制服廃止へ 【 いにしえの高校時代 1 】

私が通ったのは地元の県立高校である。
私たちの学年が生徒会の役員になった年のある日、臨時の生徒総会が体育館で開かれた。
壇上には生徒会の役員たち、体育館の床には体育館座りをした全校生徒、そして後ろの壁際にズラーと教師が腕組みをして立っていた。
生徒会の役員と教師たちが正面から向き合う形である。

生徒会長が制服廃止について意見を述べた後、質疑応答があった。
その間、教師たちはじっと黙って聞いていた。一言も口をはさむことはなかった。生徒総会は穏やかに進行して、採決になり賛成多数で可決した。
可決を見届けた教師たちは静かに出て行った。

きっと、この後、職員会議でもめて、校長先生も反対して、延々と長い会議を何回も繰り返した挙句、忘れたころに廃案になるんだろう、そう私たちは予想していた。

それが、あっという間に職員会議を通過して「制服廃止」が決定した。
教師たちは生徒を信じることにしたのだ。

そして、生徒手帳には「生徒の自主性に任せる」と一言だけが書かれるようになった。
生徒手帳のそのページを何度も見た。ビックリしたけれど、私たち生徒は信じてもらえて嬉しかったし誇らしくもあった。いい学校だと思った。

制服は標準服として残されたので、制服を着たい生徒は今まで通り制服を着てもよかった。制服に私服を組み合わせてもかまわない。自由である。

当時は、アイビー (トラッド) が流行っていた。私服を着たい生徒たちの多くはアメリカのさわやかな大学生のようなアイビーに身を包んでいた。すっきりして清潔感のあるきれいめファッションである。

白のオックスフォードのボタンダウンシャツにベージュのコットンパンツ、リーガルのコインローファーみたいな感じだった。少し肌寒くなるとその上から赤か紺色の無地のトレーナーを着ていた。冬はダッフルコート、デザートブーツだった。

大人から見ても好感度の高いファッションで、私服になっても問題は何も起こらなかった。生徒を信じた教師たちも胸をなでおろしたことだろう。こうして平穏な高校生活は続いた。



秋の良く晴れたある日の授業中、教室の窓からふと外を見ると、校内から正門を抜けて外の道路へ全力疾走する5~6人の私服の生徒が見えた。
その後ろをほうきを振り上げ「こらーーーーーー!!!!!、まてーーーーーーーー!!!!!!!」と叫びながら教師が追いかけていた。
漫画みたいな光景である。彼らは、授業をサボって数駅先の大学の文化祭に繰り出したのだった。






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