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アガサ・クリスティ財団公認パスティーシュ「閉じられた棺」は前作より全然いい!!

いやぁ、掲題の件なんですけどめっちゃ良かったです〜!読んで良かった!

あ、これ久しぶりの海外ミステリカテゴリの記事です。

この本の話、美容師さんにしたんですけど美容師さんよくわかってなかったので順を追って説明していきますね。

①アガサ・クリスティー
ミステリの女王ですね。
世界で一番有名な探偵は?
答えはシャーロック・ホームズです。作者はコナン・ドイル。
では世界で2番目に有名な探偵は?
答えはエルキュール・ポアロです。そしてエルキュール・ポアロの作者がアガサ・クリスティー。
では世界で3番目に有名な探偵は?
答えはミス・マープルです。そしてこの作者もアガサ・クリスティーなんですよ。
この1位から3位まではおそらく異論はないと思います(多分4位はエラリー・クイーン(作者はエラリー・クイーン))。

さて、アガサ・クリスティー(1890−1976)は86歳で亡くなったんですけど、長編66作、中短編156作、戯曲15作、別名義で小説11作も書いています。一番有名なのはポアロで次がマープルなんですが、他にもトミーとタペンスという夫婦の探偵、それにパーカー・パインとかハーリ・クインとかも書いてます。

で、このクリスティは1976年に亡くなったわけですが、今もって世界で2番目に有名な探偵なんですよ、ポアロ。なので読者はもっとポアロが読みたい!でも作者死んでる!というわけで他の作家がポアロを使って書いた作品があるんです。それがこのソフィー・ハナの作品。ちなみにソフィー・ハナが書いたポアロもの2作はアガサ・クリスティー財団が公認しています。

②パスティーシュ
芸術分野における模倣作品ですね〜。文体とか雰囲気とかをわざと真似して新しい作品を作るやつでパクリとは別物です。パクリはバレちゃおしまいですが、パスティーシュはバレなかったら恥ずかしい。ちなみにホームズのパスティーシュ作品はめちゃくちゃたくさんあります。「シャーロック・ホームズの秘密のファイル」とかね。ちなみにコナン・ドイル財団公認のパスティーシュも出てまして、それがアンソニー・ホロヴィッツの「絹の家」と「モリアーティ」です。公認じゃなければ日本だと夏目漱石絡みのとかあります。

③ソフィー・ハナの書くポアロシリーズ
ソフィー・ハナという作家さん、私この人のオリジナル読んだことないんですけど、人気も実力もある人らしいです。ただ私はこのパスティーシュしか読んだことないんでなんとも言えない。
一作目が「モノグラム殺人事件」です。ポアロにおけるワトソン役、助手で語り手のヘイスティングスがアルゼンチンに行ってる間の出来事ということになっているのでヘイスティングスが出てこれません。というわけで新しい相棒がスコットランドヤードのキャッチプール。こいつが一作目ではだいぶ鬱陶しい男だったんですよ。語り手が鬱陶しいの嫌ですね。それもあるし、事件自体も意味なく複雑だし、タイトルの割にモノグラム関係ないし、なんかポアロもじめじめしてるんです。性格が暗い。謎解きもややこしい。

クリスティ作品が他の有名海外ミステリ作品から頭ひとつ抜けている理由ってシンプルさにあると思うんですね。これはドイルもそうですけど。つまり小説自体も原稿料稼ぎのための無駄な描写とか無駄な会話とかがあまりないところ、加えてトリックがシンプルでわかりやすいんです。読み終わった後誰かに「これこれこういうトリックだったよ」と説明するのが非常に簡単なんです。シンプルでありながらあっと驚かせる、というやつですね。もちろん中には良い作品でないものもあるし、明らかに過去作の焼き直しだなというものもドイルにもクリスティにもあります。無理がある、というトリックもある。でも複雑でこねくり回したようなものはないんですよ。

ところが、これは現代のミステリ作家が陥りやすいところかなと思うんですが、ソフィー・ハナのポアロはトリックがめんどくさいんですよね。謎解き読んでてもダレてくる。シンプルに説明できない話は良い話ではないと思いますね〜。動機もトリックも。そういう意味で「モノグラム殺人事件」は「千円無駄にしたな〜」という話だった。

ところがこの「閉じられた棺」は良かったんです。トリックはないです。でも動機についてはわかりやすかった。ちょっとS・S・ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」を思わせましたけど。いや、動機が似てるわけじゃないんですが、「あ、この展開「僧正殺人事件」で読んだな〜」みはありました。でも良かったです。まず物語が田舎の大きなお屋敷で展開するのでわかりやすいですよね。それからキャッチプールがじめじめしなくなりました。ポアロも陰湿ではなくなりました。犯人も「あ、こういうやつクリスティがよく犯人に仕立てるタイプのやつ〜!」ってなって懐かしさがあります。今から「ソフィー・ハナ読もうかな〜」と思っている人がいましたら、私のおすすめは「閉じられた棺」の方ですね。「モノグラム殺人事件」は読んでるとイラつくのでおすすめしません。

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