報道の委縮とフェイクニュース(1)

 ※この記事は、広島大学の講義レポートとして作成したものを、一部を加筆・修正して載せております。講義の担当教員には許可をいただいております。

 先日NHKの東京五輪に関するドキュメンタリー報道が、BPOにより重大な放送倫理違反とみなされるようになった。「東京五輪に反対するデモの参加者を、金銭で動員された」、という字幕を付けて報道したのだ。NHKは五輪を推進する自民党政府とのつながりが強く当局の影響を受けたのでは、あるいは、NHK内部のデモや社会運動への関心の薄さが指摘されている。デモの参加者からは、「番組が反対派への偏見を持って作られた」と批判した(1)。

 「第4の権力」と呼ばれるマスメディアだからこそ、その報道には大きな影響力を持つ。そうである以上、虚偽の報道や誤った情報の扱いはあってはならないが、仮に起こった場合、なぜそうなったか過程を確認し、それをもとに再発防止に努める必要がある。

 一方、テレビによる報道の自由が委縮している、という声が2010年代から上がるようになった。インターネットで誰でも情報を自由に閲覧する、あるいは発信・拡散したりすることが可能になったのとは対照的にも見える。第2次安倍政権発足後の2015年、テレビ朝日のニュース番組の、「報道ステーション」への、政権のテレビ局への圧力がかかっていることを疑われる事案が発生した。当時番組のコメンテーターを務めていた元官僚の古賀茂明は、降板時に「報道に関して政権からの番組制作者への圧力がかかり、『天下りのような政権と官僚の癒着』といった、一昔前までは世論に問題視されるような報道をメディアが発信できなくなっている」ことを暴露していた(2)。
また、「前川喜平元次官の在職中の風俗店利用問題」といったフェイクニュースの1種と推察できる、プロバガンダ報道が問題視された。報道された時期は、国会の天下り問題の会議が迫っていて、前川が安倍政権に不利な証言をすると見られていた。(3)


 これらの3つの話題に共通する事項とは、「テレビが、政権運営者にとって不利な報道が減って、有利な報道をするようになった」ということである。言い換えれば、民主主義国家における、テレビというマスメディアの使命である、「政権の監視機能」を失い、「国民への政権による情報伝達機関」に変化することを意味している。
 ここから考察できるのは、先の「五輪の反対デモ参加者」や「前川次官」のような「政権にとって不利な人物・団体の世論イメージを下げる」目的のテレビ報道、あるいは「政権の取ろうとしている政策のメリットを誇張に取り上げられる」テレビ報道の増加、もう一つは、「不祥事や政策を原因とした経済の悪化要因、あるいは多くの国民にとって不利になるような政策」といった、政権に不利な報道の減少が、今後さらにいっそう増えることだ。これらは、十分フェイクニュースの温床になりうる。
 今回は、フェイクニュースの事例、法や政治団体との関係に基づいたテレビ報道のチェックの現状、さらにそこから改善点を考察する。

〇引用文献

1. 瀧田健司. 株式会社 中日新聞社 東京新聞. "NHK番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」字幕問題 なぜ匿名男性を取材したのか?経緯判明". [更新 2022-09-09 21:15]. https://www.tokyo-np.co.jp/article/201191 [閲覧 2022-09-11].

2. 鈴木哲夫. 安倍政権のメディア支配. イースト新書. 2015. P18-21

3. 郷原 信朗. 朝日新聞社. “前川氏報道で批判を浴びる読売新聞”. ‘論座’. [更新2017-06-28].
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html?returl=https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html?returl=https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html?returl=https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html&code=101WRA [参照2022-06-01].

〇次回; 報道の委縮とフェイクニュース(2) 

https://note.com/kosmo_note/n/nc9632f404806

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