強くなるための部活動マネジメント(戦術編)
※アメブロに書いていた記事を加筆・修正しnoteに移植しました。
1.はじめに
私は高校の時は野球部で、アメリカンフットボールを始めたのは大学からでした。
高校の時は進学校(開成高校)、大学は国立大学(東京大学)でしたので、部員の中で野球やフットボールをやるために入学してきた人はいませんでした。
高校ではグラウンドを週1回か2回くらいしか使うことが出来ないという環境で、大学では入部したほぼ全員がアメリカンフットボール未経験者からのスタートという環境でした。
ただ、高校3年時には東東京大会ベスト16に進出し(甲子園出場校に負けました。)、大学の時は関東学生1部リーグで4位という、環境の割にはそこそこの強豪と同じくらいの成績を残すことが出来ました。
こういった経験と、大学の学部の時に学んだ生産工学(経営工学)、そして大学院MBAや博士課程で学んだ組織論、現在の本業であるスポーツを担当する大学職員としての経験を合わせて、「人材的、環境的に不利なチームが勝つにはどうするべきか」について考えがまとめられそうだと思いましたのでこういう記事を書こうと思いました。
前述したように私は決して全国優勝をしたとかそういう経験をしていませんので、何か素晴らしい方法を提唱するとかそういった事ではなく、いわゆる一つの「弱者の兵法」だと思って頂けると幸いです。
簡単に言えば、100の力をもったチームを130の力にする方法ではなく、
30の力を持ったチームを110くらいにするための考え方だと思って頂ければと。
もちろん、30のチームを、110を超えて130まで持って行く方法もあると思います。
かつての京都大学アメリカンフットボール部ギャングスターズは社会人も倒して日本一になっていましたので、まさにそれを実現していたと思います。
しかし、私はその域まで行くことができませんでしたので、今回まとめた内容だけでは130まで行くには足りないと思いますが、何かしらのヒントになってもらえればいいなあと思って書きます。
2.シリーズ構成
このシリーズは大きく5つに分けて考えをまとめました。
①戦術編(今回)
キーワード: 環境が不利なチームは環境に恵まれたチームと同じ戦い方をしても勝てない
②練習運営編
キーワード: 練習効果 = 回数 × 1回当たりの質
③システム構築編
キーワード: PDCAサイクルの回転速度と同時回転数を最大化
④文化構築編
キーワード: PDCAサイクルの1回転当たりの質を最大化
⑤人材獲得編
キーワード: 共感の獲得
主に高校野球の経験は①と②に、大学フットボールの経験は②~⑤に反映されています。
(アメリカンフットボールは戦術について突き詰めて考えるのは当たり前なので、あえて①には入れませんでした。)
3.戦術編本編
まずは戦術編です。
ここでいう戦術とは、どんなスタイルで戦うか、のことです。
戦術を考える上で重要なのは、
「環境が不利なチームは環境に恵まれたチームと同じ戦い方をしても勝てない」
ということです。
ではどのような戦い方をするべきなのか、これは各チームの状況や対戦相手によって変わってきますので一概にこうすべきだ、とは言えませんが以下のポイントが考えるヒントになると思います。
(1) セオリーの前提条件を知る
(2) 捨てる部分を決める
(3) 弱点をごまかす
(4) スタイルを信じる
この戦術編はほとんど私の高校野球からの経験によるものであり、すでに開成高校野球部の取組は取材されて本として出版されているのでさらに詳しい事を知りたい方は
高橋秀美氏“「弱くても勝てます」-開成高校野球部のセオリー-”(新潮社)
や
山岡淳一郎氏“開成高校野球部の「弱くても勝つ」方法”(SB新書)
を読んで頂ければと思います。
(ただ、OBとしては開成高校野球部の戦い方は「弱くても勝つ方法」ではなく「下手でも勝つ方法」の方が正確だということを主張したいですが笑)
4.(1)セオリーの前提条件を知る
野球における送りバントは「しっかりと守備ができるチーム」であることがその作戦を選択する上での前提条件となります。
高校の時は、前述したようにグラウンド練習が週1回か2回しかできませんでしたので、送りバントに必要な「しっかりと守備ができるチーム」にはまずなれません。
送りバントをするための前提条件が崩れていましたので、送りバントはチームとして捨てていました。
環境が不利なチームが戦うには、このようにセオリーに盲目に追従するのではなく、その前提となっている条件をしっかりと認識してセオリー通りにするべきなのか、セオリーを捨てるべきなのかを判断することが重要です。
5.(2) 捨てる部分を決める
開成高校野球部は「送りバント」と「難しい打球をとる技術」を捨てていました。
送りバントを捨てた理由は前述したとおりです。
難しい打球をとる技術を捨てたのは、1試合にその技術を1回使うかどうかなのにも関わらず習得に非常に多くの練習量が必要だからです。
そのために膨大な練習時間を割いていては、週にわずかしかグラウンドを使えない環境では他の練習が出来なくなってしまいます。勝つために練習をするのであって、難しい打球を取れるようになるために練習しているわけではないのです。
守備練習は、正面に近い簡単な打球だけミスなく処理をする、これができるだけの必要最低限の時間しか割きませんでした。
ただ、この技術だけで大体のアウトはとる事ができます。
(実際には正面の簡単な打球も完全にミスをせずに処理できるレベルまでにはいってないのですが・・・笑)
6.(3) 弱点をごまかす
開成高校野球部は前述したとおり、バントと難しい打球をとる技術を捨てたので、接戦の展開になったら勝つことができません。
勝つためには接戦に弱いという弱点をごまかす必要があります。
どうやってごまかしていたかというと、「乱打戦の荒れ試合に持ち込む」という作戦でした。
もっと言うと、「守備でボロが出ないうちに大量得点してコールド勝ちする」ということを目指していました。
送りバントと守備を捨てた代わりに特化したのは「バッティング」と「試合で勢いを持ってくる技術」です。その2つを最大限に生かすことによって大量得点を狙っていました。
あまり細かくは書きませんが、とにかく打ちまくって、相手の動揺を誘い、ミスに付け込んでドサクサに紛れて本来の実力以上の得点をとってしまおう、というやり方でした。
これにより弱点が露呈する前に勝ちきってしまおうとしたのです。
7.(4) スタイルを信じる
これまで述べたことを踏まえて自分のチームだけの新しい戦術を考えたとしても、チーム全員がそのスタイルを信じていなければちゃんと遂行することができません。
高校の時、はじめは私も同期もドサクサに紛れて点を取りまくってコールド勝ちを狙うなんて滅茶苦茶な戦い方に疑問を持っていました。
その結果、良い試合をしても接戦で負けることがほとんどでした。
ただ、とにかく点を取りまくると腹をくくってやってみて、試合で結果が出始めると、自分たちの勝ち方はこれしかないとみんなが強く思い始めるようになりました。
高校3年の時はそれがチーム全体に浸透している状態となることができて、練習試合の勝率は9割ほどだったと思います。(ただし、強豪校とは練習試合を組ませてもらえないので普通の高校との練習試合がほとんどです。)
このように、新しい奇抜な戦術で結果を出すには、チームとして全員がそのスタイルを信じる必要があります。
8.さいごに
以上が強くなるための部活動マネジメント【戦術編】です。
注意点としては、「環境に恵まれたチームと違う戦い方をしても勝てるとは限らない」ということです。
同じ戦い方をする場合と、違う戦い方をする場合とでは後者の方がまだ勝てる可能性がある、くらいに受け止めて頂ければと。
この当時の環境では、このやり方でも強豪校に対する勝率はどんなに上げても10%だったと思います。
しかし、普通の戦い方をしていたら勝率は限りなく0%に近いままだったでしょう。
次の練習運営編以降は、その確率を上げるための考え方となります。
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