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34 ジャズ

小学校中学校と音楽の成績は3か4だった。
実技はあまりできず、記述ではそこそこの点を取っての総合成績。
小学生の時6年間もピアノを習わせてもらったのに、今は少し譜面が読めるだけ、とかなりもったいないことをした。
(公務員の父と非常勤の母の下で育てられた典型的な中流家庭だったが、今思えばかなり贅沢をさせてもらっていた。大人にならないとそのありがたみはわからない)

昨日は会社の社長と忘年会があり、福岡の赤坂で飲んでいた。
2軒目行ったことがないところに入ってみようと、その界隈をうろつく。
赤坂は、大名や天神と異なり年齢層高めで中洲のように会食が催されるエリアでもないので、常連向きの落ち着いた個人店が多く、見て回るだけでも楽しい。

3階以上は民家という雑居ビルにたどり着いた。
2階に「Bar」とだけ木でできた表札が提げられた正体不明の、ただ何となく良さそうなお店の扉を開いてみた。怖いもの見たさもあった。
暖色系の薄暗い照明に6席のカウンターのみ。壁にレコード盤が飾られ、ウイスキーの瓶がカウンターに並ぶ。
店主はこちらを怪訝な顔で一瞥、小さく「どうぞ」と言い氷を砕く作業に戻った。
しびい。
「ミスったかな」が頭をよぎり少し帰りたくなる。
ただ、結果個人的にかなり良かった。

かなりの、かなりのにわかなのだが、私はジャズが好きだ。

映画『セッション』で「かっこよすぎる!!!」となり体験レッスンでドラムを習いに行ったりもし、(基本練習で挫折した)

同じくデイミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』でライアン・ゴズリングがジャズに熱く語る姿、作中内での演奏に心を震わされ、

『ブルージャイアント』は漫画がまず持っていかれ、期待と不安半々で観た映画でもしっかり脳天をぶち抜かれた。

多分私はジャズが好きだ。
ただ、正直YoutubeやSpotifyで聞いても上記のような感動を得ることはなく、「まあなんかいいかな」という感じではまりきることはなかった。
少し上がるBGMとして摂取していただけだった。

そのような話をマスターに多少遠慮気味に伝える。ジャズ愛好家の人はにわかを嫌がる勝手なイメージがあるので。
すると、意に反して、オーナーの目が輝き出し、堰を切ったようにジャズについて語りだしてくれた。
そして「私はどちらかというとヨーロッパ系が好きなのですが」と次々とレコードをかけてくれた。

レコード盤に針を落として一発目の音が流れた瞬間鳥肌が立った。
音に圧倒される感じ。
「楽器は人間の耳に聞こえない音も発するので、音響を最高の状態に調整することで、波として体で感じることができます。それはヘッドホンでは聞き取れない。諸先輩方には『ジャズは肌で感じるものだ』っていう方もいますよ。」
私が映画のジャズで感じた衝撃を日常生活の隙間、イヤホンで聞きながら体感できない理由がわかった。
いずれも曲と演奏の出来が素晴らしいのはいわずもがな、映画館という最高の環境でそれこそ体で音楽を体感していたからだ。
そのイメージでイヤホンで聞いてしまったためにギャップが生じていたのだった。
イヤホンで聞くことが悪ではないだろうが、意味合いが変わることを私は理解してなかった。

爆音でジャズが流れる環境の中で、マスターの聞こえたり聞こえなかったりする説明を聞きながら過ごす時間は至福だった。
本当にそれが好きで、詳しい人の話は熱がこもるし聞いていて飽きない。
お店の名前は忘れた。
営業日聞いたら「うち不定休なんですよ」と最後までしぶかった。

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