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そうだ、卒業旅行行きました。

今となっては歴史的緊急事態と言われるほどの脅威を僕らに与える「567ウイルス」(直接的に書くと怖いからこんな感じで)。マスクがない。トイレットペーパーがない。世間の奥様方は、家庭のためにディズニーランドの人気アトラクションに並ぶようにドラックストアに開演ダッシュ。早くこの事態が落ち着くことを願います。と明らかに他人事のように話していますが、僕も被害者だ。計画していたイタリア旅行は中止。卒業式も中止。イベントも中止。
もう今すぐ「駆逐してやる…この世から…一つ残らず」とベランダに飛び出して、鬼の形相で調査兵団に入団してやろうとすら考えた。
だが、僕の苗字は「イェーガー」ではなく何もせずとも時間は過ぎるわけで、学生最後の一ヶ月がウイルスまみれの思い出にするわけにはいかなかったので至急代わりの卒業旅行を計画した。
そうだ、京都いこう。
このJRの広告みたいなノリで旅行先は決まった。

プランは清水寺や金閣寺、伏見稲荷を巡る。宿はイマドキのエアアンドビー。ホテル?旅館?違う違うそうじゃない。格安で一軒家をレンタルした。時代を生きる僕らはエアアンドビー。そうエアビーに泊まるのだよ。だが安心して欲しい。横文字を知った途端にマウントを取るような僕はもちろん何も知らない。カタカナで名称をぎこちなく綴っている時点で気づいている方も多いかも知れない。

車で片道6時間。運転はジャンケンの末に一人のメンバーが全て運転を担当した。本当にお疲れ様と労いの言葉を送りたい。僕はもちろん爆睡か後部座席で友人と話に華を咲かせていた。本当にごめん。

無事に到着し、6人が京都に地に降りる。
レンタルした一軒家に到着し、玄関を開ける。
そこには靴が5足ありました。
さてここで問題です。
靴が5足ある家に、6人が入りました。家には何人いるでしょうか?
正解は、11人。簡単ですね。

「遠かったねー。」
「稲荷大社めっちゃ近いやん!鳥居ね!千本!」
男子8人女子3人。仲良しだから大丈夫、超楽しいー♡そんな偏差値爆下げな雰囲気がこの少し小洒落た一軒家に既に漂っている。
僕は思う。確実に人数が多い。
僕の中の旅行といえば多くても4人。全然1人でも行けちゃいます側の人間だったのでどうしても違和感しかなかった。
そして、問題はもう一つ。
「てか、修学旅行ぶりかな俺」
「私は去年きたー。」
僕以外の全員は修学旅行やなんやらで京都に来たことがあるらしい。
あえて今言おう。なんで京都にした。こいつら。
九州とか、四国とか他にあったじゃん。
だが、一つの可能性を僕は信じた。
「もしかして、京都ってすごくいいところなんじゃないのか。」
だって、一度行ったことがあっても最後の旅行で来れる場所なのだから。イタリアの代わりですよ?この旅行は。ピザ、パスタやワインは八橋、ニシン蕎麦や抹茶に早変わり。僕はチーズが苦手なので万々歳でしたが。水の都と西の都は同等の価値を持つものなのか。もしかして、こいつら意外と日本の歴史とか文化を重んじる奴らだったのか。と最後にして彼らの新しい一面を知れた気がした。

さあ、3泊4日京都旅行がスタート。
変わりやすい天気が少し不安を掻き立てるが、僕はThe日本な京都に触れたい。僕の手にあるiPhone 11proの広角レンズやポートレートを酷使し、地面に手をつき惨めな態勢でインスタ映えな一枚を写真に収めるのだ。
2日目は順調に進んだ。嵐山で竹林。祇園四条で食べ歩き。お腹もアルバムもいっぱいで期待通りの京都パフォーマンスだった。次の日にも期待がかかる。

だが、僕の期待は次の日にいとも簡単に裏切られた。
3日目。今日は清水寺に行く。京都of京都の寺にむかうのだ。少し急な坂や階段を上がると、大きな門と三重塔が僕らを迎えこれから向かう本堂に対する期待をさらに高める。
中へ進み入場券を購入。さすが世界遺産といったところか、入るだけでもお金はかかる。
さあ、本堂へ!僕の念願の清水の舞台はすぐそこにあった。
「おぉー」と自然に声が漏れる。僕は明らかに興奮していた。舞台の端まで駆け寄り、言葉通りに若干22歳の中背の男性が清水の舞台から飛び降りる勢いだった。
そしてそれを見守る友人たちが一言。
「なんも変わらんわ。」
「まあねー。」
今、こいつらなんて言った。
耳を疑ったがはっきり彼ら「変わらない。」と言った。それもあの初々しかった高校時代にみた景色と同じだ。みたいな思い出にふける様子もなく、「やる気あるの?清水さん」みたいなテンションでもの言いやがった。

まあそれは※個人の見解と言うやつで僕は僕なりの清水さんを堪能すればいい。僕にしか分からない清水さんの良さがある。
次は音羽の滝。有名なパワースポット。体調を圧倒的に崩しやすい僕は人生何かと大変なのでここも外せない。特にどんなご利益の神がいるとか、どんなパワーをもらえるとかマジで全然わからないけど、パワーがもらえるならなんでもいい。
全員終えて、次は坂を降って食べ歩き。
まだまだ清水さんの楽しみは終わらない。はずだった。
ある程度出店をぶらぶらとした後に近くの駐車場で集まって全員顔を見合わせた。
「どうする?」
メンバーが一言。
どうするってなんだ。
「ぶっちゃけ何かやることある?」
あるだろう!まだ!京都に来てまだ3日目だぞ!
「じゃあ、ここからは自由行動で。」
「オッケー」
何がオッケーだ。何のために11人で来たのだ。人数の多さ、俺以外の全員が感じている既視感はいとも簡単にグループを解散に追いやった。バラバラに散るメンバーたち。僕らは麦わら帽子をかぶった海賊団のように、また再会する意味があるのかすらもう分からなかった。
とりあえずそんなことは置いといて、コナンと「檸檬」の聖地巡礼に僕は一人向かった。
もうすでに全員で旅行という感じが薄れて来ているがまだ間に合うと僕は信じた。金閣寺もあるし、僕のメイン稲荷大社も残っている。まだまだみんなで楽しむチャンスがあるはずだ。僕はわずかな希望に望みを託した。
斬新な自由行動が終わり、夜は近くの居酒屋で飲むことになった。もともと僕はお酒が弱く旅行の疲労もあってかもう潰れかけていた。へべれけ状態だった。
先に家へと戻り、気づけば1時間がたつがまだ誰も戻ってこない。
2時間と経つが誰も戻ってこない。これはおかしいと思い外をわずかな意識で文字通りふらふらとすると、楽しいそうな奴らが帰って来た。
「鳥居すごかったねー。」
「夜はエモかったね!何か。」
とりあえず抽象的な感想が聞き取れたが、結論から言うと俺が一番楽しみにしていたところにこいつら勝手に行きやがった。
もう藤原竜也ばりに叫んでやりたかった。最後はみんなでと思っていた俺がバカだった。僕が酔い潰れていたのが悪かったんですけど、先に帰ったのは僕ですけど、違うじゃんそれはー。と手を後ろに回して可愛い子ぶった女を装い殴ってやりたかった。
そして、友人の一人が俺がガッカリしている姿を見て「あいつらマジでないわ」と怒りながら号泣。
「それは僕の役割なんですけど」…と友人の泣く姿に僕は急激に冷める何かを感じて、むける矛先も感情もどこか見失ってしまった。
そして、多くの喪失感と程よいアルコールの酔いに身を任せてその日は眠りについた。

最終日。稲荷大社に行けなかった僕に気を使ってもう一度千本鳥居を見に行くことになった。しかし、彼らは休日の人の多さ、圧倒的既視感に心も体も奪われたのか足取りも重く、笑顔の一つもない。
僕に道順を説明してくれる優しさを時折見せてくれるが、「この先1時間も登るんだぜ。きついわ」明らかに行く必要はないと僕にジワジワと伝えてくる。ひとり進む僕。帰りたい10人。数の暴力。僕は明らかに悪いことをしている人のようだった。ああ、これが民主主義か。
気を使い果てた僕は、「行こうか」と一言。
元気に稲荷大社を11人仲良く後にして、そのまま帰宅しましたとさ。

ここまで言うと、明らかに愚痴を書いているようにしか思えないんですが、僕は彼らがとても大好きです。
この旅行の思い出は、帰りのサービスエリアでオロナミンCが15本出てきたことです。
あれってたまにおきますよね。


おしまい。


もっと朝井リョウみたいな面白いエッセイを書けたらいいんですが、技量不足ですね。練習します。

ここまで読んでくれた人がいたら。本当にありがとうと言葉を送りたいです。

世良滉介