三十路インタビュー Marie: 外国人ボランティア


今回インタビューをさせてくれた彼女のお仕事は『ドイツ国外からハレに来るボランティアの若者の受け入れ窓口』です。
 
彼女は鋭い目をする時がよくあって、少し恐い。 しっかりと話を聞いてくれるし、とても早口。 名前はMarie、左利きです。
 

※このインタビューをさせてもらったのは私の実習先Friedenskreisという団体で、この団体については、、、https://note.com/kosokosolife/n/na89dbd23727d  

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《簡単に自己紹介をお願いします》
 
Marinaです。大学では南スラブ学と社会学を勉強しました。 
 
主に文学における言語について学んだ。わたしの卒業論文のテーマは『スラブ文学におけるシンパシー(共感、共感性) とタブー』について。ある小説家にスポットを当てて、どうやって彼がそのキーワードについて描いたのかをまとめたの。そしてユーゴスラビア社会主義連邦共和国の終焉についてかな。
 
今も大学院に在籍していて、来年修士論文を書き終える予定よ。テーマはセルビア人小説家の作品について。その小説は2003年のセルビア共和国のゾラン・ジンジッチ首相が暗殺されたことを題材に上げているの。この分野や研究テーマを選んだのは、高校卒業後に海外ボランティアに参加したことが理由かな。その時の経験がきっかけでスラブ学を学ぶことにした。

 

(※このセルビア共和国の首相ですが、実に興味深いです。興味ある人はどうぞ。彼の言葉も写真の下に載せてます。Wikiですが→https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BE%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%83%E3%83%81)
 
 
  (日本語訳)誰かが、私を消し去ることによって法の執行を阻止できると考えるならば、彼らは大きな誤解をしている。なぜなら、私は体制そのものではないからだ。政治家の一人や二人殺したところで、体制は機能し続けるし、彼らの罪を消してしまうことなどできないのだ。—  Политика 21. фебруар 2003. и Глас Јавности 24. фебруар 2003. године.』
 
 殺された彼のお言葉だ。彼はマルクスの考えについてドイツのコンスタンツで哲学ドクターを取っている。こういう人が一人いるのといないのでは社会の発展の仕方も変わっていくだろう。。。
 


《昔、海外ボランティアを?具体的に何を?》
その時はウクライナのキエフに一年滞在して、お年寄りの訪問介護をしたの。彼らは第二次世界大戦の時に強制労働者としてドイツに連れて来られたこともあって、少しドイツ語を話すのね。ドイツの道路整備や強制収容所を建てるための肉体労働をしたらしい。そして戦争が終わってウクライナに戻ったら、自分の国はソビエト連邦になっていた。今度はソビエトの旧敵国で働いていたと言われ、『裏切り者』として10年程牢屋に放り込まれていたという話も聞いたわ。
 
 
《あなたのここでの仕事は何ですか?》
2015年の春から働いていて、ハレに来る海外ボランティアの生活の準備とフォローすること。 わたしたちのパートナー団体は主にコソボ紛争で被害のあった国にある。でも昨年はインドからもボランティアが来たし、来年には新しくルアンダからも来ることになっているの。
これは不安定な社会情勢の中で市民社会を作り上げる一つの動きで、本当に多くの文化や若者の活動があって、オモシロい企画がたくさんあるの!
 
   
《海外ボランティは重要だと思いますか?》
もちろん!海外ボランティアは本当にクールで素敵な経験が得られる。高校を卒業した後に、自分の興味がある世界や分野の仕事を体験することができるし、その経験を通して将来の展望がはっきりすることも多いわ。当然だけど新しい言葉を習ったり、新しい土地の歴史を知るきっかけもあるから、その経験によってその国や人や文化を身近に感じたり興味が生まれることある。

(※彼女が海外ボランティアをしたときに仲介役をしてくれた 団体『Aktion Sühnezeichen Friedensdienste 』は直訳すると『罪を改める為に行動する平和の仕事』ということで、いまいちわかりやすく訳せない。この団体は第二次世界対戦後の1958年にベルリンで創設され団体で、HPで活動や歴史を見ると『戦後ドイツの戦時中に対してのドイツの行いを市民レベルで謝罪の態度をあらわし続けている』。そしてハッキリとドイツが第二次世界大戦で攻めた多くの街へ直接赴いて手を貸し、その罪を償い、そして新しい関係を構築すること。つまりそういったボランティアを送り出すというもの。その土地に行き、ドイツ軍が破壊したユダヤ教会や街の建物を再建したり、平和の塔を建てたりするという。この団体のHPには当時の実際に色んな人や団体に一緒にやろう、と呼びかけしたテキストを見ることができる。そこには、わたしたちはまずポーランド、ロシア、イスラエルから始める。ともハッキリ明記してある。 参考 Aktion Sühnezeichen Friedensdienste HP 英語, ドイツ語→(https://www.asf-ev.de/en/start/)
 
 
 

《仕事に対する動機は?》
わたしはこの『海外ボランティア』自体のアイディアがとても気に入っているし、自分の経験からも大事だと思ってる。この世の中にこういう経験できる場所や企画がもっとたくさんあれば、それは素晴らしいことだと思う。他には、海外ボランティアでハレに来た同年代の若者をフォローし、引き続き成長を見れることが単純に楽しいし、とても興味深い。
 
 
《仕事で気に入っていること、気に入らないこと?》
ボランティアでハレに来た若者たちと連絡を取ったり、企画のオーガナイズをすることはとても気に入っているわ。
気に入らないことは…、書類業務。色んな類いの書類があって、かなりごちゃごちゃして…。 色んな団体に連絡をすることとかかな。あとは仕事量と時間があわないこと。どうやったらこの仕事量をこなせるのって感じね。笑
 
 
 
《仕事を通して得た素敵な経験を教えてください》
まずはボランティアで来ている人たちとたくさんの個人的な会話が出来ることかな。 彼らがこの町でボランティアをしている場所を訪問して、相談を受けたりする時なんだけど彼らはドイツ語は話せないから、勘違いや問題が起きることがあるの。だけど、最終的に三人で話し合ったりすると、その関係が改善するわ。そういうのを見るのは素敵ね。去年のことだけどハレに来ているボランティアの彼らと一週間かけて、様々なワークショップをして、彼らが抱えている問題の解決について話し合ったりしたの。最初はみんな、一週間もかかるワークショップにあまりやる気が無かったんだけど、それぞれが問題を抱えていて、たくさん話し合って、最終的には『ワークショップに参加して良かった』って言って帰っていったの。
 
あと、昨年私たちのパートナー団体(バルカン半島の様々な国)をハレに招待してみんなで情報交換の場を作ったの。まさに一週間みっちり話したんだけど、それぞれの団体は来た国が違うこともあったから、政治的な理由で今でも互いの国に変なイメージを持っていることが多かったの。
でもちゃんと座って話すことによってまた新しい関係が築かれていったの、それを見れたことは素敵だったわ。
 
 
 
《ドイツに来たボランティアの人と、現地の受け入れ先における言葉の問題の解決策??》 
長いプロセスを必要とする問題だから、簡単には解決できないわよね。何と言っても受け入れる側ではドイツ語がわからない人に仕事の指示しないといけないのだものね。 つまり、そういった問題を通してその受け入れ団体も学ぶのよ。(このボランティアの受け入れ先は幼稚園や障害者施設、養護施設、学童などがある) もちろん上手くいくこともあるけど、上手くいかないこともある。だから、わたしたちはその受け入れ団体にもワークショップをしたりもするの。受け入れ団体の中には差別をする人もいるしね。幼稚園にいる子や、その親の中にもそういった人はいるのよ。
 
 
  《あなたのテーマであったシンパシーとタブーについて?》
シンパシーやタブーが、実際にどういう風に小説の中で描かれているかということね。そこに書いてある言葉が読み手にどんな意識やイメージを与えているかということ。実際にどうやってシンパシーが作られていくのかということ。 もう一つは、シンパシーが時にブロックされるということね。つまり、人は基本的に誰に対してもシンパシーや同情の心があるはずなんだけど、時々その行動や思いが全くなくなることもある。そのことについて書いたわ。そして、逆になぜ同情をしたりするのか、ということかな。
 
 
《ドイツでタブーはある?》
そうだね、『ナチス』はずっとタブーみたいなものだった。けど残念なことに最近はまた、ナショナリストというテーマが少しずつ話題になってきてるかな。。あまりいいことではないね。 
他には『障害者』についてもタブーなことが多いと思うし、個人的な興味だと『性』についてのこともタブーに近いのではと思う。文学(本)はそういうタブーになっていることを書いたり、話したりできるチャンスがある。もちろん、そこに様々な表現方法があるからおもしろい。

だから文学を研究するのはとても楽しいわ。

 
 
 
《どんな社会問題に関心がありますか?》
個人的な興味は『女性運動や性差別』かな。例えば、若い女性が仕事を探すのが難しいこととか。このテーマは重要になってきている。なぜかというと、世の中が全体的に保守的になってきているから。男と女が同等の権利を持っているというのも自体が男目線だと思うし、つまりそれは、既に特権を持っている側が言う台詞よね。
もちろんその反面、女性でも家にいたいとか昔の女性像の様に外で働きたくない人もいるわけだしね。。。
わたしは時々そういう勉強会に参加したり、企画をしたりしているの。離婚した人がどうやって家族をつくっていくのかとかね。昨年は性同一障害の男性で(体は女性)人工的なペニスを付けた人の話も聞いたわ。正直、こういうことは今もタブーかな。タブーのテーマは誰も話さなければ、さらにタブーになる。なにしろ社会では、結婚したり安定した関係を築く方が重要とされてるからね。これは資本主義と大きな繋がりがあるのよね。
 
 
 
《あなたのこれからのプラン?》
わたしは今産休の代替要員として働いているんだけど、その人が戻ってきても続けてこの仕事をしたいわ。2年近く前から始めたけどこの仕事への理解も含めてまだ慣れなければならないし、それによって空いた時間をもっと自分に使いたい。今はまだ仕事も新しいことが多いから、5年程は今やっていることを学んで、その後、新しいことを始めたいな。 新しいことを始めたいけど、ここでは常に新しいことが起っているからね。笑
 
 
 
《あなたにとって幸せとは何ですか?》
・興味深くておもしろい人とコンタクトを持つこと。
・お互いに大切に思って、信用して、助け合えること。
・音楽を聴いたり、文化や芸術に触れたり、自分達の社会についてのイベントや勉強会に自分の時間を費やしす。そして、そのこと自身を楽しむこと。
 
 

 
 

《あとがき》
ドイツで色んな企画を見てきて、これいい!と思うもののこの『海外ボランティア』。『海外』でボランティアをするというのは『国内』でボランティアするのとは違う。ボランティア自体にもとても意味あるものだが、海外でボランティアができたら、それはそれは視野も広がるし他の文化やその文化の個人にも知りあえる。 そして一年間という期間。
日本でこの企画が社会に広まる為には、まずは高校や大学を卒業した後に大きな社会の枠組みから一度踏み出さなければならない。それは勇気のいることだけど、社会を学んだり知り合う時間が必要な人はいる。そしてもちろん受け口も必要。
 
こういった社会経験が出来る仕組み、企画と『人の理解』が必要。(最後の人の理解はアンダーラインです。)そのためにはまず始めるしかない!ですね。
 


この三十路インタビューについて→https://note.mu/kosokosolife/n/n6d359d08e7e0  

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