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バイオリン属とヴィオール属

ヴィオール属、というのを聞いたことがあるだろうか。楽器の属性を示す言葉である。バイオリン属にはバイオリン、ビオラ、チェロがいる。ヴィオール属にいるのは「コントラバス」である。コントラバスはオーケストラで低い音を鳴らすかっこいい楽器で、弦楽器の中では最大のものである。ジャズやポップスの時にはベースと呼ばれる渋いヤツなのだ。

我が家は子ども達がバイオリン、私がビオラ、夫がチェロをやっていて弦楽四重奏ができる。オーケストラの練習や親戚の結婚式の余興などの際は家族内でメンバーを揃えることができるという便利な家族である。

この春、便利な家族に小さな変化が起こった。

最近になって、息子がヴィオール属のコントラバスをやりたいなあ、と言い出した。大きい楽器がやりたいからだ、という。愛媛県松山市在住のコントラバス作家で奏者の西村啓志さんとオーケストラでご一緒した際に聴いた音色がとても好きだったことと楽器を運んでいる姿がカッコよかったことも理由らしい。

いいねえと言ったものの我が家の楽器事情と置き場所を考えると難しい。これ以上楽器が増えるとなると音楽室を増築しなくてはならない。その上、コントラバスを車に乗せてしまうと他の楽器も人も入らなくなってしまう。そんな理由からいいねえ、止まりだったのだがある日、夫のチェロの先生から「チェロやったらどうだね、チェロ。君は背が高いし、性格も向いてると思うぞ。モテるぞー、チェロは」と言われた。「別にモテたいわけじゃないけどチェロもでっかいからいいな。やろうかな」と息子もまんざらでもない様子だった。そんなことがあって、とんとん拍子でバイオリンもやりつつその先生に弟子入りすることとなった。つまりバイオリン属に留まったのである。

人との出会いは分からないものである。心地よかったり、緊張したり、影響を与えたり、受けたり。時には人生を決めるきっかけになったりする。

中学3年生になるこの時期にチェロの先生との関わりがお父さんの師匠、から僕の師匠、になってこれまでより濃くなるのはいいんじゃないのかな、と思っている。ちょっと型破りの大人はこれまでもいたが、チェロの先生はとにかくおもしろい。高校2年生まで楽譜が読めなかったというが、演奏家として飛び回って活躍しているんだからそんなことはないだろう、と思っていたら本当にそうだったらしい。こういう人が身近にいると常識人の息子は少し丸くなるんじゃないだろうかと期待している。

私たち夫婦がいつもちゃんとしてるわけじゃないが、大人とはこうあるべき、みたいなことを思って自分の子どもに接してしまうことが多い。子ども達が小さい頃は緩い子育てをしていたと思うが、なんだかいつの間にか口うるさい親になっていた。こんな私たちとだけ接していたら我が子達はロクな大人にならないだろう。だが、口うるさいのは治りそうにない。だからせめていろんな大人と我が子をどんどん引き合わせることで自分達の欠点を薄めてやろうとたくらんでいるのだが、上手くいくだろうか。

では、また。ごきげんよう。