実話怪談 #52 「石段」
これは二十代前半の女性、小山さんの談である。
小学生の頃の話だという。
当時住んでいた実家の近くに二十段ほどの石段があった。両側に古い民家の壁が迫っているせいか、昼間でもどことなく暗い感じのする石段だった。
友達の家に遊びにいった帰り道のこと。
小山さんは帰路の途中にあるその石段をおりはじめたのだが、数段おりたところで足を止めて背後を振り返った。後ろに誰かいるような気がしたのだ。
しかし、振り返ってみても、誰の姿も認められなかった。
(気のせいかな……?)
そう思って前に向き直ったものの、やはり背後に誰かいるような気がする。また足を止めて振り返ってみたのだが、さっきと同じで誰の姿もなかった。
(おかしいなあ……)
小山さんは不思議に思いつつも前に向き直った。
そうして再び石段をおりようとしたときだった。
いきなり強い力で背中をドンと押された。
小山さんはその衝撃で足を踏みはずし、石段の一番下まで派手に転がり落ちた。
身体のあちこちに強い痛みを感じながらも、小山さんは後ろを振り返って石段を仰ぎ見た。すると、石段の一番上に女の子が立っていた。セーラー服を着た中学生らしき女の子だった。
状況からしてあの女の子が、小山さんの背中を押したのだ。
(でも、どうして……)
わけがわからないでいると、突然女の子は意地悪そうに笑った。
「あはは、あはっ、あははは」
そして、足もとからすうっと消えていった。
「え……」
小山さんは石段を見あげたまま呆然としていたが、だんだん異常さに気づいて怖くなってきた。生きている人間が今のように消えるはずない。
小山さんは慌てて立ちあがると、逃げるようにしてその場から走り去った。走っている最中に誰かの視線を背中に感じたが、振り返って視線の主を確かめるのは怖かった。
家に向かってとにかく駆けた。
以後の小山さんは女の子が怖くて、石段にはいっさい近づかなかった。だが、他の誰かが転がり落ちたという話をちょくちょく耳にした。落ちるのは決まって小山さんくらいの子供であり、その子たちのほとんどがこのように主張した。
中学生くらいの女の子に背中を押された。
女の子は意地悪そうに笑いながら消えていった。
「あはっ、あははは」
*
それから十年以上も経っているというのに、今でもときどきその石段から子供が転げ落ちるという。
(了)
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