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恐竜を絶滅させた小惑星、人類は大丈夫か?

オジさんの科学vol.063 2021年3月号

 かつて地球が宇宙怪獣や使徒に襲われたことは無い。だからウルトラ警備隊もネルフも必要ない。しかし6600万年前、小惑星が地球に激突して恐竜を絶滅させた。

 恐竜を絶滅させた小惑星の成分物質がクレーター内から発見された。

 2021年2月、「恐竜を絶滅させたと言われる小惑星のクレーターから、その成分物質を確認した」と発表があった。東京工業大学、海洋研究開発機構、東京大学、東邦大学、ベルギー・ブリュッセル自由大学、イタリア・パドバ大学の国際共同チームの研究結果だ。

 小惑星の直径は12km。メキシコのユカタン半島沖に激突し、直径約200kmのチチュルブ(チクシュブールとも言う)・クレーターをつくった。今回、クレーターを調査することにより小惑星衝突と大量絶滅を結びつける最後の証拠を探った。
 国際共同チームは、国際深海科学掘削計画の一環として、クレーターの内部を830mの深さまで掘削して試料を取り出した。詳しく分析すると、隕石には豊富に含まれるが、地球表面にはほとんど存在しない物質「イリジウム」の高濃度層が発見された。

ユカタン半島のこの辺210329

人類は、これまでどれくらい小惑星の被害にあっているのか。

 まだ人類は絶滅していない。これまでに小惑星による被害を、どれだけ受けているのだろうか?ちょっと調べてみた。

 歴史上、確実に小惑星が原因と判っている人的被害は、2013年にロシアで初めて発生した。ドライブレコーダーに記録された大火球、衝撃波で割れる窓ガラス、崩れる壁、吹き飛ばされる人々を見た人もいると思う。7,320棟の建物が被害を受け、1,600人以上が負傷した。
 直径17m程と推定される小惑星が、音速の50倍の速さで突入し、100万都市のチェリャビンスク市から30km離れた上空20kmで爆発した。爆発地点直下から半径45kmの範囲で負傷者が出た。東京駅の上空で爆発していたら、横須賀、鎌倉、厚木、高尾山、青梅、飯能、鶴ヶ島、久喜、つくばみらい、佐倉、牛久、木更津、君津などでも怪我人が出るということだ。

 そして更に凄い、たぶん小惑星によるものだろう大爆発が1908年、シベリアで起こっている。大火球によって、真夜中のロンドンでも新聞が読めるほどだったという。針葉樹林が、直径50kmに渡りなぎ倒され、炎上した。爆心地から65kmも離れた場所にいた農夫のセメノフ氏が、数mも吹き飛ばされた。
 ツングースカ大爆発と呼ばれるこの事件は、当初原因が分からず、様々な説がささやかれた。現在は、直径数十mの小惑星が大気圏に突入し、空中で爆発したと考えられている。

 その他には、屋根を隕石が突き破ったとか、ガレージのクルマに当たったという程度の記録しかないようだ。意外と少ない。遭遇すれば大災害となるが、確率は低いということだろう。
 2020年夏に関東地方でも、相次いで火球が現れ話題になったが、千葉県習志野市のマンションの敷地内で小さな隕石が2つ見つかっただけで人的被害は無かった。

地球で一番隕石が落ちているのは南極らしい

今後、小惑星が地球に激突する危険性は高いのか。

 今後の危険性はどうなのだろうか?

 地球の近くを飛び交う小惑星を「地球近傍小惑星」と言う。NASAによると、毎年乗用車程(直径数mと言ったところか)の大きさの小惑星が1つ大気圏に突入し、火球となって燃え尽きるそうだ。さらに2000年に1度はフットボールの競技場程の大きさ(直径数十mくらいか)の小惑星が、地球に激突すると見積もっている。
 NASAは、直径140m以上で、地球から800万km以内のところを通過する小惑星を、潜在的に危険な小惑星と見なしている。ひとつの都市を丸ごと消滅させる可能性があるという。2020年時点において、2,078個が発見されている。

「アメリカ版はやぶさ2」と呼ばれる探査機「オシリス・レックス」が、2020年にサンプルを採取した小惑星「ベンヌ」も、潜在的に危険な地球近傍小惑星だ。2175年から2196年の間に地球と衝突する確率が、約1/2,700と推定されている。ベンヌの直径は、約560mだ。東京に落ちると、山手線がすっぽり入るくらいのクレーターが出来ると考えられる。

ベンヌはリュウグウにそっくり。

地球を襲う小惑星の監視体制はどうなのか。

 では、地球近傍小惑星は、どのような組織やプロジェクトが探査・追跡しているのだろうか?調べてみると、これだけ出てきた。

小惑星観測プロジェクト「バッターズ」
 日本で唯一の地球近傍小惑星探査プロジェクト。岡山県にある美星スペースガードセンターで観測を続けている。日本スペースガード協会が運用している。
リンカーン地球近傍小惑星探査プロジェクト「リニア」
 アメリカ空軍、NASA、およびマサチューセッツ工科大学のリンカーン研究所が共同で運営するプロジェクト。
 はやぶさ2がサンプルリターンを成功させた「リュウグウ」は、このプロジェクトによって1995年に発見された小惑星だ。
地球近傍小惑星追跡プログラム「ニート」
 NASAのジェット推進研究所とアメリカ空軍の協力によるプログラム。
地球近傍天体広視野赤外線掃天探査機「ネオワイズ
 NASAのジェット推進研究所の人工衛星。
小惑星地球衝突最終警報システム「アトラス」
 NASAの資金提供を受け、ハワイ大学天文学研究所が開発・運用しているシステム。
「パンスターズ」計画
 アメリカ、イギリス、ドイツ、台湾等の国際チームによって運用されるプロジェクトで、望遠鏡の建設にはアメリカ空軍の資金提供を受けている。
「カタリナ・スカイサーベイ」
 アリゾナ大学の月惑星研究所が組織的に行っている全天サーベイ。
太陽系内小天体探索プロジェクト「スペースウォッチ」
 アリゾナ大学月惑星研究所が、アリゾナ州ツーソンにあるキットピーク国立天文台で行っているプロジェクト。
「ロニオス」プロジェクト
 火星人の存在を唱えたパーシヴァル・ローウェルが、1894年に設立した私設天文台のプロジェクト。

 つい先日の日本時間2021年3月22日、小惑星2001 FO32が地球の近くを通過した。NASAによると地球からおよそ200万キロメートル(地球から月までの距離の約5倍)まで接近し、時速12万4000キロメートルで通過した。この小惑星は、2001年にリニアによって発見され、当初直径1kmと推定されていた。現在はネオワイズの観測により、440~680メートルと見積もられている。

 2020年11月に、小惑星が南太平洋上386kmを通過した。地球をバスケットボールと考えると、指の厚みの半分ほど距離をかすめたことになる。
アトラスによって発見されたのは、最接近の15時間“後”だった。直径は5~10mと推定された。

どうやって小惑星から回避するのか。

 現在のところ、地球を直撃すると言われる小惑星は無い。しかし地球を直撃する可能性が高い小惑星がみつかったらどうするだろう?

 避ける方法は、破壊するか、軌道を逸らすかだ。
 核爆発で粉砕する。核爆発で軌道を変える。重い物体を小惑星にぶつけて軌道を変える。レーザーを照射して破壊する。小惑星に着陸し、砕いて、放出する反動で軌道を変える。などが考えられるようだ。小惑星の大きさ、組成、軌道、衝突までの猶予時間等々によるが、今のところ一番可能性があるのは核爆発みたいだ。

 はやぶさ2やオシリス・レックスのサンプルは、小惑星の組成を知るうえでも重要なのだ。
 地球に衝突する可能性がある小惑星は、大きければ何年も前に発見されるかもしれない。しかし下手に破壊すると破片を100%地球直撃コースに乗せてしまう危険性がある。
 小さな小惑星は、直前まで発見できないかもしれない。パトリオットミサイルで迎撃できたりするのだろうか。

 NASAや欧州宇宙機関が中心となって2年に一度程度の割合で、小惑星の衝突演習が実施されているようだ。
 NASAは、地球に接近してくる小惑星に、重さ500kgの宇宙船を衝突させる実験を行う。2021年7月に打ち上げ、2022年10月、地球から約1,100万km離れたところで直径約160mの小惑星に衝突させる。

オチ無し。

 宇宙に漂う小惑星のように、話がとっ散らかってしまいました。
 小惑星が落ちてこないことを祈って、今月号にオチはありません。

大火球に願いを210328


彗星の名前の話。

 とっ散らかりのついでに、彗星の名前の話をしましょう。
 彗星の名前は通常発見者の名前が付けられます。池谷・関彗星は、池谷さんと関さんが発見したからです。ところが最近は、地球近傍惑星探査のシステムが発見しちゃうので、ネオワイズ彗星、アトラス彗星、パンスターズ彗星、カタリナ彗星、スペースウォッチ彗星、ロニオス彗星などと名付けられてしまうようです。
 昨年、大騒ぎした割に目立たなかったのも、ネオワイズ彗星とアトラス彗星だったと思います。

や・そね

<参考資料>
プレスリリース
「恐竜を絶滅させた小惑星の痕跡をクレーター内に発見」 
2021年2月25日 東京工業大学、海洋研究開発機構、東京大学、東邦大学

雑誌
日経サイエンス 2013年5月号
日経サイエンス 2016年10月号
日経サイエンス 2021年2月号

書籍
『Newton大隕石衝突の現実』 日本スペースガード協会著
『地球接近天体』 ドナルド・ヨーマンズ著 山田陽志郎訳

WEB
ニューズウィーク日本版 2020年11月24日「11月13日、小惑星が地球に最も接近していた......」
ナショナルジオグラフィック2020年5月7日「NASAが宇宙船を小惑星に衝突させようとする理由」
CNNニュース2019年4月27日「小惑星の地球衝突に備えた演習実施へ、米NASAなど」
MIT LINCOLN LABORATORYホームページ 
「On the Watch for Potentially Hazardous Asteroids」
NASAホームページ「Asteroid 2001 FO32 Will Safely Pass by Earth March 21」

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