鴨志田農園表紙

有機堆肥で世界を変える鴨志田農園

私が生まれ育った大阪府泉佐野市、小学生時代は田畑が広がっていた。登校途中、里芋の葉っぱにキラキラ光る朝露を集め、下校時は田んぼで泳いでいるカブトエビを捕まえた。作物が育つ様子を見て育った私は、子どもにも土と身近にいて欲しいと思い、ネットで農園を調べた。すると、無農薬で野菜を育てている『鴨志田ファーム』が近所にあることがわかった。


農作業体験ができるということで、早速予約、お邪魔した。JR三鷹駅、南口から徒歩約20分。落ち着いた住宅街の中にあり、一見ここに農園?という感じ。だが、コインロッカーのような野菜の無人販売所を抜けると瑞々しい畑があらわれる。懐かしい土の香り!と、ゆっくり感動に浸っている間もなく、子どもはズンズン先を行く。うっかり大切に育てておられる作物を子どもが踏み倒しはしないか、とハラハラしながら追いかけた。無邪気に「これは何?」と作物を指差し、農具や小型のショベルカーにも興味津々。


つい最近は、じゃがいも掘りに参加した。民話『おおきなかぶ』よろしく、親子で力を合わせて「うんとこしょ、どっこいしょ」で収穫。で、今回は、そんな豊かな体験ができる『鴨志田農園』の代表、鴨志田純さんにお話を伺った。


自然がいっぱい!

鴨志田さんは、多くの子どもがそうであるように野菜があまり好きではない小学生だった。食べるのは苦手だったが、学校が終わると家の畑でよく遊んだ。時には、父親の農作業を手伝い、ありがたく手にした500円で、お菓子を買っていた。お菓子を食べながら、「働くってこういうことなんだ」と、思ったそう。夏休みには、母親の勧めで自然体験教室に。長野県川上村の山中で火をおこしてキャンプをしたり、東京の高尾山では滝修行。


ラオスで見たもの

中学ではパソコン部とボランティア部に所属。ボランティア部では応急救護の合宿に行くなど精力的に活動。そのがんばりを顧問から認められ、中学2年生の時、青少年赤十字派遣授業でのラオス行きを勧められる。高校生に混じり面接を受け、見事、ラオス行き8人の1人に選ばた。ラオスでは、日本で集めた支援物資を贈り、献血センターや学校を見学。日本では当たり前と思っていたことが、そこにはなかった。学校は雨漏りしており、そのため黒板や机などボロボロ。3人で1冊の教科書を見ていた。


忘れられない言葉

ラオスの方々が歓迎会を開いてくれた。その式典が終わり、バスに揺られていると青少年赤十字事の方が話しはじめた。「彼らは、さっきの歓迎会をしなければ、2週間分以上の食料が買える。このことを考えてみて」帰国後、鴨志田さんはその言葉を胸に、クラスでラオスの話をし、三鷹市芸術文化センターでもまとめたレポートを伝えた。このラオスでの体験がきっかけで、教師になろうと決意。教科は、海外でも共通して教えられる数学を選んだ。


日本、世界をぐるっと一周

大学では数学を専攻し、教員採用試験を受けた。ところが、とある塾の最終面接まで進んだところで、ふとこれでいいのか?という疑問が湧いた。「今しかできないことをやろう!」と3年間モラトリアム期間を設けることに。そして、見聞を広めるためPeace Boatに乗り込んだ。世界30カ国を周り、児童労働の現場やNPOなどの活動を見て回った。帰国後、会いたいと思う人に自転車と青春18きっぷで会いに行った。(今でもその繋がりは耐えることなく続き、鹿児島から魚を送ってきてくれたり、ツリーハウスを作る手伝いに駆けつけたりしているそうだ)


教壇に立つ

モラトリアム2年目のある日、恩師から教員を1人募集していると電話があった。モラトリアムを中止し、数学の教員へと舵を切った。


6代目になる

教員をしながら、様々なボランティアをしていたが、父が急逝。農園を継ぐことになり、教員と農家の二足のわらじ。その道のりは厳しく険しいものだった。幼少期、父親の仕事ぶりを見ていたとはいえ、詳しいことは全くわからず、ゼロからの出発だった。農業の本を読み漁り、農家の人に話しを聞いてまわった。そして、農業を2年ほどみっちり勉強し、2015年『鴨志田農園』が幕を上げた。


現在、鴨志田農園では様々な作物が元気に育っている。江戸東京野菜やハーブ、ロシアの料理に欠かせないビーツなど、あまりスーパーではお目にかかれないものもある。タネを蒔き、作物を育て、収穫。そして、次の収穫のためのタネもとる。


鴨志田農園には人が集まる。鴨志田さんの農業に対する真摯な姿勢、常にアンテナを張り勉強熱心な人柄に引かれ、人がやってくるのだ。集まる人の職業は様々。猟師、映画関係者、事務員、法学部学生などなど。その中のお一人にフォトグラファーAKIHIRO YASUIさんがいらっしゃる。彼が撮られた写真はコチラ3点。

右から1番目が鴨志田さん。


鴨志田農園の周りは閑静な住宅。


「野菜栽培基礎コース受講生」のみなさん。


都市農業の可能性×教育

「形の整ったきれいなもの、値段の安いものを重視する消費者や農薬に頼る農業しか知らない農家の意識を変えていきたい。安心して食べられるものを育てるには、まず安全な土作りが必要です」と、鴨志田さんは誰でも受講できる「野菜栽培基礎コース」を立ち上げた。


現在受講者は4名。講座は全21回。午前は座学。午後は実習。5回目の授業とあってか、互いをニックネームで呼びあいとてもワキアイアイとしている。が、ゆる〜くない。授業のしょっぱなは、前回やったテストの返却からはじまった。


鴨志田さんは、テストの答えを丁寧に説明。そして、前回の授業のおさらいをすべく小テストを配る。その後、プロジェクターや教科書(「畑でおいしい水をつくる 自家製有機堆肥のすすめ」橋本力男・著・北星社)、手製のプリントを用いながらの授業。有機堆肥を作るための材料の量や発酵時の温度など、数値を具体的に示し、誰もが習ったことを再現できるようにとの心配りがある。時折、鴨志田さんから生徒さんたちへ「これにはカバーはかけるんでしたっけ?」など、問いかけがある。一方的にただ教えるのではなく、何がわかっていなくて、何がわかっているのかを丁寧にチェックしながら、授業は進む。


昼休憩、鴨志田農園で採れた種を見せてくださった。片手に軽く乗るほどの、のらぼう菜の種を蒔いたところ、見事に育ち、4リットルの種が採れたそう。写真の丸くぼんぼりのようなのは、江戸東京野菜、砂村合柄一本太葱の種。「大根の種はサヤに入っていて、食べると大根の味がするんです」和やかに、種の話に花が咲いていた。


実習

午後は、床材と堆肥の切り返し。床材に手を入れた生徒さんから「あったかい!」と声があがる。堆肥の切り返しでは、前回服に鶏フンの匂いが染み付くほどだった匂いが、発酵が進み、「ほとんどないね」とみんな驚いていた。


ネパールからのメール

話は、『鴨志田農園』立ち上げ期に戻る。facebook経由でネパールのウサ・ギリという人から1通のメールが来た。「どうして無農薬でこんなにきれいな野菜が作れるのですか?」返事を出すとお礼にコーヒーを送ってくれるという。いいですよ、と何度も断っていたが、「いえいえ遠慮なさらず」と、住所を聞かれた。おっかなびっくり住所を教えると後日本当にコーヒーが届いた。律儀に送ってくれたウサ・ギリさんの好意に感動しながら、コーヒーの袋に貼られていたシールが目に留まる。隣町にもあるカルディコーヒーファームのマークだ。一気に親近感を覚えた。ウサ・ギリさんにお礼がしたい!と思い立った鴨志田さん、ネパールにお菓子を持って旅立った。


ネパールに行くと、ウサ・ギリさんはなんとNGOで学校(注1)を経営していることが判明。京都大学の大学院で児童心理学を学んでいたこともわかった。同じく教育に携わっている鴨志田さん、ウサ・ギリさんと意気投合。ウサ・ギリさんは、ネパールの農家7、8件を見学させてくれた。その時、何かアドバイスをと言われ「肥料を良くしたらいいですよ」と答えたのだった。


再びネパール

ところがその当時、鴨志田さんは堆肥のことをあまり詳しく知らなかった。一旦帰国し、橋本力男先生の元に東京から三重まで月2、3回通い有機堆肥(注2)を猛勉強。ネパールに戻ると、ウサ・ギリさんのお兄さんが経営するゴールデンファームコーヒー農園で堆肥を作って見せた。作って2日後、発酵した堆肥は52.3度に。それに驚いたウサ・ギリさんたちは、「ぜひ有機堆肥について教えて欲しい。ネパールは農業大国。国民の多くが農業に従事しています。国を豊かにするためにも、堆肥作りをしっかりした産業に育てたい」と鴨志田さんに熱い思いをぶつけた。


堆肥化システム

来年の2018年3月、鴨志田さんは友人に鴨志田農園を1年程預け、ネパールに行く予定だ。堆肥化システムを実現するため、すでにゴールデンファームコーヒー農園の近くに2ヘクタールの農地を確保したそう。ウサ・ギリさんと共に有機堆肥を作るための施設を作る。ゆくゆくは、その施設で世界各地から研修生を受け入れアグリツーリズムも行い、世界から大気汚染や土壌汚染も無くしたい、と夢は広がる。


(注1)ウサ・ギリさんがはじめた学校…ネパールの低下層の子どもたちに教育を提供するための幼稚園を開いた。現在では政府から正式な許可を得たセヴァサダン・スクールを運営し、SLC(高校卒業認定試験)ではネパール内ベスト10入りしている。

(注2)橋本力男さんが考案した有機堆肥…材料にC(炭素素材)、N(窒素素材)、B(微生物素材)、M(ミネラル素材)を用いて、微生物の力で発酵分解させて作る堆肥。発酵の温度は60度以上になるため、病原菌や害虫、雑草の種子などもなくなる。


鴨志田農園
https://www.facebook.com/kamoshida.farm/

AKIHIRO YASUI
https://www.facebook.com/akihiroyasuifilmproduction/


発行・テキスト・編集・はまのゆか。写真・AKIHIRO YASUI・はまのゆか・2017年7月6日

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