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25,888歩のパリ
パリに来ている。
昨日、朝8:01発のユーロスターに乗った。
1泊2日の短い予定。
それはワイン好きたまえちゃん(仮名)が、数年のブランクをこえ、久しぶりにワインオークションのためにフランスに来るからだ。
パリには2日しかいないけど、会えたら嬉しいな。
そう言われたら、嬉しい。なんとかして会えないかと考えたくもなる。
カレンダーを見たら、12月末までに消化しなくてはならない有給休暇が4日も残っていた。
よし。月曜は休もう。
そして、そういえばプロモーションのメールが来ていたなとユーロスターのサイトに行くと、やっぱり。
片道£39の列車があった。
これだったら一泊のために行ってもいいか。
その前の週末はイタリアだし、その次の週末はポルトガルだ。
本当だったら出かけたくはない。
でもたまえちゃんがようやくヨーロッパに来られるようになったこのタイミングを逃したくも、ない。
だから一泊だけ。
ところが、そのパリへの現実逃避旅行を見透かしたかのように、金曜の段階で、山のような問題が仕事で持ち上がってしまった。
しぶしぶ月曜の夕方に電話会議を入れる。ということは、会社のパソコン持参。
ま、いいや。
パリ、行こう。
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こんなん投げ出しちゃって、パリ行っちまえという気持ちにピッタリすぎる。
金曜までそんな調子だったから、たまえちゃんにあう月曜のランチの時間まで何をするか決めていなかった。
土曜になって慌てて、ダヴィッドの店に電話したけれど満席。
なんでもっと前に連絡しなかったんだろうと思いつつ、だったら新しいお店を開拓してみようとも思い、検索をかけてみた。
ご夫婦で切り盛りするといういい感じのバスチーユ近くの日本人シェフのお店でおひとり様テーブルを確保。
これで、夕飯の食いっぱぐれはないぞ。
♢
セントパンクラス駅は大混雑だった。
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そして、当然ながら、ユーロスターも混んでいた。
私とあまり年齢の変わらないイギリス人女性がやってきて窓側の席に座った。
イヤホンをつけていた私の反応がノロノロしていたので、少しストレスを感じたのかもしれない。
しかも彼女が座ってすぐ新聞を広げて読み始めたので、無言の肘掛けを巡る攻防がしばし。
とはいえ、お互いオトナだ。
彼女はサンデータイムズ、私はポッドキャストで聴く安住紳一郎の日曜天国で、お互いの世界に入り込んだ。
「あなた、大丈夫?」
そんな彼女が柔らかく私の腕を触って訊いてきた。
ポッドキャストのパンダの名前エピソードに私が笑いを堪えて目から出た涙を拭ったのを、どうやら誤解し心配してくれたらしい。
パリに、特に冬のグレーが始まりつつあるパリに一人旅する女は、きっと京都大原に一人旅するのと同じ、センチメンタルな匂いを感じさせるのかもしれない。
ありがとう。
大丈夫です。
泣いてたんじゃなく、爆笑を抑えてたんです。
しかも、よりによってパンダの命名予想「うっちゃりあんこ」で。
♢
北駅について、まず向かったのは日曜午後の蚤の市。
小雨予報は分かっていたけど、コロナ後も変わりなくやっているのかも気になっていたから。
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敢えて地下鉄4号線で乗り換えず南下し、トラム3駅分は歩くことにした。
だから遠くから屋台の影が目に入ってきた時の感慨もまたひとしおだった。
賑やかし目的だけで、特に買うものもないし、雨のせいか歯抜けのスペースにしかも早仕舞いする屋台も多い中、蚤の市自体はあっという間に見終えてしまった。
はて、どうしよう。
ここまで来たら、全部歩くか。
昔、友達が住んでいた辺りを通りつつ、宿まで歩いて行くことにした。
よく朝並んでバゲットを買った角のパン屋。
フレッシュなアーティーチョークを選んだ八百屋。
彼らが南仏に移ってもう10年近くになる。
ということは、この辺を歩くのもそれ以来かも。
ホテルにパソコンの入ったリュックを置いて、パリの街に繰り出すことにした。
でも、どこに?
日曜は観光客相手の商業エリアでなければ多くの店が閉まっている。
今日は神経がピリピリしてるので美術館という気分でもない。
ただ、フラフラ歩きたいだけ。
グーグルマップをゆらゆら左右に動かして、老舗百貨店ボン・マルシェの食品館に行くことにした。
ボワッ。
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そこまではなかった人混みが突然ふって湧いたようだ。
そうか、もうクリスマスの準備なのだ。
と、いうことは、マカロンを買いに行かなくちゃ。
最寄りのピエール・エルメを検索し、マカロンを買い、もうだいぶセーヌ川のすぐ近くだと気がついた。じゃ、このまま行こう。
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サンジェルマンからセーヌ川。
ルーブルを抜けて、特に思いつかないので、今度はギャラリーラファイエットの食品館をチェックしに行くことにした。
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途中、角を曲がって、オペラ座の建物が目に入った時、雲の広がった夕闇の中にそのキラキラ壮麗な姿がひときわ煌めいていて、文字どおり息を呑んだ。
これまでだって見たことは何度もある建物だったのに、なぜだろう。
冬の灰色のパリの中で、しかも屋外をずっと歩いて色彩が少ない背景の後に見たからか。
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もちろんその後たどり着いたラファイエット百貨店の中は色と人混みで満ちていた。
見るものが特にないのはここでも同じこと。
屋上が開放されているようだったので、行列に並んで、私も7階のテラスにでた。
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ここまでパリの地上を歩いて移動したのは久しぶりだ。
貧乏性の私は、パリでタクシーに乗ったことが一度もない。といっても、普段は地下鉄を駆使してしまうので、きちんと地図が繋がっていない気持ちがあった。
歩くペースの風景の動き。
地区と地区の移り行く感じ。
歩くこと自体がとっても楽しく、充実感があった。
最後におひとり様夕飯を美味しく食べて、地下鉄で一気にホテルに帰着。
気持ち良い疲労感。
脚はぱんぱん。
お腹もぱんぱん。
素晴らしい歩きパリだった。
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