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イースター食い倒れ-その3:おすましランチ

3日目は朝寝坊の日。

この日のメインイベントは、Arzakというレストランでのランチだ。

サンセバスチャンにはArzakの他にAkelarreとMartin Berasateguiという3つの三ツ星レストランがある。

10年ほど前、Martin Berasateguiに行ったとき、一緒にいった食通のたまえちゃん(仮名)が「やっぱりArzakの予約は無理だったので、こっちを取りました」と言っていたので、私の中ではArzakは予約が取れないという印象が強かった。
観光客が減っている今、サンセバスチャンにいくのなら、そのチャンスを利用して予約困難なArzakが取れるか訊いてみようかしら?

そう思った私は、飛行機のチケットを取るより先に、レストランに予約のメールを送っていた。

少しおしゃれをして、三ツ星レストランに車を横づけして食事する。
そんな時間もいいよね。

2年ぶりにようやくいける女子旅なんだし。

足を踏み入れると、店内はむしろカジュアルな雰囲気で、お客さんたちの服装もずいぶんと肩の力が抜けた感じだった。
給仕長以外、ソムリエもサービスのひともすべて女性。
みんな笑顔を絶やさない。

一番印象に残ったのは、イースターらしいこの一皿。

メキシコだったら、虫じゃないかと焦ったかもしれない。
このぶつぶつはサクサクに仕上がったワイルドライス。その中に濃厚な卵がトロリと潜んでいる。
んふ。おいしい。

そして最後。

供されたチョコレートを前に

「ああ、最後のこの上の一つだけ、もうお腹がいっぱい過ぎて食べられない。くやしいなあ」

と、Nちゃんがいった。

だったら、持ち帰りたいとお願いしたらと私はアドバイスした。

「えっ、そんなのありですか?」

どきどきした表情でNちゃんがお願いすると、もちろん給仕長さんはニッコリ。

すぐに箱と紙袋を持って戻ってくると

「不思議だね。マジックがおきて、3倍に増えちゃいましたよ」

とウインクしながら、小箱をみせた。中には、すでに食べ終わっていたMちゃんと私の分まで三人分の全種類のチョコレートがみっしりと詰まっていた。

うふふ。Nちゃん、よかったね。

以前にも書いたけれど、私は「外食」とは「体験すべて」が大切だと思っている。

誰と
どこで
何を
どんな気持ちで
何を目にしながら
何の話をしながら
どんなふうにサービスされて
食べたのか

ものすごくおいしいものが食べられても、苦労したり、怒られてまでは食べたくない。

「供する人」が偉いわけでも、偉くないわけでもないし、「食べる人」が偉いわけでも、偉くないわけでもない。

双方の感覚が、
味が、
店にいる人の顔つきや、見える風景、周囲の音量や空気の流れが
自分の好みと運よくフィットしたお店。

それが自分にとっての「また行きたくなる店」だ。

そういう意味で、正直、三つ星でひとり300ユーロを払う場所としてのArzakの料理は、特に衝撃を受けるほど感動する「味」ではなかった。

けれど、
私たちの顔ぶれをみてワインのランクを調整して提案したり、チョコレートが魔法で増えたよとにこやかにジョークで恐縮するゲストの気持ちを和らげたり、といった「すべてをふくめた体験」がとても好印象だった。

少しずつ元に戻りつつあるヨーロッパで、きっともう予約はなかなか取れないのだろうけれど。

さあ、昼寝で胃袋に血液を集中させて、しっかり夜に備えよう。




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