EAリテラシーはデータリテラシー
(前回の記事「ITオンチな組織」と思われないために)
ゴーイング・コンサーンをデータ化する
継続事業の全体を、どうすればモデル化出来るでしょうか。モデルというとまずは平面上に描かれた図形が思い浮かびますが、継続事業の全体となると、二次元平面上の視覚表現では、巨大になり過ぎたり、抽象的過ぎたりしそうで中々難しそうです。
そもそも「継続事業」というのは「概念」ですね。「概念」には「形状」は有りませんが「構造」はあります。ですから継続事業をモデルにしたいときは、その概念構造を作れば良いわけです。
概念構造は概念の「要素」と「関連」で出来ています。いわゆる「グラフ構造」ですね。グラフ構造はグラフデータとしてコンピュータで読み書きすることが出来ます。
最近の流行りコトバとして「デジタルツイン」というのをよく耳にします。一般的にはフィジカルなモノとそのデジタルデータを指します。継続事業はモノではありませんが、それをグラフデータでデジタル化出来れば、それもデジタルツインでしょう。さしづめ「エンタープライズ・デジタルツイン」です。モデルもこう呼ぶと何だかカッコいいですね。
データは償却資産に非ず
ただ、継続事業の概念要素や関連など、総数は恐らく数千個に上るでしょう。それらを描いて行くのにも、またそのためのリテラシーの獲得にも当然時間が掛かるでしょう。
しかしこれに掛かるヒトや時間は無駄にはなりません。続ければ続けるだけ、生産資本としての知識、いわゆる「形式知」が、データとしてモデルに積みあがっていくからです。しかもこれは償却や滅却の必要がありません。事業のモデルですから、モデルの価値は時価評価の一部です。
普通の償却資産の場合は、自組織の事業価値が上がったからといって、その価値も上がる、ということは無いですよね。少なくとも価値は確実に下がっていくし、ヘタをするとマイナスになったりします。いわゆる技術負債というやつです。
「形式知の蓄積」と「償却資産の取得」は、生産資本としては同じでも、色々な点で異なりますよね。きちんと区別して、接し方を間違えないようにすることが大事です。うっかりエンタープライズ・デジタルツイン「プロジェクト」とか立ち上げたりしてはいけませんね。
そもそも適用されるリテラシーが違います。どんな違いでしょうか。
「嵩(かさ)と目方」から「点と線」へ
かつては事業収益の源泉といえば、いわゆるフィジカルな「モノ」でしたよね。寸法・重量、形状といった属性を伴います。その生産資本も同様にモノです。工場とか、生産設備とか、オンプレ時代のハードなどもそうでしょうね。ITだと人月とかSLOCとか、仕様書の枚数とかも、物理量という意味では同じなのかも知れません。
リテラシーを、「意味や価値が分かる、表現できる」能力と捉えれば、「モノ」のリテラシーとは、「見たり触ったりできるモノ」の意味や価値が分かる、ということなのでしょうね。償却資産なら、寸法・重量・形状、はたまた人月やSLOCなどを適切に評価する、といった能力が、このリテラシーに当たるのでしょう。
形式知は抽象的なモデルで示された概念で、それを観察、解釈、考察することで、対象の価値や意味を知る、といった能力がリテラシーとして必要になります。モノと違って「見たり触ったりできない概念」を相手にしなければならないわけです。
これは特にベテランが今日直面する大きなチャレンジの正体のひとつなのかも知れません。特に製造業にとっては、意味や価値はモノにこそ宿るのであって、それを伝えるのもモノを介せば済むことに慣れてしまっているので、寸法重量の無いものの意味やら価値やらについて、いままで考える必要性や、ともすると機会さえ無かったのかも知れません。
なので、たとえばデータドリブンとか言われても、そのデータが「モノ」に繋がるデータなら、モノの一部として認識可能ですが、概念そのもののデータとなると認識さえも難しくなります。
この「概念そのもの」に関わるリテラシーこそ、本当のデータリテラシーですね。モノの「添え物」程度の認識では、身に着けるのは中々難しいかも知れません。しかし、継続事業は概念ですから、データリテラシーなくしてEAリテラシーは成り立ちそうにありません。
この「概念そのもの」をデータとして扱おう、というのがグラフデータですね。いままでは端的に言えば「嵩(かさ)と目方」に基づく世界観、みたいなものがあったのだと思います。グラフデータ的な世界観は、端的にどんなものかというと「点と線」ですね。
「嵩(かさ)と目方」から「点と線」へ、ものの見方とか、マインドセットとかを変えることが、償却資産ではない「形式知の蓄積」を成功させる、一つのポイントなのかも知れません。
ともあれ、まずは最初の「点」をうつところから始めてみましょう。次回はその最初の点をどうやって打つかをお話しします。お楽しみに。