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CIIDに留学して良かったか

こんにちは。久しぶりの投稿となります。今回は、Copenhagen Institute of Interaction Design(通称: CIID)を卒業して半年が経過したことを踏まえて、結局CIIDに留学して良かったのかどうか、を考察してみたいと思います。またよくCIIDに関する問い合わせをいただきますが、これからCIID及びデザインスクールに留学を検討されている方の参考にもなるかと思いますので、ぜひご覧いただければと思います。

結論

最近は、「CIIDに留学して良かった」と感じることが多くなってきました。自分の場合は、ビジネス系(前職: 戦略コンサルタント)からクリエイティブ系(フォトグラファー/シネマトグラファー)に大きなキャリアチェンジをしている最中なので、自信を持って言い切ることができないのですが、それでもCIIDへの留学を肯定的に捉えることができています。一方で肯定的な面だけではないことも確かで、むしろCIIDに留学した当初は失敗したなと考えることもありました。これに関しては、他の学生についても同じような感想を抱いていたようです。

学生によって多くの観点があると思いますが、今回は「観点1: 「デザイン」を深く理解することができたか」「観点2: 得られたスキルやマインドセット」「観点3: 卒業後のキャリア」「観点4: 人生観の変化/成長」という4つの観点から考察してみたいと思います。

観点1: 「デザイン」を深く理解することができたか

CIIDまたはデザインスクールに留学する以上、「デザイン」という概念に何かしらの興味を抱いているわけですから、「デザイン」の理解が深まったかどうかは、重要な観点の一つであると思います。

この観点について、自分の答えは「NO」に近いと思います。もちろん何も学ばなかったわけではないのですが、全体的に理解が浅いと自覚しています。

その理由は、CIIDのカリキュラムは1年という短期間で構成されており、その短い期間でインタラクションデザインを始め、デザインリサーチ、UIデザイン、プログラミング、プロトタイピングなど、デザイナーに関するほとんど全てのことを学習しなくてはならない環境に起因すると思います。

カリキュラムそれぞれの内容を詳しく知りたい方は、過去の自分の記事をご覧ください。実際に辿ったプロセスを詳細に記載しています。

CIIDのカリキュラム例(1年間)
【Foundation】

- Team Building
- Introduction to Interaction Design
- Digital Fabrication
- People Centered Research
- Introduction to Programming
- Computational Design
- Video Prototyping
- Physical Computing
- Machine Learning
- Immersive Experiences
- Interactive Data Visualisation
- Interactive Spaces
- Performative Design/Wearable Computing
- Sound Design
- Sensory Design
- Rapid Experience Prototyping

【Investigation】

- Graphical User Interface
- Tangible User Interface / Sustainable Product Design
- Service Design
- Enchanted Objects (The Internet of Things)
- Emotive Digital Services
- Working Intelligence
- Immersive Experiences

【Project】
- Industry Project
- Final Project

これら全てのコースが1~2週間で実施されるため、まだ理解が浅いうちに次のコースに進むことになります。そのため、CIID入学前にノンデザイナーだった学生は、デザインに対する理解が浅いまま、復習する時間もなく次のコースに進むことになってしまうことが多いのです。

特にノンデザイナーの学生がCIIDでの学びを最大化するには、早い時点でどのスキル・領域を伸ばしたいか特定しておくことが重要だと思います。CIID卒業後のキャリアを踏まえる必要もあるので、一概にすぐに決めきることは難しいのですが、はっきりとした目標がないと、1年間全てのスキル・領域が中途半端なまま終わってしまうことになることもしばしばです。この点、自分の場合は写真や映像制作の方に振り切っていた(CIIDではビデオプロトタイピングが非常に重要でした)ので、在学中に十分なスキルを身に付けた上で、卒業後すぐに仕事を見つけることができました。

またCIIDの提唱する「良いデザイン」も、現実的にはその意味や有用性をそのままでは、理解できない場合が多いです。特にこれは、自分と同じようなビジネス系出身の学生が苦しむことになりますので、過去にまとめておきました。

観点2: 在学中に得られたスキル

観点1では、否定的なことを多く書いてしまいましたが、観点2については、在学中に多くのスキルを学ぶことができたと言えると思います。

繰り返しとなりますが、CIIDでは1年という短期間で、デザイナーに関わるおそらくほとんどのスキルを網羅するため、薄くではありますがデザイナーが使用するツールやソフトウェアに関する知識を得ることができます。PhotoshopやIllustratorはもちろん、Premiere ProやAfter Effectを利用してグラフィック、モーションデザイン、動画制作までできるようになります。その他にも、レーザーカッターや3Dプリンター、Arduinoなどハードウェアを制作するためのツールも使用します。もちろんどのスキルを伸ばしたいかは学生次第なので、習熟度に個人差は出てきますが、真剣にやればどの学生もその後の仕事につながる程度にはできるようになると思います。

特にノンデザイナーの学生にとっては、元々その道のプロだった学生(モーションデザイナー、グラフィックデザイナー、インダストリアルデザイナーなど)と関わり、生で彼・彼女らの制作フローを見ることができます。これは学習の習熟度を確かめるのに、非常に役に立ちます。興味を覚えたスキルやソフトウェアがあれば、すぐに同級生に聞くことができますし、仲良くなれば一緒に勉強会なんかもできたりします。自分の場合は、インド人の学生からほとんど全てのスキル・ソフトウェアの触りを教えてもらっていました。感謝しかありません。

ただ一方でその学習は学生個人に委ねられているため、悪く言えば何も学習しなくても1年間を過ごすことができます。ここでは、「自分を変えてやるぞ」とか「新たなスキルを身につけてやる」のような覚悟が非常に重要になります。それがない人は、あまりCIID向きではないと思います。

観点3: 卒業後のキャリア

こちらは入学前のバックグラウンド、年齢、国籍によって様々な意見があると思いますし、キャリア選択の良し悪しは、卒業後半年で決められるものではないので、あくまで現時点での考察となります。

まずは、元々デザイナーだった学生について。こちらは多くの学生がデザイナーという文脈で、キャリアアップできているのではないでしょうか。彼・彼女らの場合は、元々デザインの素養があるので各コース内容の吸収が早く、卒業時の習熟度が高いように感じられました。そういった学生を欲しがる企業は多く、それぞれが多くの企業とコンタクトできているように感じます。具体的な企業・ポジションとしては、IDEOをはじめとした欧米系のデザインファーム、欧州系のデザインファームのUI/プロダクトデザイナーポジション、日本で馴染みのある企業としてはCookpadもありました。

次に、ビジネス系のバックグラウンドを持つ学生について。こちらは残念ながらデザイナーにキャリアチェンジできている学生はほとんどいません。結果として、ビジネス系の企業に再就職しているケースが多いようです。その理由は観点1で述べたことに似ていて、多くの学びが中途半端になってしまっていて、デザイナーとして未成熟だからだと思います。またそれ以外にも、CIIDで教えられた「デザイン」では、「ビジネス」の要素・制約が完全に対象外にされていたので、デザイナーとして働くこと自体に意味を見出せなかった学生もいました。

最後に、何らかの形で大きなキャリアチェンジをした学生。例えば、自分のような例ですが、経営コンサルタントからフォトグラファーになったような場合です。こちらは自分の好きなことができているという点では成功なのかもしれませんが、想像以上に収入が下がることは否定できません。また大きな会社に雇ってもらえない場合、まずは実績作りのためにフリーランスとして活動することを強いられている学生も多いようでした。その場合、在学中に制作した作品をポートフォリオにして、企業に自分を売り込む地道な営業活動から始めることになります。営業活動がうまくいけば良いのですが、これに失敗するとやはり元々のバックグラウンドに戻らざるを得なくなるので、卒業後1-2年程度はやはり大変な苦労を強いられることになると思います。これは他の卒業年度にも当てはまることのようです。

結論として現時点では、元々デザイナーだった学生が、タイトル・給与ともに上がるという、一番理想的なキャリアアップを図れているように感じます。自分の場合は、最後のケースに該当しますが、現時点で成功したとは言い難い状況です。ここ1-2年が勝負になると思います。

観点4: 人生観の変化/成長

CIIDの学生生活を象徴するものとして、多くの学生が口にしていたのが、「人生観の変化/成長」です。特に2020年の場合は、新型コロナウイルス感染拡大によるオンライン授業への移行、デンマークではなく中米コスタリカでのプログラム開催など、多くの予想外に見舞われたので、例年以上に自分自身の強みや弱み、意志、もっと言うと自分の人生観と向き合っている学生が多かったようです。CIIDの学生生活を語るには、「多国籍・異業種の学生で構成される生活から受ける影響」と「コスタリカの自然・文化から受ける影響」の側面を理解する必要があるので、二つに分けて人生観の変化について考察していきたいと思います。

1: 多国籍・異業種の学生で構成される生活から受ける影響

CIIDでは毎年多くの国から学生を募るので、24~27名が10~15ヶ国の学生で構成されることがほとんどです。またビジネス・デザイン・エンジニアリングのバックグラウンドから幅広く学生を採用するので、仕事をする際の価値観やルールが全く異なると言っても、過言ではありません。そんな環境なので、自分が正しいと思っていた価値基準、ルーティン、プロジェクトの効率的な進め方、美しいデザインの考え方など、自分を支えてきたものの多くを見直す機会が与えられます。

おそらくどの学生も共通して、対人関係を築くことがうまくなったと言えるのではないでしょうか。単純にどの人間とも仲良くなるということではなく、自分にとって相性の良い人を選んでコミュニケーションすることが上手くなったと言い換えてもいいです。こちらについては、別の記事で書いたような弊害もあるのですが、友人・知り合い・他人というものの概念を見直すきっかけになったと思います。

また自分の人生観の変化の中で特に大きかったのは、「どんなことでも小さな実験を繰り返すことで、次第にその道のプロになれる」ということを知ったことです。これは毎日のように一緒にいた、あるインド人学生の影響を受けたものなのですが、自分のフォトグラファー人生は、ヘタクソでもいいから自分が綺麗に思ったものを自分が満足ができるように撮り続けることから始まっています。

2: コスタリカの自然・文化から受ける影響

皆さんは"STAY CHILL"という概念をご存知でしょうか。コスタリカは地球幸福度世界1位の国であり、国土のほとんどが草原やジャングルで覆われているようないわゆる「田舎」の国。そんな国で暮らしてみると、日本のような先進国では味わえないような生活リズムとそこから得られる心境変化を体験することができます。別でオンライン記事を書いているので、こちらに掲載しておきます。

要するに極度の田舎で「余白」のある生活をすることで、自分が内面で感じていることや自分の美意識と向き合う時間が増えるので、自然と新たな趣味が増え始め、生活が自然と豊かになっていくということです。自分のフォトグラファーへのキャリアチェンジにも大きな影響を与えています。

自分の場合は、CIIDの学生生活で、この3つ目の側面が一番の学びや変化であると考えています。カリキュラムの内容以上に、周辺環境から影響されていることが多いです。

結局いま自分は何をしているか

結論、自分の場合は「CIIDに行って良かったか」というと...

1: 「デザイン」を深く理解することができたか ⇨ ✖︎
2: 在学中に得られたスキル ⇨ ○
3: 卒業後のキャリア ⇨ △ (ここ1-2年が勝負と考えている)
4: 人生観の変化/成長 ⇨ ○

という評価になっているため、現時点では肯定的な要素が多いと感じています。あくまでこの4つの軸で見た場合ですが、、、

そんな自分は、現在フリーランスのフォトグラファー/シネマトグラファーとして活動しています。現在は、ウェブCM・ウェディング・ポートレート・ライフスタイル・フードを中心に撮影し、大手ブライダルジュエリー会社、結婚式場、リゾートホテル、レストラン等をクライアントとして、クリエイティブディレクション、撮影、ポストプロダクションを担当しています。ポートフォリオはこちらです。

まだまだ駆け出しで大変なことも多いのですが、人生一度きりですので、少なくとも直近の1-2年程度は、この道に専念してみようかと考えています。

町田

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