【『孤狼の血 LEVEL2』評論/映画評論家・轟夕起夫】
新たなる悪の地獄めぐり
これは“白石和彌 LEVEL2”だ!
「時代は昭和から平成に変わり、バブル景気の真っ只中にあった」
前作に引き続いて、二又一成のナレーションが適宜挟まれてゆく『孤狼の血 LEVEL2』。原作シリーズから離れ、完全オリジナルストーリーで監督白石和彌は、東映映画ならではの“荒ぶる世界”を新たに描出してみせている。
ところで今年の2月、NHK Eテレで放送された『SWITCHインタビュー 達人達』で白石監督は丸山ゴンザレス氏(危険地帯ジャーナリスト)と対談、互いの「悪」論を語っていた。これが興味深かった。共通したのは「人間を一面ではなく、多面的に捉える」こと。悪ければ悪いほど、なおいっそう!
この続編でもそうなのだ。広島の裏社会を治めていた伝説のマル暴刑事・大上(役所広司)亡きあと、その遺志を受け継ぎ、権力を用いて暴力組織を取り仕切る日岡(松坂桃李)を窮地に陥れてゆくのは、出所したばかりの上林成浩という男。言ってみるなら『仁義の墓場』(75年/監:深作欣二)の疫病神、石川力夫に輪をかけたようなヤツなのだが、演ずる鈴木亮平に白石監督は、「上林を日本映画史に残る悪役にしてほしい」と言いつつ、彼の過去、出自、悲惨極まりないバックボーンに触れることを怠らない。
つまり、反社会勢力を描く場合、往々にして社会で虐げられてきた立場の人間たちに行き着くことになる現実を捨象していないのである(とはいえ、反社会勢力を擁護しているわけではない)。だから、そういった構図を持った自作『凪待ち』(19年)の競輪シーンが上林組の事務所のテレビに映っていたのは、おそらく意図的であろう。そして「人間を一面ではなく、多面的に捉える」姿勢は、ダークヒーローたる日岡にも向けられる。今回、相棒となるベテラン刑事(中村梅雀)は「厄介なのは、正義ヅラして悪さするヤツらよ。己は正しいと思い込んでいて始末に負えない」と謎めいた言葉を吐き、暴力組織のトップ(吉田鋼太郎)は絶滅させられた狼の譬えを出して「強おなりすぎるのも、考えもんじゃのお」と牽制し、日岡を密着マークする安芸新聞の記者(中村獅童)は「裏でヤクザとつるんでやりたい放題、天に恥じずという態度」だと批判する。
一方、日岡は、大上とは違ってひとりも抗争で死なせていない、歪な秩序ながら暴力組織をコントロールしている、と自負している。だが、やがて闇の奥へ奥へといざなわれていき、結果、地獄めぐりをすることになる。『凶悪』(13年)や『日本で一番悪い奴ら』(16年)の主人公のように──すなわち『孤狼の血 LEVEL2』とは、自己テーマを煮詰めた「白石和彌LEVEL2」的な作品なのである。