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たしかに彼女はそう言った

 言い間違いは誰にでもある。思い違いや覚え違いだって誰にでもある。そんな言い間違い、思い違い、覚え違いに笑いがこみ上げることもある。
 Twitterでたびたび上げられていた、福井県立図書館への覚え違いタイトルな問い合わせが、一冊の本にまとまったと聞いて、早速馴染みの書店へ注文しに行ったのである。

 実はこの数日前、注文していた本が品切れで注文できませんでした、というお断り連絡を書店から頂いていたのだった。その本が注文できないのは残念だが、その本を買うつもりで用意して浮いたお金で件の思い違い集を買えるではないか。そうやって考えを転換し、勇躍書店に乗り込んだのである。

「注文お願いします」
「あ、はい。タイトルは?」
「100万回死んだねこ」
「なんですか、それ?」
「いや、実はですね、前々からTwitterで盛り上がってたネタを集めた…(以下略)」
「へえー。Twitterで思い違いといえば!」
 書店員は、映画『犬神家の一族』の有名なシーン、あれですよあれ。湖もしくは沼の水面から逆さまに屹立する足、そのシーンを挙げた。

 そして、そのシーンをネタに出す場合、高確率で『犬神家の一族』のとはならずに、同シリーズのもう一つ有名なあの映画タイトルを引き合いに出すというあるある話がTwitterで盛り上がっていたというのだ。ああ、確かに混同するかもな。


「なんでしたっけ、あれ。やつ、やつ…」
 書店員は記憶を手繰り寄せる。
「八つ裂き村!」
 え。言ったそばからあんたも間違うかい。
「それ、八つ墓村…。」
「え!私、なんて言いましたっけ?」
 八つ裂き村だよ!ていうか、それいいネーミングだな。もらっちゃおうか。
「その八つ裂き村、もらっちゃっていいですか?」
「え?ああ…うん、いいですよ」
 なぜか一瞬思案した後、彼女は'『八つ裂き村』使用権の譲渡を了解した。当研究所主催の掌編小説競作イベントに最近ゲスト参加するなど、彼女も自分で小説を書く。それもあって、自分のアイディアアーカイブにストックしようか迷ったのかもしれない。しかしあまりにも馬鹿馬鹿しいフレーズだと気づいて、さっさと明け渡したのだろう。まさか、このnoteで使われるとも思わずに。
 なんなら彼女には、福井県立図書館へ赴いて、映画『八つ墓村』の同名原作本を借りに行って、
「『八つ裂き村』という本を探してるんです。沼で逆さまに足が出てるやつ!」
 と幾重にも間違った情報で図書館職員に検索をお願いして、Twitterネタになってもらいたい。彼女にはその資格がある。行ってみてくれないか?駄目ですか。そうですか。わかりました。相済みませぬ。
 それはともかく。
 以上の如く誰もが知らず識らずのうちに、思い違いタイトルを口にするものだということがわかった。
 この書店にはいくつもネタが転がっていそうなので(実際転がっている)、今後も足繁く通うつもりである。   

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