まった時間が進まない世界だった。

アダルトチルドレン

 子どものころに、家庭内トラウマ(心的外傷)によって傷つき、そしておとなになった人たち…
 言葉だけは知っていたが、グリーフケアの本を読み漁るにつれて自分にドンピシャリと当てはまると知って驚いた。

 死別から数ヶ月経過しても、頭は四六時中彼のことを思い、気持ちは「なんで?どうして?」から抜け出せずいる。心に空いた穴は、穴と言うには大きすぎて内蔵全部が持って行かれたような大穴であり、ブラックホールのように感情を飲み込んでしまい、只々ひたすらに虚無感にさらされている。

 今で言う〈毒親〉の元で育ち、ありのままの自分がダメ人間で、外の世界に出るためには自分を出来る人だと偽る鎧を身に着けて、予備知識で武装して生きてきた。その中で唯一、本来の自分の姿を認めて愛してくれた存在を失った事により、暴風雨に曝されて深夜の荒海に漂う小舟だった私は、再び心の拠り所だった灯台の灯りのない暗闇に取り残された。

私の学び直し

 私が学ばなければならなかったのは〈私〉。医学書からスピリチュアルまで幅広いジャンルで読み漁った。どの本が助けになったかと言うと難しい。ただ〈私〉をどうにかしなければいけないという問題点に導いてくれたのは確かである。

 子供の頃の傷ついている自分と向き合って、今の大人になった自分が手を差し伸べて…とは書いてあるものの、自分の頭の中は彼のことで溢れんばかりで、ベッドに入っても夢でしか会えないのだから「会いに来て」と願い縋っているのだから自分と向き合う以前に、そんな事を考える余裕もないし眠れもしない。

万能薬〈彼〉

 彼と書いているが、未入籍だった為で実質的には夫である。バツイチの子持ち同士だった為の大人の事情である。明るくて陽気で友達が多く、家族仲もよく、まさに私の内面を真逆にベクトルを伸ばしたような人。
 凹凸という漢字は実に良く出来ていると思う。まったく似た所が無いような私達だったが、必要な部分は必ず相手が持っている。ぴったりと実に良く収まりがいい。

こんな彼がどうして私なんかを愛してくれたのか今以て不思議である。たぶん一生解決できないこの疑問が、私の学び直しの答えになったのだと思う。あんなに明るくて、素の自分をさらけ出して人と付き合える人が私を愛したのだから、あの日までの私のままで生きていいんじゃないかなと。

 あの日までの私は、アダルトチルドレンという問題に取り組む必要のない日々を送れていたのだから、彼を喪った哀しみよりも彼と出会えた幸せを、彼の笑顔や楽しかった日々を心の大穴に全部詰め込んで。
 前を向く前も分からなかったけれど、人は生きて死んでいく。私の未来には彼が待っている。彼が居る方向が前だ。日々を生きる私のドキドキや緊張を一緒に感じて見守っている、喜びも一緒に喜んでいる。〈あの日〉で自分の人生を前後に分けるのを止めた。分けてはいけないのだと思う。並んで歩く事は無くなったのかも知れないけれど、私の中に詰め込んだ彼は一緒に歩いている。彼が愛してくれた〈私のままの私〉は、よく笑いよく食べよく寝るいい子だっただろう。きっと自分が思っているよりも、私は素敵な人なのかも知れない。

#私の学び直し

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