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「出されなかったメール」

これは、
とあるオペラ公演の
本番数日前に
出演者各位に宛てて
送られる予定であったメールの文面。

※ ※ ※ ※ ※

前回集計と比較して、
〇〇日は〇〇枚、〇〇日も〇〇枚、
数を伸ばしています。

皆さんの多大なるご協力
ありがとうございます。

本番まであと僅かですが、
一人でも多くのお客にご来場いただき、
私達の演奏・演技を観ていただくよう、
最後までご協力をよろしくお願いいたします。


・・・という表向きの言葉はここまでにして・・・

〇〇日から本番当日までの間に
多少変動はあると思いますが、
これが現時点での
私たちの持っている集客力の全てです。
(勿論、私自身も含めてです)

この現実を直視するか、
それとも目を背けて舞台の上の
「たのしい事」だけを考えるかは
個人の自由ですが、
ひとつだけ、
はっきりしていることがあります。

それは
「フリーの演奏家として
 活動していくのであれば、
 顧客管理は
 商品管理(つまり演奏の質)
 以上に重要なことであり、
 集客力はプロの演奏家が
 プロであり続けるための生命線である」
ということです。

AHPとしては、
これまで出演者個人の集客について
タッチすることは避けていました。

それは、
ひとつにはAHPの基本姿勢が
「集客力のあるなしに関わらず、
 求める者に演奏機会を提供する」
ところにありました。

顧客を持っている者には
追加チケットの取り分を半分以上とすることで
「稼ぎ場」として舞台を提供し、
未だ顧客を開拓していない者であっても
公演参加費を納入することで
気兼ねすることなく演奏に専念し
舞台経験を積むことができる、
そうした
「稼ぎ場」
「舞台経験値獲の場」の
二つのメリットを共存させていたのが
AHPの公演企画だったのです。

ただ、
この方式についても限界はあります。

多くの顧客を持っている出演者にしてみれば、
ほとんど客を呼ばない出演者との
待遇の差別化を求めることは
ごく自然の流れですし、
「客を呼ばなくても良い舞台」というのは、
観客の視線や耳・彼らの評価を考慮せず
「好きなものを好きなように演奏すればいい」と
安易な演奏に流れやすくなる危険があります。

・・・ではどうするか?
今までの何が問題で、
どのようにすれば演奏者として
其々の集客力を上げていくことができるのか?

AHPは今回の公演が全て終わった後、
公演データの報告と共に、
一つ提言を行う予定です。

今回のデータ開示は、
そのための資料のひとつとして
受け止めていただければと思います。

※ ※ ※ ※ ※

実際のメールでは、
上記文面のうち、
太字部分の箇所を削除して
全キャストに送信されている。

太字部分は
私が2009年に立ち上げた演奏会企画
”ARTS & HEARTS PROJECT"の
企画理念の根幹をなすものであるが、
既にこの頃には形骸化が著しく、
一旦は文面に起こしたものの
「いまさら言っても詮無き事。
 数日後に本番を迎える出演者に
 何を言えることがあろう」と
断念した次第である。

ちなみに、
この公演の本番では
まだ世界のどこにも
コロナ禍の気配すらない
時期だったにも関わらず
会場客席では過分な程の
ソーシャルディスタンスがなされていた。

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