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フンガトンガ・フンガハアパイの衝撃波

オジさんの科学vol.079 2022年7月号

 フンガトンガとフンガハアパイは、ドラゴンボールに登場する双子のナメック星人です。彼らはフュージョンで合体し、大爆力魔波を放ちます。ウソです。
 フンガトンガ・フンガハアパイは、トンガ王国にある島の名前です。元々2kmくらい離れていた2つの島は、2015年の海底火山の噴火で噴出した岩石や火山灰によって、一つに合体しました。

 オーストラリアから3,300kmほど東の南太平洋の真っただ中、ポリネシアにあるトンガ王国。日本からの距離は、約8,000km。170ほどの島々から構成され、人口は約10万7千人です。総面積は747km2、これは対馬くらいの広さになります。
 ラグビーが強く、日本にもたくさんの選手が来ています。2019年のW杯日本代表には、中島イシレリ選手を始めとして何人も選ばれています。お相撲さんにもいましたよね。

 太平洋プレートがオーストラリアプレートの下に沈み込んでいるところにあるので、日本と同じようにたくさんの火山があり、地震も多く発生しています。
 今年1月15日、フンガトンガ・フンガハアパイ島は、大規模な噴火を起こしました。大爆発の様子や津波が押し寄せる様子をワイドショーなどでご覧になった方も多いのでは。

噴火の様子を映したひまわり8号の動画はこちらhttps://www.data.jma.go.jp/video/data/kansoku/himawari/2022/j20220115.mp4

 大噴火は日本時間の午後1時10分(現地時間午後5時10分)に起きました。
噴煙は、半径約250kmにまで広がり、高度は30km、最も高い所で55kmまで達したと言われています。フンガトンガ・フンガハアパイ島から南東に約65km離れたトンガタブ島にある首都ヌクアロファは、津波に襲われました。海底火山の山体崩壊による津波の高さは82cm、沿岸部の道路や建物が浸水しました。

 当初この津波が、日本に押し寄せるまでに、噴火から10時間以上かかると考えられていました。時刻にして午後11時以降と推定されました。
 しかも気象庁は、「若干の潮位の変動が予想されるが、被害の心配はない」と発表していました。しかし、潮位は予想より2~3時間も早く変化し始めました。その後変動が次第に大きくなり、深夜になって鹿児島県奄美大島で1.2m、岩手県久慈市で1.1mの潮位変化が見られ、津波警報が発令されました。気象庁は「通常の津波とは異なり、メカニズムはわからない」「津波ではないかもしれない」と言っていました。
「津波じゃない津波ってなに」とカミさんと顔を見合わせました。

 今回、世界中の津波監視システムが、噴火後に「津波のような水面変動」を観測しました。正式にどう呼ぶべきかは、議論の最中だそうです。ここではとりあえず単に津波と呼びます。
 今回の「津波の第1波」の速度は、音速に近い300~310m/秒であったようです。時速にすると1,080~1,116kmになります。一般的な津波の速さは200~220m/秒です。これは時速720~792kmになります。
 通常津波は、陸地を伝わることはありません。ところが今回は、中米の陸地を挟んだカリブ海でも潮位の変化が見られました。

 また一般的な津波の場合、発生地から離れるほど潮位の変化は、小さくなります。トンガで82cm、トンガと日本の中間にあるサモアでは11cmでした。
 ところが、通常の速さで押し寄せた「後続の津波」の高さは、遠くの日本で1mを超えていました。南米のペルーで2m、チリでは1.7m、カルフォルニアでも1m以上の高さになりました。

  解析が進み、津波じゃない津波の正体が少しずつ見えてきました。
津波の第1波は、「ラム波」と呼ばれる大気の波によって引き起こされたようです。これは、瞬間的な大爆発により大気が圧縮されて発生した、非常に強い衝撃波です。音速とほぼ同じ速さで、減衰が小さいという特徴があるようです。地球の表面(大気と地面や海面などの境界)を水平方向に2次元的に伝わります。ラム波によって持ち上げられた海面の隆起は、ラム波と同じ速度で伝わります。

 日本各地の気圧計は、噴火から7時間半後頃に1~2ヘクトパスカルの急激な気圧変化が観測されました。理化学研究所の解析によると、噴火後1週間で地球を5周するラム波の様子が確認できたそうです。京都大学がラム波を駆動力とする津波のシミュレーションを行ったところ、観測された第1波が再現されました。その高さは、沿岸では10~30cmなることが判りました。

 後続の津波が大きくなったメカニズムは、完全には解明されていないようです。防災科学研究所と東京大学の研究グループは、「大気重力波」の影響を指摘しています。大気重力波とは、空気の塊が上下することによって発生する大気中の波です。入道雲などが上昇する時やジェット気流などの浮力によってもできるようです。ちなみにアインシュタインが予想した重力波とは、まったく異なります。もちろんキングギドラも関係ありません。
 重力波は、水平方向におおむね200~220m/秒で伝播します。一般的な津波とほぼ同じ速さです。津波は大気重力波と共振することで遠く離れるほど大きくなるそうです。

 うる星やつらのラムちゃんの武器は、衝撃波ではなく電撃です。フンガトンガ・フンガハアパイも噴火の際に「火山雷」を発生させました。噴出した高密度の粒子が激しくこすれ合って蓄積された電荷の放電現象と考えられます。半径約150kmの範囲内で無数に発生したそうです。
 火山噴出物を放出し、ラム波や重力波や火山雷を発生させたフンガトンガ・フンガハアパイは、島の大半が消失してしまいました。

や・そね
<参考資料>
雑誌
日経サイエンス 2022年4月号「トンガの海底火山噴火 津波はなぜ起きた?」

ニュートン 2022年4月号「トンガの巨大海底噴火」

広報誌
DPRI NEWSLETTER 100号 「特集トンガの火山噴火」 京都大学防災研究所
https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/news/16268/

プレスリリース
「トンガ海底火山噴火のラム波を鮮明に可視化」 2022年5月9日 理化学研究所
https://www.riken.jp/press/2022/20220509_1/index.html

「2022年1月トンガ噴火に伴う地球規模の津波発生と伝播のメカニズムを解明」2022年5月13日 国立研究開発法人防災科学技術研究所、東京大学地震研究所
https://www.bosai.go.jp/info/press/2022/20220513.html

ホームページ
国立研究開発法人海洋研究開発機構 「フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火がもたらした日本列島沿岸の津波」
https://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/tonga/column04/

気象庁 観測画像の紹介(2022年) 「フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火」
https://www.data.jma.go.jp/video/data/kansoku/himawari/2022/j20220115.mp4


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