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川柳で若い世代にエールを送りたい 23/4/16

1.川柳の一言コメント

「嘘を売る女 好んで買う男」

 この川柳にある「嘘を売る女」は詐欺師ではありません。詐欺師は、人から金品を奪う目的で言葉巧みに嘘をつく犯罪者ですが、この「嘘を売る女」はごく普通の職業人です。

 この女は、客の気持ちに寄り添って、客を励ましたり喜ばせたりして、客に愛される仕事をしています。客の男は、女のつく嘘で喜んでいます。半分、或いは九割がた勘違いして喜んでいるのです。

 人間社会は複雑です。欲と利害が絡み合い、建て前の奥に本音があり、口から発せられる言葉は額面通りに受け取れないケースが山ほどあります。時々、何を信じて良いのか分からなくなります。

 人は嘘をつきます。女も男も嘘をつきます。一般の人も、人々から「先生」と呼ばれる偉い立場の人も嘘をつきます。国会中継をご覧ください。

 国会で答弁なさる方は、お立場上、本当の事は言えないのだと思いますが、明らかに真実では無いと感じる答弁があります。中には「答弁が嘘だと言うなら、それを証明してみろ」と、言わんばかりに開き直る先生もお見受けします。

 子供の頃「嘘は泥棒の始まり」と大人から教わりました。「空でお天道様が見ているから、嘘をついてはいけない」と教わりました。「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます」という指切りをした経験もあります。

 しかし、指切りした約束が結果的に嘘になってしまっても、針千本飲まされた子供は一人も居ません。あの指切り自体が嘘だったのです。その後、大人になるにつれて嘘をつかないと生きていけない事が分かってきます。

 大人は、嘘をついてはいけないと分かっているのに、他人に対して「私は嘘をつきません」と嘘をつき続けて生きているのです。だって、世界中の人という人が、一人の例外もなく嘘をついているのですから。 

2.私の経験で思う事 

 車のセールスマンの話をしましょう。このセールスマンは、30代で成績優秀な男性です。ある日、セールスマンの居るお店に、ごく普通に見える中年のご夫婦が来店されました。新車購入を検討されているようです。

 セールスマンは丁寧に車の説明をしました。車にも長所と短所がありますが、顧客にとって短所が許容範囲であれば購入に問題ありません。この場合、いかに長所を良く見せるかがポイントになります。ここまでで嘘はありません。

 「先日、○○の車(他社の車)を見てきたけれど、決めかねてこちらのお店に来たの」と、奥様が話をしました。どうやら、ご夫婦の主導権は奥様が握っているようです。話に出てきた「○○の車」は、今、セールスマンが説明した車と同ランクだったとします。あと一押しで購入を決めて頂けそうです。

 優秀なセールスマンは嘘が上手です。「奥様のように美しい方に乗って頂ければ、この車も幸せだと思います」と、言葉が出ました。これは嘘なのですが、一般的には「お世辞」とか、「セールストーク」とか、嘘をカモフラージュして呼ばれるタイプの嘘です。

 セールスマンは奥様を「美しい方」と表現しましが、「宝塚女優のように美しい方」とは言っていません。美的感覚は人それぞれですから、世の中の大多数の人が、この奥様を美しくないと感じたとしても、セールスマンがこの時、この一瞬だけでも美しいと感じて口にしたのなら、それは罪になりません。

 或いは、そしておそらく、セールスマンは「本心ではないけれど、ここは美しいと言っておこう」と判断したのでしょう。車を買って欲しいから。売上成績を上げたいから。そして、ノルマを達成して手当ての上積みが欲しいから。そうです。打算です。

 奥様も、横にいる旦那様もニコッとしている事でしょう。もしかしたら、ご夫婦はセールスマンの言葉を、そのまま信じたかもしれません。或いは、嘘だと分かっているけれど嬉しく感じたのかもしれません。

 「嘘も方便」という言葉があります。これは嘘を肯定している言葉です。逆に、自分が感じた事をそのまま言うと、「歯に衣着せぬ」と嫌がられます。「正直者は馬鹿を見る」という言葉もあります。

 私は若い世代の方々に、「世渡りの為には、上手に嘘をつけるようになった方が良いですよ」と、お伝えしたい。もしかして私は、もっと上手に嘘をつけたら・・・女性を口説けたかもしれません。会社組織の中で上に上がれたかもしれません。

 いや、きっとそれ以前に実力の問題があったのでしょう。まず、自分の魅力や能力を高めて、それに加えて上手な嘘がつける事が大切なのだと思います。

3.瀬川さんの絵

 漫画家の瀬川 環さんが、この川柳からイメージした絵を描いてくれました。

嘘を売る女 好んで買う男

 人としてベテランの域に達した男女が、スナックでお酒を飲みながら話をしている場面ですね。

 瀬川さんによると、「お互い本気でないと分かっていながら、口説いて、かわして、妬いたふりをする等のやりとりを楽しんでる二人」だそうです。もうこうなると、嘘を楽しんでいるのですね。

 若い頃、私もスナックに通った客の一人でした。ストレスの強い社会を生き抜くうえで、スナックで若くて綺麗な女性と話をするのは楽しい事でした。お世辞(嘘)と分かっていても、ヨイショしてくれるのが嬉しくてお店に通ったものでした。

 先ほど、「正直者は馬鹿を見る」という言葉を書きましたが、手元の国語辞典には「正直の頭に神宿る」という言葉もありました。理想は嘘をつかずに正直だけで生きていければいいのですが、それは殆ど神様の域に達する必要があるように思えます。

 凡人の私は、これからも罪にならない下手な嘘をつき続けて生きていくと思います。できれば、優秀なセールスマンのように、売れっ子のスナックの女性のように、上手で粋な嘘がつけるようになれればいいなと思いますけど。


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