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偽フランスでジュビリーを

エリザベス女王即位70周年(プラチナムジュビリー)で、普段は5月の最後の月曜日にあるお休みが6月2日に移動した。
そして、6月3日が追加の祝日になって、イギリスにはめずらしい4連休のできあがり。
よおし、南仏の友達のところへ遊びに行こうと、少し高めの飛行機代もやむなしで予約し、準備万端でおみやげを買いそろえていた。

ところが、数週間前から、朝夕のニュースで航空会社の混乱が報道されはじめたのだ。
ブリティッシュ航空が150便を、tui航空は200便を、そしてeasyJetは240便を、過去2週間ほどの間にキャンセル。
メディアによれば、コロナの間に大々的に解雇した人員を、ふたたび確保することができないまま移動制限がなくなり、初夏のホリデーシーズンに突入してしまったからだという。

そういえば、5月にオランダ出張したときも、「空港では3時間待ちだそうです」とオランダ人がいうのでまさかと思いつつたっぷり早めに空港にいったら、本当にセキュリティ通過に3時間かかってしまった。
こちらも、解雇した人員が戻せないでいるかららしい。

ズズズズ。

木曜日の朝3時。
我が家から少し離れたガトウィック空港にむかうため、早起きして準備していたら、テーブルの上の携帯にメッセージがはいってきた。

「easyJetより重要なお知らせ:大変申し訳ありませんが、あなたの乗る予定の02-06-2022の8723便はキャンセルになりました。詳細は…」

がーん。
もしかして、とは思っていたが、まさか。

急いで送迎のタクシーをキャンセルして、
とりあえず、
もう一回寝た。

薄暗い朝闇みの中で、起こされたはずの猫は「あれ?いっかいおきたのにまたねるの?」とでもいいたげだ。

ふたたび起きたら、10時だった。

自動給餌器できっかり6時の朝食を堪能したあと、湯たんぽ(=ニンゲン)がまだ布団にいることに気づき、よしとばかりに一緒に丸まっていた猫も、もうこんな時間かといった表情で顔をあげた。

野菜も、冷蔵庫の中身も計画的に整理していたから、キッチンはがらんとしている。
ふむ。冷凍庫の中のなにかで朝ごはんをつくるか。

テレビはバッキンガム宮殿前のパレードを流していた。
いつもチャリ通勤で通っているルートが、テレビの画面ではなんだか違ってみえる。すこしよそゆきの顔。
オリンピックのときにみたレインボーブリッジみたいに。

「ブラッサリーにランチにいこう。せめて気分だけでもフランスしに」

ヴィンセントがいった。
でかした!それはいい思いつきだ。
くやしいから、美味しいクロワッサンでも買いにいくかと思ったけれど、チェックのテーブルクロスがかかったあの店にいくほうが何倍もいい。

早朝からいつの間にかお昼時にワープしていた世界は、青空に照らされてカラフルだった。


いたるところにユニオンジャックが飾られ、郵便ポストのうえには女王とコーギーが鎮座していた。

「ずいぶん、ご無沙汰だったね」

レストランの入り口に顔を出すと、いついっても変わらない、インド系の顔立ちのマネージャさんがにっこり笑ってむかえてくれた。
たしかにコロナになって随分足が遠のいてしまっていた。

「ほんとは今頃、南フランスの太陽の下のはずだったんだ。フライトがキャンセルになっちゃったから、一番近いフランスにくることにしたよ」

それは災難だったねといいながら、外のテーブルにメニューをもってきてくれる。

ロゼの泡をあけ、バゲットにおいしいバターをつけて味わっていた時。
バッキンガム宮殿の上空で展示飛行を終えたTyphoonsと、Red Arrowsが頭上を抜けていった。

外でランチしている人も、歩いていた人も、いっせいに空を見上げ歓声をあげた。

ま、偽フランスも、悪くない。

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