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スポーツベッティング(賭博)で部活動改革

1.はじめに

教員の負担減や少子化に伴い、部活動の持続可能性が危うくなっている中で、部活動を学校から切り離し地域化する、という「部活動改革」が数年前から謳われています。

しかし、様々な課題があり中々方向性を見いだせていませんでしたが、現在の経済産業省の研究会の中で興味深い提言をまとめている状況だったので、noteに整理してみます。

それは
「スポーツベッティングによる資金創出によって部活動改革の資金面の課題をクリアする」
というものでした。

当該内容をTwitterで投稿したら少し反響がありました。

なぜ、部活動改革が文部科学省でもスポーツ庁でもなく、経済産業省で検討されているか、というのも非常に興味深いのでそのあたりも書きたいと思います。

2.部活動改革とは

部活動改革が叫ばれる背景には非常に複雑な複数の要因があります。ここでは3つの視点をご紹介いたします。

①教員の過重労働
まず、現在部活動改革が急がれている一番大きなポイントは教員の過重労働だと思います。
通常の教育活動だけでも教員にとって大きな負担で、さらにプラスして部活動の指導などをして土日が無くなると、本当に教員の休みがなくなってしまいます。そして、法律によって教員には残業代が出ない、という非常にブラックな状況です。
現在、土日の片方は休みにする、等改革が行われていますが、まだ道半ばのようです。

②少子化によって部活の存続が不可能
子どもの数が少ない学校では、そもそもチームを組めかったり、顧問の数が足りず部活動を絞らなければならない、という状況があります。
部活動を地域化することによって、複数の学校でチームを組む、ということでスポーツの普及の草の根を維持するべき、という観点があります。

③指導者のスキル・資質
学校の中にその競技の指導の先生がいない場合、専門外の先生が指導をすることになります。これにより、子供へのスポーツ環境に格差が生じてしまいます。また、これは部活動に限りませんが、指導者が体罰やパワハラ等をする人であった場合に、部活を辞める、という選択肢しか残らないことになります。体罰やパワハラとまではいかずとも、勝利至上主義に行き過ぎた部活、もしくはその真逆となった場合、その競技をしたくとも、部活に入りたくない、という状況も生まれます。

上記の背景より、部活動を学校から切り離し、地域化する、という方針が定められました。
文部科学省「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」から抜粋です。

3.経産省の部活動改革研究会の方向性

そして、現在上記の部活動改革のカギを握っているのは経済産業省の「地域×スポーツクラブ産業研究会」です。

なぜ、部活動改革が文部科学省やスポーツ庁でなく、経済産業省で議論されているのか、疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。

もともとこの研究会は、地域スポーツクラブ産業を活性化するための政策を協議する、という趣旨で始まったようです。ですが、議事要旨を読むとやはり、地域スポーツクラブ産業の活性化のためには部活動の地域化がカギであり、部活動の地域化の課題をどうやって解決するか、という方向性で議論が進んでいます。

最新の部活動の地域化のイメージ図は以下となっています。

これまでの部活動の「学校単位」でのシステムを地域化することによって「クラブ単位」に置き換えることにより、部活動改革と地域スポーツクラブの産業化を図ろう、という内容になっています。

しかし、この部活動の地域化には1つ大きな課題があり、これまで進まなかった部分があります。

それは「スポーツ環境格差」です。

部活動は非常に安価で子供たちがスポーツを享受できる仕組みでした。これを地域化し、受益者負担に一気に持って行ってしまうと、家庭環境によって、スポーツができない子供が多く発生してしまうことが想定されます。

ですので、スポーツ環境格差が生まれないよう、地域化してもある程度安価でスポーツを享受できる仕組みが必要となりますが、全国の部活動となるとその規模が大きく、財源がありませんでした。

この経産省の研究会では、その財源について興味深い言及がありました。

それはスポーツベッティングを解禁することにより、財源確保しよう、というものです。

4.スポーツベッティングとは?

簡単にいうと、スポーツによる賭博のことです。

現在日本では、公営ギャンブルとして認められている、競馬、競輪、競艇、オートレース以外賭博をすることは違法です。

しかし、近年、モバイルの普及などDXが進むにつれ欧州や米国で大きな産業になりつつあります。欧州ではスポーツベッティングの会社がプロスポーツクラブのスポンサーとなっていたり、プロスポーツにとっても間接的ではありますが大きな収入源となっていたりします。

国からスポーツ産業15兆円計画が打ち出されてから、政策の中でトーンダウンしてきている印象はありますが、15兆円達成の大きな布石にもなりつつあります。

スポーツベッティングの最新の動向については、色々な記事がありますので、そちらをご参照ください。

今回、経産省の研究会の中では、

①スポーツベッティング解禁のためには大義が必要だ。 ⇒ 収益を部活動の地域化の財源にすることによって公益性と大義を持たせよう。
②部活動の地域化に財源が必要だ。 ⇒ 大きな可能性があるスポーツベッティングと一体化したらどうか。

①②のどちらの流れも見て取れますが、部活動改革(地域化)をスポーツベッティング解禁によって達成しよう、という中身になっています。

スポーツベッティングによって、財源としてどのくらい確保できるのかを試算してみます。

totoの助成金総額が180億円ですので、野球やバスケットボールのベッティングも解禁し、単純計算で2倍の360億円が助成金として活用可能とします。
全国の中学校が約1万校なので、1校当たり360万円。
1校あたり月会費5,000円×12ヶ月×60人分。

これだけでは足りない気がしますが、中学校1校当たり60人分の財源を確保できるのは非常に大きいのではないでしょうか。

5.残された課題

財源という1つの大きな課題が仮にスポーツベッティングによって解決できたとしても、部活動改革にはまだ色々な課題があります。その中でも個人的に重要だと思うのは「ガバナンス」です。

部活動であれば、学校の中の組織ですので、校長が部活動に対して管理監督をする役割になります。指導方針や学業との両立、それこそ体罰やパワハラ等、著しく問題が起きた場合は校長が介入して解決を図ります。

地域化したときに誰が問題を解決するのか、をしっかりと整理しておかないと、指導者の権力が著しく大きくなり、地域化したとたん問題が発生する可能性があります。

アメリカのスポーツのように、地域の保護者や学校も地域化した部活動のガバナンスに入り込んで改善を図れるようにする仕組みと、それらのハブになるスポーツアドミニストレーターのような存在が今後必要になるのではないかと思います。

アメリカの高校スポーツについては下記記事ご参照下さい。

6.さいごに

色々な文脈から地域のスポーツにはディレクター・プロデューサーのような存在が今後非常に重要になってくると感じています。

スポーツベッティング解禁するのかはわかりませんが、部活動の地域化は協力に推し進めている部分と思いますので、その際に現場で問題が起こらぬよう、ディレクターとしての機能を準備していきたいと思いました。

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