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実話怪談 #49 「ギィィ……」

 二十代前半の男性、前田さんのだんである。

 中学生のときの話だという。
 それまで住んでいた2LDKのマンションから、4LDKのYマンションに引っ越した。中古のマンションではあったものの、古びているという印象はなく、なにより部屋がふたつ増えたのがよかった。引っ越し前には叶わなかった自室を与えてもらった。
 
 Yマンションに住みはじめてから一週間ほどが経った頃だった。前田さんは夜の十時頃に自室のベッドに寝転んで漫画を読んでいた。すると、奇妙な音が耳に届いたという。

 ギィィ……、ギィィ……、

 金属同士が擦れ合うような不快な音だった。Yマンションの隣に小さな児童公園があり、そこから聞こえてくる音らしかった。
 不快な音でもすぐにやめば気にもならないが、音はずっと鳴り続けている。

 ギィィ……、ギィィ……、

 前田さんはベッドに漫画を置いて起きあがると、部屋の隅にある腰窓に近づいていった。その窓を開けて下を覗けば、隣の児童公園が見える。

 昼間は子供の歓声が聞こえる児童公園も、夜間である今はしんと静まり返っていた。公園の奥には常夜灯がぽつんとひとつ立っており、オレンジ色の薄暗い光の中でブランコが揺れていた。
 その揺れに合わせて例の不快な音が響いている。ブランコの鎖が立てている音らしい。

 風に吹かれて揺れているのか、ブランコには誰も乗っていなかった。しかし、風が揺らしているのであれば、しばらくすれば自然に止まるはずだ。

 ところが、ブランコは不快な音を伴いながらずっと揺れ続けている。
 まるでひとりでに揺れているかのようだった。

 ギィィ……、ギィィ……、

 前田さんはだんだん気味が悪くなってきた窓を閉めた。窓から離れてベッドに戻っても、音は十五分ほど鳴り続けていた。だが、急にぴたりと音が止まってなにも聞こえなくなった。
 止まる直前に子供の笑い声が聞こえた気がしたものの、きっと空耳だと、前田さんは自分に言い聞かせた。

 一ヶ月ほど経った頃だった。前田さんは母親からこんな話を聞いた。近所の人に教えてもらった話だという。

 近くに六歳の男の子が住んでいたのだが、半年ほど前に病気で亡くなってしまったという。生まれつき心臓に疾患を抱えており、それがもとで幼くしてこの世を去った。

 その男の子は、Yマンションの隣にある児童公園によくきていたらしい。しかし、心臓が悪かったために、公園にやってきても、走りまわって遊ぶようなことはなかった。
 ひとりでブランコに乗って、ギィィ……、ギィィ……、と揺れていたそうだ。

     (了)


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