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「ひとり旅する武器商人」第3話

#創作大賞2024 #漫画原作部門 #ファンタジー #少年漫画

森を抜けたルーファス一行。しかし、再びエルフの弓が襲いかかる。


ジング「あのエルフ、浮遊魔法を使えるのか」

ルーファス(エルフは弓術に長けた者もいれば、魔力が高く魔法に秀でた者もいる。このエルフは両方の能力を持っているのか)

ギル「さっき木から落ちたくせによ」

マヤカ「浮遊魔法も詠唱が必要だからね。そんな暇もなく落ちたんでしょ。でも攻撃魔法はないはず。もしあれば弓なんて使わない。痛っ」

ギル「もう喋るな。ん?」

エルフが火打ち石で弓先に火を付けた。その火で姿が露わになる。

ルーファス(やはりさっきのエルフだ)

エルフはさらに上空へと矢を打ち上げた。それを目印にしたのか、森のほうから多くの喊声が起きてこちらに向かってくる。

ギル「みんな、走れるか。丘を下れ。マヤカは俺が」

ギルがマヤカを抱えて走り出す。

マヤカ「ちょっと、変なとこ触らないでよ! いたたた」

ギル「緊急事態だ。それに俺に抱えられて逃げるのは一度や二度じゃないだろ」

マヤカは「そうだけどさあ」と膨れ面をする。

ルーファスはギルのすぐ横を併走した。腕を負傷しているジングも懸命に走ってついてくる。

ルーファス(俺を救ってくれたばかりにギルたちに迷惑を……)

ルーファス「ギル、ごめん。俺、ここに残る。あいつの目当ては俺だ」

ルーファスは立ちどまった。ギルたちも動きをとめる。

ギル「馬鹿を言うな。おまえはもう仲間だ」

ルーファス「でも!」

その瞬間、空から一筋の矢がルーファスをめがけて飛んできた。ルーファスが(当たる)と思った直後、矢が金属に跳ね返される音がした。

マヤカを抱えたままのギルが、大剣をルーファスの頭のすぐ横に突き出して矢を防いでいた。

ギル「殺させはしないさ。おまえは生き抜いていくんだからな」

ギルがニッと笑う。

ルーファス「ギル……」

マヤカ「あんたたち、語り合いは後でしてよ。早く早く」

ジング「先に行くぞ」

ジングが走り出したのを見て、ルーファスとギルも再び駆ける。

背後から多くの兵士たちの声が聞こえてきた。十人……いや二十人はいるだろうか。

足下の地面に矢が連続して刺さる。闇夜、そして動く標的に、さすがにエルフも狙いを定めあぐねているようだ。

ギルに抱えられているマヤカが、杖をエルフのほうへと向けた。

マヤカ「ヤハ・ファルト・トラァク……炎の精霊よ。我が盟約に従い、浮遊するエルフに永遠の業火を」

詠唱が終わるタイミングで、エルフがマヤカに矢を放った。

同時にマヤカの杖の先が燃え上がり、巨大な火の玉が高速で打ち出され、宙のエルフへと向かっていく。マヤカを狙った矢が瞬時に燃えて灰になる。

火の玉がエルフに近づいていく。エルフは紙一重で躱したが、火の玉は行き過ぎたところで止まり、反転して再び襲いかかる。

エルフ「くっ、追尾魔法か」

エルフは火の玉から逃げ回り、フォルゲートの方角へと遠ざかっていく。

ルーファス(詠唱の中で「浮遊するエルフ」と相手を特定したのはそのためか)

ギル「いいぞ、マヤカ」

マヤカ「いたた……。追尾魔法はかなり魔力を使うんだよね。しばらく魔法は使えないかも。さっさと逃げよ」

丘の上から兵士たちの声が降ってくる。

ギル「思っていたより早いな。道は目立つ。こっちだ」

ルーファスたちは道から逸れ、ポルカーノの方角へと駆けた。

しかしマヤカを抱えたギル、手負いのジング、そしてまだ子どものルーファスたちの進みは芳しくなく、すぐ背後にまで兵士たちが迫ってきた。

ギル「追いつかれる。俺が応戦する」

ギルがマヤカをその場に下ろす。ルーファスとジングも足をとめた。

マヤカ「ちょっと、相手の人数はかなり多いでしょ」

ギル「俺が二、三人ぶった斬れば怯むはずだ。あのエルフのいない今、あいつらもそう深追いはすまい」

兵士たちが追いついてきた。

ルーファス(やはり二十人はいる)

先頭の兵士「貴様ら。ガルバニアを裏切った罪は重いぞ!」

ギル「裏切ってなんかいねえよ。仕事が終わっただけだ」

先頭の兵士「そこな子どもを連れ去ったのは重大な造反行為だ」

ギル「ほんと、てめえらは骨の髄まで腐ってやがるな」

先頭の兵士「我らを侮辱するか! やれ!」

脇にいた兵士たちがギルに襲いかかる。ギルは彼らを待ち受け、引きつけておいて大剣を振り払った。二人の兵士が吹っ飛び、そのまま動かなくなった。

ルーファス(いける!)

だが彼らは仲間の死を怖れず、「同志の仇!」と叫び、むしろ闘争心に火がついたようにギルに突進してくる。

ギルは大剣で彼らを斬りにかかるが、多勢に無勢だ。一人を相手にしている間に他の数人がギルに剣を打ち据える。鎧の硬度でなんとか耐えているが、敵の数が増えていき、ギルは完全に劣勢になる。

右手でナイフを投げようとしたジングが「痛っ」と顔をしかめてナイフを落とした。

肩を射抜かれ、魔力が限界に達しているマヤカも息を荒らげている。

ルーファスはそんな光景を見ていることしかできない。

ルーファス(そんな……俺のせいで……。考えろ。考えるんだ。何か打開策がないか。何か……)

焦るばかりで考えが浮かばない。もし今あのエルフが戻ってきたら、一巻の終わりだ。

ギルはあれから二人を倒したものの苦戦している。頬や腕から血を流していた。

ギル「うざってえやつらだ。まるでハエだな」

強がるギルに、先頭にいた兵士が高笑いする。

先頭にいた兵士「ハエはどっちだ。このまま叩き潰してくれるわ」

ギルが再び剣を構えた。敵の血と脂が付着しているミスリルの大剣が、月の光を浴びて鈍く輝いている。

その剣を見て、ルーファスははっとした。

ルーファス(ミスリル……そうか!)

ルーファスはマヤカに駆け寄った。

ルーファス「ほんの少しでいい。火の魔法を使える?」

マヤカ「ええっ。無理」

マヤカは即座に断る。

ルーファス「この場を逆転できるかもしれない」

マヤカ「ほんと?」

ルーファス「もし使えるのなら――」

ルーファスはマヤカに耳打ちする。マヤカは目を見開き、「ほんとに?」とまた訊いた。

ルーファス「説明している時間はない。できそうなら、すぐに」

マヤカ「出るかわからないけど……。ギル、私に向けて剣を振り上げて!」

ギル「はあ? 何言ってんだ」

ギルは振り向かずに呆れたような声を出す。

マヤカ「早くしろよ!」

ギル「わかったよ。こうか」

ギルがこちらを向いて、マヤカに剣を振り上げた。

先頭にいた兵士「おいおい、仲間割れか。それとも仲間割れと見せかけた演技か? どちらにしても終わりだ。皆の者、いけ!」

兵士たちがギルの背後から襲いかかる。

マヤカ「ヤハ・ファルト・スティーク……炎の精霊よ。我が盟約に従い、ギルの剣に纏わりつけ!」

小さくて弱々しい火が杖の先に灯り、ゆるゆると剣に向かっていく。

マヤカ「だっさ! やっぱ魔力が足りないって!」

ルーファス「大丈夫。ほら、火が剣に辿り着く」

マヤカの発した炎がギルの剣に触れる。その途端、ギルの剣全体が一気に炎を帯びた。

ルーファス「ギル! その炎の剣で敵を燃やし尽くせ!」

ギルは突如燃え上がった炎に驚いていたようだったが、すぐにルーファスの意図を察した。

ギル「うおおりゃああ!」

ギルは体を軸にして半回転し、燃えさかる剣で兵士たちをなぎ払った。炎を纏った剣は一瞬にして兵士たちを火だるまにする。

兵士たち「ぐああッ!」「熱い!」「燃える!」

兵士たちはたちどころに焼け焦げ、一度に七人もの兵士が戦闘不能に陥った。

先頭にいた兵士「……何が起きた!?」

他の兵士たちも理解できずに怯んでいる。

ルーファスは狼狽する彼らを見ながら口角を上げた。

ルーファス(ミスリルの魔力伝導と火耐性は抜群だ。そこに兵士たちを斬った際に付着した脂を燃料にしてやれば、炎の剣ができあがる。予測どおりになるか心配だったけれど、うまくいった。炎の魔法を操るマヤカとミスリルの大剣を所持するギルのパーティーだからこそできた技だ。やはり運はある)

ギルは「ルーファス、やるじゃないか。こんな使い方、考えもしなかったぞ」と言い、燃え盛る剣先を兵士たちに向けた。

ギル「さあ、来いよ。燃えかすにしてやるからよ」

兵士たちが後ずさる。

ルーファス(勝った)

と思ったその時。空中から矢が飛んできて、ルーファルの右足に突き刺さった。脛の辺りに痛みが走る。

ルーファス「うああッ」

ギル「ルーファス! まさか、あいつか」

ギルが宙を見上げると、マヤカの追尾魔法から逃げ切ったのか、あのエルフが怒りの形相で弓を引いていた。

エルフ「よくも我を……」

兵士たち「タリア様!」

エルフの再来に兵士たちが活気づく。あのエルフはタリアという名らしい。

タリアが矢を放つ。ギルはその軌道上に剣を向けて矢を燃やした。しかし、徐々に炎の勢いが失われていく。

ギル「くっ。時間を稼がれるとまずいな。ルーファス、怪我は?」

ルーファス「痛いけど、ブーツの上から刺さったから傷は浅いみたいだ」

ギルは「たいした怪我でないならよかった。しかし炎が」と言って剣を構え直す。

ルーファス「脂が切れてきたのと、やっぱり魔力不足かな……。もう少し粘れると思ったんだけど」

タリアが見くだしたように笑う。

タリア「火勢が衰えていくようだな。高みの見物といこうか。その火が消えた時が、おまえたちの命も消える時だ」

一気に倒したとはいえ、まだ敵兵は十人はいる。ギルが歯がみをした。

すると――。

激しい風が起こり、その風がタリアを襲う。突然の突風にタリアは完全に体勢を崩し、背負っている矢をパラパラと落とした。

ギル「この風は。来てくれたのか」

ギルたちが風の吹いたほうへ顔を向ける。ルーファスもそちらに視線を移す。

月明かりの下、僧侶の格好をした長身の優男が笑っていた。

僧侶(キャスパー)「なんてざまだい。この貸しは高くつくよ」

つづく

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