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CIID Week20: Design For Better Urban Living

こんにちは。今週もCIIDとして初となる”Design For Better Urban Living”というコースを実施していました。当初の予定では、TUI(Tangible Interface)という3週間のコースを行う予定でしたが、コスタリカのコロナウイルス感染状況の悪化により、学校が閉鎖されてしまったため、デジタル環境でも実施可能なコースに変更されました。

CIIDが考えた即席のコースとなりましたが、このコースの準備具合は想像を超えるほど酷かったです。講師としても急に依頼されたはずなので、仕方ないと言えば仕方ないのですが、コース初日になってもプロジェクトの概要すら定まっていない状況でした。余談ですが、最近のコロナウイルス感染拡大の影響で通常と同じ形式で授業ができないことを鑑みても、最近のCIIDの無責任さには少し目を疑います。

とは言っても運営されてしまったものは仕方ないので、最近は学生として、自分なりに目標を定めることが必要になってきます。ただプロジェクトの趣旨がリサーチにあるのか、プロトタイピングにあるのか、それとも都市デザインのコンセプトを描くことにあるのか明確でなかったので、今週の主眼は普遍的なハードスキルである、写真にすることにしました。実際にはリサーチやプロトタイピングをどのように有効に使えば良いのか、という点を振り返ることができたような気がします。

Step1: Define Problem Statement

もはやお馴染みになりつつありますが、最初はこのプロジェクトとしての、問題を設定することから開始します。今回のテーマは都市デザインということを踏まえて、まずは身近な街角散策を通して街自体を観察してみることにしました。単純に観察したことをノートにまとめるのではなく、写真や動画と一緒に、第三者が見て問題を理解できるようにすることが重要です。

自分は写真好きなこともあり、この課題には楽しさを覚えていたのですが、ただ綺麗なものや景色を写真に収めるだけではなく、「なぜそこが重要だと思ったのか」「なぜ写真のような状況が発生しているのか」を付加することが必要でした。その洞察(Observation)から、問題(Problem Statement)を設定することになります。

自分は都市デザインというワードを聞いた時に、本当に漠然と「地元のごく一部しか知らない美しい・珍しいスポットに人を呼び込むことで、自然と街に活気ができるといいな」と考えていたので、自宅周辺の面白スポットの写真をひたすら撮影していました。

■ 休業に追い込まれた飲食店の廃墟

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■ 突然現れる街中のジャングル

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■ 廃車置き場

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この後グループでそれぞれの写真を議論し、街の改善点を探すのかなと思っていたのですが、講師の話を聞くところどうやら、これはただの準備運動のようなもので、撮影した写真とは無関係になるようでした。正直に講師の対応には呆れてしまいましたが、自分のグループでは、いつも通り街が抱えていそうな問題についてブレインストーミングすることにしました。

議論の結果、抽出された問題文は以下のとおりです。

- Homeless people digging people’s garbage and littering the ground
- How government is handling information control to foreigners/non-espanol speakers (especially in times of pandemic?)
- vehicles not slowing down at junctions and curves where pedestrians trying to cross the road

この時点では、ただ漠然と良くない状況を文章化しているだけに過ぎないので、今度は何をデザインするか、何のためにデザインするかを”Design Challenge”の形でまとめます。Design Challengeをまとめる際に重要なことは、後続のアイディエーションに備えて問題の原因を絞り切らない一方で、何となく解決策の方針を示していること、場所や時間に制約を考えておくことです。後はなぜそれが問題と思ったのか、リサーチをしないまでも、仮説的に起きていそうな不都合をまとめておくことも重要です。

実際にはインタビュー等のリサーチをした上で、多少エリアを絞ったDesign Challengeとするべきですが、今回は1時間程度で考えたものなので、下記のように多少広く定義されています。

How might we create a system where homeless people get essential items from other people’s garbage without creating trash on the streets?

⇨ 議論の結果、人のゴミ箱からゴミを漁ることが問題ではなく、「ホームレスが生活必需品を得るためにゴミを漁る際に、どのようにすれば道を汚さずに住むか」という問題にすり替えています。

How can government create a trustworthy and real-time information channel for foreigners so that they can feel safe and taken care of in a foreign country in times of pandemic?

⇨ ただ単純に情報が足りていないことが問題ではなく、情報はある程度手に入るものの、信頼できる&リアルタイムの情報提供がないことが問題ではないのか、と仮説を立てました。

How might we improve pedestrian safety on the roads of San José?

⇨ 一番広義のHMW文となっていますが、この時点では交差点で歩行者が危険を感じるのか、普通の道端で危険を感じるのか、など詳細を詰めきれない部分があるので、このレベルで収めています。逆に場所を設定してしまうと、アイディアの幅が狭まってしまうような気がします。

Step2: Desktop Research & Concept Ideation

本来であればProblem Statementを定義した後は、リサーチの段階に入っていきますが、今回は実質4日以下のプロジェクトであることを踏まえて、リサーチはデスクトップリサーチによる仮説検証に留め、先にコンセプトを固めることを優先しました。(ちなみにこのステップがこのプロジェクトの失敗要因でした)コンセプトを固めると言っても、完全に作るプロダクトやサービスを固めるだけではなく、どのあたりにソリューションの可能性があるか見当をつけるだけです。

デスクトップリサーチと議論を繰り返すうちに、チームとして、上記で説明した2つ目の、”How can government create a trustworthy and real-time information channel for foreigners so that they can feel safe and taken care of in a foreign country in times of pandemic?”というHMW文に興味を抱いていることに気づいたのですが、問題は当初想定していたものと異なるものになりそうでした。

COVID-19に限らなくても良い: 都市デザインの文脈で、街中の課題を見つけてそれを解決するプロジェクトであることを踏まえると、いつか収束するであろうCOVID-19に主眼を置くのは、プロダクトやサービスを一時的なものにしてしまうであろう、と結論しました。

ユーザーは”Expats”: HMW文にあるような”Foreginers”という表現だと、観光客のような外国人、定住している外国人、留学生、英語圏の外国人など、様々な解釈をすることができてしまいます。本来であれば、これら全ての人にリサーチをすることになるのですが、時間的制約を踏まえて自分たちの経験に基づき、Expats(定住している外国人)をメインのユーザーにすることにしました。

「ローカルな情報が欲しいけど手に入れにくい」ことが課題: こちらも自分たちの経験に基づく仮説になってしまうのですが、おそらくExpatsはローカルの友人がいない中、ローカルのスーパーやカフェ、観光スポット、美味しいビールが飲める場所など、ニッチだけど生活を豊かにする情報を手に入れにくいだろう、と仮説を立てました。

実際にコスタリカに住み始めて思ったのですが、仮にCIIDのコスタリカ人の友人がいなかったら、地元のFarmer’s Marketや隠れバー、塗料を手に入れられる場所、カフェラテが美味しいカフェなど、グーグルでいくら検索しても出てこないローカルな情報を手に入れられなかっただろう、と思います。

この時点でProblem Statementを以下のようなものに変更しました。

“Expats/tourists want locally verified information about popular places to see and things to do in a neighborhood.”

この時点で考えられるコンセプトはいくつかあったのですが、今回のプロジェクトの制約として、”Install a probe in your selected public space”というモノがあったので、アプリのようなデジタルで完結するサービスではなく、現実に存在するプロダクトを考える必要がありました。

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そこで考案したのが、地元住民と定住外国人が作るローカルボードというサービスです。当初考えていたのは、地元住民または定住外国人が見つけたローカルな情報をボードに投稿し他の人が見つけることができる、という仕組みで、地元の住民が情報の妥当性を投票(スキ制度)で保証します。このボードを半径2k毎のエリアに設置することで、そのエリアに応じたローカルな情報を溜めることができるであろうと推察していました。

ただし議論が進むうちに、以下の問題点が浮上しました。

Physical Objectである必要がない: 物理的なスクリーンやボードを用いる場合、インタラクションを精緻にデザインする必要があります。というのもこのボードが単純にローカルな情報を通知する掲示板のようなモノなら、アプリのようないつでもデジタルで見られるメディアの方が都合が良くなり、物理的なプロダクトをデザインする必要がなくなるからです。分かりやすい例であれば、ボードから音が出てユーザーがその存在に気づき、タッチパネルを通してローカルな情報を知る、というようなオブジェクトと人間の間の関係性、つまりインタラクションをデザインすることになります。

今回の場合は、「ローカルな情報を提供する」という文脈において、有用なインタラクションをデザインすることができなさそうだったので、アプリをメディアとして使うことが望ましいのではないか、と結論しました。一方でアプリであったとしても、なぜ定住外国人がアプリを使うのか、という論点は潰す必要がありそうでした。

地元住民や定住外国人が使うインセンティブが小さい: 地元住民や定住外国人がローカルな情報を投稿することを必要とするサービスなのですが、投稿するように仕向けるインセンティブを考えられていなかったので、この時点ではあまり流行らなさそうなサービスとなっていました。

掲載する情報を絞る必要がある: 投稿されたローカルな情報と言っても、地元のレストランから、美容室、写真撮影スポット、フェスティバル等、その情報の種類は多岐に渡ります。情報が豊富であることにメリットはありそうですが、それではGoogleやTrip Adviserのような既存サービスとの差別化が難しそうでした。

Step3: Testing & Prototyping

これまでの議論を踏まえて次のステップでは、以下の問いの答えを明確にするための簡単なリサーチを実施しました。方法はアンケートと15分程度のインタビュー形式としています。パンデミックの状況でなければ、外に出て街の人にインタビューするべきでしたが、今回は学生の間で実施しました。

・問い1: ユーザー(Expats)はどのようなローカルな情報を知りたいのか
・問い2: ユーザー(Expats)が最近困っていて知りたい情報が何か

結果として様々な答えが集まりましたが、チームとしてのObservationは、以下のようなものになりました。

暮らし始めて3ヶ月後に”Local Events”を知りたくなっている: コスタリカに暮らし始めてから半年が経ったCIIDの学生ですが、今一番知りたいのは”Local Events”であることが判明しました。面白いのは、暮らし始めて3ヶ月程度でそう思い始めたとのことで、知りたいローカルな情報は滞在している期間で異なってきそうでした。

この時点でどんな”Local Events”が知りたいのかは、明らかになっていませんが、それを知るには実際に滞在し始めてから現在に至るまで、ある人物を観察し続けて、日常の小さな悩みを記録し続ける必要がありそうです。

言語の壁が予想以上に大きく行動範囲に支障が出ている: CIIDの学生は全員英語ペラペラで国際経験が豊かな人が多いのですが、それでもコスタリカ(スペイン語が母国語であり英語を話せる人は少ない)ではいかなる時も言語の壁を感じることが多かったようです。そして重要なのは、その言語の壁によって、行動範囲が狭まっていることです。

そしてこれらObservationを踏まえて、自分たちのチームでは、コスタリカに暮らし始めて6ヶ月程度が経過したExpats向けに、住んでいる地域または区画に応じたローカルイベントを通知する&参加させることを可能とする、アプリのようなモノがあればいいのではないか、と仮説を建てました。

こちらの動画が即席で作成したアプリのモック画面及び画面遷移です。知りたいローカルの情報の種類を選択するところから、実際のイベントやディスカッションをする画面までを表現しています。

これらの完成度は特に問題ではなく、問題はこれを用いてどのようにユーザーからフィードバックを得るかです。自分たちのグループでは、複数人のユーザーに対して、実際に使ってみてどう思うか、どんなローカルイベントを知りたいのか、という観点からユーザーに質問をしました。得られた主なフィードバックとしては…

この手の情報であればMeetupなどの既存サービスを利用するが、Meetupには多くの情報がありすぎて調べにくい: Expats向けというわけではありませんが、多くのユーザーはローカルイベントの情報を調べる時にMeetupやTripAdviserといった既存サービスを使うようでした。一方で探したい情報が見つからない、地域を絞りにくくイベント開催場所が遠いなどの理由で不便を抱えているユーザーも存在ました

⇨ 今後の調査: 複数の情報ではなくある特定のローカルイベントに絞ったアプリに可能性はあるか、というポイントは調べる価値はあるかと思います。ただ先述した通りどんなローカルイベントを知りたいのか、というポイントはエスノグラフィー調査のような形式で調べることが望ましいです。

実際に友達がそのイベントに参加したか知りたい: 例え自分が参加したいイベントが見つかったとしても、参加することには億劫になるユーザーも存在しました。それを回避するために、ユーザーとしては自分の友達が参加しているか・参加したいと思っているかを事前に把握したいと思っているようでした。FacebookのようなSNSと連携して友達がどのようなリアクションを返しているか、表示することで解決できそうなポイントでした。

⇨ 今後の調査: FBのような既存サービスと連携することも手ですが、大学や留学生コミュニティ、コスタリカに移住してきたUS出身の富裕層、など特定のコミュニティ内に導入することも考えられます。これはFBのような大きな集団を捉えているサービスとの差別化を図るためでもあります。

今回のプロジェクトはここで時間切れで、今後のステップを示すのみとなってしまい、曖昧な形で終わらせてしまいました。

最後に

最初から最後まで趣旨がよく分からないまま進めてしまった部分もあり、プロジェクトの成果も中途半端なものになってしまったと反省しています。もちろんコースのせいにすることもできるのですが、いくつかの他のチームは同じ状況の中、文句を言いながらも、質の高いプロジェクトに仕上げていました。今後のプロジェクトでは、どんなテーマ・状況であれ、最低限以下のポイントは注意していきたいと思います。

コンセプトを決める前にとにかくテスト: 今回の最大の失敗要因は、3日目の議論にありました。3日目はテストをするために、何かプロトタイプを作ろうとしていたのですが、アプリにするのかオブジェクトにするのか、画面として何を作れば良いのか、その画面の中にどんな機能があれば良いのか等、ユーザーでなく自分たちで勝手に形を決めてしまっていた節があります。

時間がない中で、ある程度作るプロダクトに見当をつけることは必ずしも間違っていないとは思いますが、上で示したような示唆を得る程度であれば、適当に紙で作ったアプリであれ、物理的なオブジェクトであれ、1時間程度で試作したモノを見せながら質問するだけで、良かったと思います。コンセプトを決めてからテストするのではなく、気になることをテストして、そこからコンセプトを手がけることも重要です。

デスクトップリサーチを欠かさない:
デザインの一番最初の段階で、自分の興味に基づいてプロジェクトのテーマを決めることはとても良いことです。ただテーマを決めた後は、それについてデスクトップリサーチを通して、興味を世の中の課題にすり替えていく瞬間が必要だと思います。また既存のプロダクトやサービスを把握する、という行為も重要です。

そして何よりデスクトップリサーチを通して、そのテーマについて異なる観点や先進研究を知ることができ、テーマを深いレベルで俯瞰できることが一番重要だと思います。

リサーチにおける問いの設定: デスクトップリサーチであれ、インタビューであれ、ユーザーテストであれ、どのような質問をするかで、その後のプロジェクトの質が変わってくることになると思います。今回気づいたいくつかの有効な質問方法は…

■ (問題を認識しながらも)現在はどのように対処しているか・どのようなサービスを使って対処しているか
⇨ 現在の行動を深掘りすることになると同時に、既存サービスとの差別化要因を見つけるきっかけにもなります。

■ いつその問題を認識し始めたか・過去と現在で変わった点はあるか
⇨ 問題を認識する時期を知ることで、ユーザーの属性を認識することにつながりそうです。

■ これまでで一番苦労したこと・驚いたことは何か
⇨ ユーザーが答えやすい質問であると同時に、思いがけない答えを期待できそうです。

また今回時間があれば、コスタリカに入国してから今までの感情曲線を描いて、時間軸ごとにどんなことが起きていたか知ることも面白そうです。

また来週から頑張っていきたいと思います。

町田

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