ユーモア好きな女王の国で
ビジネスの世界で、日本と海外の国のやり取りの中にいると、「ユーモア」の重要さと、そしてそれが許される範囲の広さの違いに驚くことが多い。
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昨日、エリザベス女王が亡くなった。
朝の通勤時には静かに自転車で通り過ぎたバッキンガム宮殿だったが、女王が体調不良とのニュースが午後に流れたので、帰り道は敢えて宮殿の前を避けピカデリーサーカスからハイドパークへと抜けた。
雨のちらつく中自転車を漕ぐ間、頭上にはヘリコプターがバリバリバリといくつも飛び交っていた。
自宅に着いて、ネコに餌をやり、そうだ女王の病状はどうかしらと思い、テレビをつけたのは午後6時半すぎ。
女王のビデオ映像と共に体調不良のアナウンスを伝えていたBBCの画面が、数分後突然真っ黒になった。
そして、いつもなら紅白のはずのBBCのロゴが白黒で全面に表示され。
アナウンサーの画像に切り替わると静かにエリザベス女王の訃報を報じた。
彼の目は充血しているように見えたし、自分の目にはその映像が滲んで見えることに気づいた。
よその国の女王陛下だけど。
でもこの10数年、おりにつけテレビでその姿を見てきたし、バッキンガム宮殿とウインザー城の間に住んでいるので、女王の乗ったレンジローバーに出くわすことも何度もあった。
だから、まるで、イギリスのおばあちゃんが亡くなったような、そんな気持ちだった。
汗に湿ったバイクシャツを着替えてないから寒いんだと気づいたのは、1時間ほど帰宅したままの格好でニュースを観続けたあとだった。
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オリンピックの開会式でジェームズ・ボンドとパラシュートで降りてきたり、先日の戴冠70周年ではクマのパディントンとお茶会をして、バッグの中味がマーマレイドサンドイッチだと秘密を明かした女王陛下。
そんな柔軟性豊かな女王陛下の、私が一番好きなエピソードをここにシェアして、お悔やみにしたい。
これは女王の元護衛官リチャード・グリフィンさんが、今年6月の即位70周年記念式典の時に語ったもので、これまでにも記事になっているので、ご存知かもしれない。
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ある日、エリザベス女王がグリフィン護衛官と一緒に普段着でバルモラルの領地を散歩していた。するとハイキングをしているアメリカ人の二人連れ旅行者に出くわした。
女王は、公式行事でこそ警護がしやすいようカラフルな色の洋服に身を包むが、普段は地味な服装で頭にスカーフをおばあちゃん巻きしていることが多い。
そのアメリカ人旅行者たちは、まさか思ってもいなかった、しかも普段着の女王に、よもや本人とは気づかなかったのだろう。
彼らはお互いハイカーが誰でもするように、言葉を交わした。
どちらからですか、どこへ行くのですかという問いに続き、どこに住んでいるのですかとアメリカ人観光客が尋ねた時、グリフィン警護官は、やっぱりその質問が来たかと思った。
しかしエリザベス女王はまったく動じることなく
「ええ、ロンドンに家があるのですが、休暇用の別荘がこの近くにあるんです。もう子供の頃から80年ほど来ているんですよ」
と応えた。
確かに嘘はついてない。
家っていっても「宮殿」とか「城」だけど。
アメリカ人観光客は、さすがにバルモラルという土地が王室の領地で、女王が毎年お気に入りの静養先として滞在していることは知っていたのだろう。
「そんなに長いあいだバルモラルへ来ているのなら、あなたはエリザベス女王にあったことがありますか」
と、尋ねたという。
そう、女王本人に。
「私は会ったことはないのですが、この人は定期的に会っているんですよ」
と女王は平気な顔でグリフィン護衛官を指して答えた。
それを聞き、感激したアメリカ人観光客はグリフィン護衛官の肩に腕を回し、そして、あろうことかエリザベス女王にカメラを渡し写真を撮ってくれと頼んだ。
入れ替わりに写真を撮り、貴重な体験をしたことに気づかないままだったそのアメリカ人観光客達に別れを告げた後、女王はグリフィン警護官にいった。
「あの人たちがアメリカに戻った後、お友達に今の写真を見せて、そこで誰かが私が何者だったのか教えるところを、こっそり聞き耳たてたいわ」
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聞き耳を立てたいだなんて、なんとチャーミングなおばあちゃん!
こんなエピソードを元護衛官が公に語れるというのも、特にダイアナの死後、国民に親しまれる開かれた王室を推進した女王の方針があるのだろう。
伝統や格式をを重んじる部分と、ユーモアや人間らしさを出す場面を使い分ける。
緊張と緩和のバランスというのは、いろんな場面において大事だと思う。
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訃報のときに、まるで呼応するようにウインザー城とバッキンガム宮殿の上空にでた虹。
その虹の橋を渡った先で、エリザベス女王が大好きなフィリップ殿下とコーギーたちと再会していますように。
いただいたサポートは、ロンドンの保護猫活動に寄付させていただきます。ときどき我が家の猫にマグロを食べさせます。