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知識は爆発する—西郷克彦『間違いだらけの学習論』より

「なるべく覚えるものは少ない方がラクでいい」

「漢字テストの範囲は狭ければ狭いほど覚えるのが簡単だし、歴史の知識問題は時代が狭ければ狭いほど覚えやすいだろう」

私たちは一般的に、「何かを学習する時、学習対象が少なければ少ないほどやさしい」と考えがちだ。

西郷克彦『間違いだらけの学習論』では有名なひとつの実験結果が紹介される。【記憶力】の調査のために、大学生に以下の問題を解いてもらったという。

問い:次のものを年代の古い順に並べてください。
①墾田永年私財法②三世一身法③荘園の成立④班田収授法 

正答は、4-2-1-3である。口分田を生きている間だけ授け、死ねば国家に収めるという「班田収授法」、開墾した土地の三代にわたる保有を認める「三世一身法」、開墾した田は永久に私有してよいという「墾田永年私財法」、貴族や寺社の私的な領有地である「荘園の成立」を、この順序に並べればよいのである。

この問題を正答できなかった人の学習方法には、年代をただ語呂合わせで覚えるという方法で学習したり教えられたりしてきたのが多かったことが分かったという。それに対して、正答した人たちの多くは、公地公民といった古代土地制度の規制が緩やかになり、徐々に崩れていって荘園制が成立したという過程の中でのそれぞれの出来事としてこれらを捉えるという方法で学習したり教えられたりしたという。

この人たちは、入試から時間が経っても、全員が正答できる。ここで注意しておきたいのは、「班田収授法」「三世一身法」「墾田永年私財法」「荘園の成立」だけを学習しているのに対し、正答できた人はそれに、「古代土地制度は徐々に崩れていって、荘園制が成立した」ということをつけ加えて学習しているということである。

つまり、学習対象の量が多いものの方が、結局は学習しやすかったということになる。後者の方は、知識は増えても、それぞれの知識を意味づけして覚えていたから、知識が定着した。意味づけは専門用語でいえば「有意味化」という。

ここから分かることは、「学習対象の量は増えても、有意味化して学習したほうが、結局は、よく学習できる」ということである。 

学習を進めれば進めるほど、知識の有意味化がしやすくなり、知識が定着する。知識が定着すれば多くの有意味化のパターンを生み出すことができるようになり、ますます有意味化がしやすくなる。ますます知識が定着する。また多くの有意味化のパターンが…。このループに入ってしまえば、知識は指数関数的に増えていく。

知識は、爆発するのだ。

有意味化の快感は、知識の定着を促し、更なる学習を促進する。
どうせやるなら、やり切った方がいいのである。

中途半端な学習では、知識の爆発は起こらない。

どうせやるなら、爆発するまで、突き抜けよう。

西郷克彦『間違いだらけの学習論』より

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