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10月11日の日記:昨日見た変な夢について

 藤崎竜の封神演義をベッドで読んで寝たり起きたりしている間に時間がたち、ふと窓の外に目をやると日が落ちていた。秋の夜は早くやってきて長い。動くのも面倒なのでまたベッドで封神演義の続きを読むが、気が付くとまた眠っていたようだ。
 妙に風の音がうるさいのでしぶしぶ私は目を開けた。私の住むマンションは通風孔が常に動いているのだが、それにしたっていつもより風の音がうるさい。こういう音がする時は大概、換気扇がつけっぱなしなのか、ドアに隙間が空いてしまっているかのどちらかだ。気密性の高いマンション故に、通風孔以外の風の通り道があいていると強い気流が出来るのだ。
 私は重たい体を起こすと、しぶしぶ台所に向かった。廊下は暗く、バカに細長い。細く長くくねくねと続いていてなかなか流しまでたどり着けない。風が強く吹いている。体を引きずるようにして流しの換気扇の下までたどり着く。しかし換気扇のスイッチは切られていた。どうも風は玄関のドアから吹いているようだった。
 体が重たく怠いので早く横になりたかったが、風は強いし、ドアがあいているのは不用心なので、しぶしぶ玄関へ向かう。廊下が長くてなかなか玄関までたどり着かない。俺の家はこんなに広かっただろうか、などと思う。
 どうにかドアまでたどり着く。ドアが少しだけ開いていて、その隙間からびゅうびゅうと風が吹き込んでくるようだ。暗い中目を凝らして見るとドアの下に何かが挟まっていて、そのためにドアが閉まらないようだった。ドアの隙間から外廊下の灯りが漏れてきて、その挟まっている物が白い、帆布のような丈夫な素材の布のだと分かった。それがドアの外からこちらへ少しだけはみ出しているのである。
 私はドアを開けると外に目をやった。外には薄明るい灯りに照らされた細長い廊下が左右と縦の方向につながっている。その廊下の床に、白い布が床一面にきっちりと敷き詰められている。この布の一部が私の部屋にはみ出していたのだ…しかしこの布はなんだろう、工事の予定は聞いていないが…などと思いながら、私の部屋の正面からまっすぐ続いている、廊下の先の奥の方に目をやると、床にしかれた布が膨らんでいるのが見えた。
 私はハテ…と思ってその膨らみに目をやった。その白い布の下で、子供ほどの大きさの小さな老人が目をつむって横になっている。老人はまっ白な髪の毛とまっ白な髭をぼうぼうに生やしており、それらの毛は混じり合って右に左に枕へ流れている。老人はまっ白な寝間着を着て、腹のなかほどまでかかった布の端を両手で抑え、すやすやと眠っているように見えた。妙なこともあるものだ、と私はおもった。なんにしても私は眠かったので自分の足元の布を外へ蹴りだすと、ドアを閉めようとした。その刹那、老人がすっと上体を起こし、くしゃくしゃの、怒っているような泣きそうなような、世にも複雑な表情を作って私を睨むのが見えた。私はあわててドアを閉めた。閉める瞬間に老人が恐ろしい速さでこちらに向かってくるのが見えた…ギュッと風の流れが止まる音がしてドアがしまる。あわてて鍵を二つかけ、キーチェーンをかけると同時に、何語かわからない叫び声をあげながらドアを猛然と叩く音が聞こえた。老人が私の部屋のドアを叩いているのだった。
 私は恐ろしいような気もしたが、とにかく眠たかったので、よろよろとベッドにむかって歩きだした。細く長い廊下を随分歩いて、ようやくベッドにたどり着いて横になる頃には音はやんでいた。老人もあきらめたのだろうか、と思いながらそのまま眠ってしまった。

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