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推しのスキャンダルに傷ついたオタクよ、清少納言に学べ!!『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 /三宅 香帆』

私は結構長いことNMB48というアイドルグループのオタクをやっている。オタクをやっていると、どんなに嫌でも爆弾のように降ってくるのが「推しのスキャンダル」だ。
「推し(もしくは推しグループ)のスキャンダル」
なんというパワーワード。一夜にしてネットニュースになり、Twitterは炎上して、今までどこにいたん?って人たちがワラワラ出てきて叩き出す。
そんな渦中にいて、「ずっと応援してきた熱量の高いオタク」は怒り狂っているかというと、そうではない。そうではない、ことが、実はとても多い。
“世間”が推しを批判する声に傷つき、スキャンダルを受けて「自粛」「休養」中の推しのメンタルを心配し、再びファンの前に立つ日は祈るように見守る。健気に推しを想う、そんなオタクたちを私はたくさん見てきた。

『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 /三宅 香帆』第1章 百合が生んだ日本一有名なエッセイ――枕草子

大学時代に日本文学を専攻していたので興味を持って手に取ったこの本。この本に、そんなオタクに重なる清少納言像が出てきたので、びっくりしてしまった。


ちょっとだけ平安文学をかじったことのある私は、清少納言ってオタクとはぜんっぜんタイプの違う、「宮中キラキラ生活〜」を発信するインスタ女子みたいな女でしょ?と思っていた。(偏見)
だって枕草子って、私が宮仕えしてる定子サロンってこんなに素敵なの〜☆とか、スゴい人に褒められちゃった!とか、そんな話ばっかりじゃなかったっけ…。

『枕草子』の真の魅力は、ただのキラキラ系エッセイとして読んでいても全くわからないのである。清少納言を「春はあけぼのがいいわねえ」なんて寝ぼけたことを言っているだけの女だと思わないでほしい。
 今ふうに言うと、清少納言は自身の才気を「推し」に捧げるアツい女なのだ。

三宅香帆『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 』
河出書房新社、p22

そうなの!?!?!?
どうやら、清少納言が仕えていた お姫さま(推し)=定子 には大スキャンダルがあったらしい。しかし、一条天皇からの寵愛は最後まで続いた。その経緯が、本書には分かりやすく書かれている。
スキャンダルがあり、世間からは非難轟々。その反面、プロデューサーに期待されて次のシングルの立ち位置も良いばっかりに、他推しのオタクからも叩かれてますます針の筵。ああ…わかるよ……。

 だが、定子の「悪夢のような日々」は『枕草子』で描かれない。(中略)
 書くものより書かないものの中に、作家性は宿る。

三宅香帆『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 』河出書房新社、p50

ま、まじか。「書くものより書かないものの中に、作家性は宿る。」なんだこの含蓄のあるパンチラインは。単なるキラキラ女子だと思ってた私があほみたいじゃないか。

(前略)清少納言にとって中宮定子は「推し」としか言いようがない。
 清少納言が『枕草子』を書いていたのはちょうど、定子たちが大スキャンダルによって世間から冷ややかな目で見られている時代。今で言えば、ひと昔前に流行ったけど大スキャンダルによって見向きもされなくなったアイドルのようなものだろうか?そのアイドルの評価をどうにか変えるために、清少納言という作家は、彼女との素敵な思い出を綴った。

三宅香帆『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 』河出書房新社、p54

ここで私はちょっと涙ぐんでしまった。
推しにスキャンダルが出て、検索ワードで上位にきてしまう時、どうにか推しの素敵なところを世間に伝えようと、“アイドル”としてキラキラ輝いている時の写真をつけて、推しの魅力をツイートする健気なオタクたちを何度も見たことがあるからだ。一緒じゃん、清少納言………。キラキラインスタ女子とか言ってごめん…………。

オタクである私は知っている。時に、いちオタクのツイートひとつ、バズって、Twitterのタイムラインの雰囲気をガラッと変えることがあることを。「いやみんなめっちゃ叩くけど、すんごいステキなグループじゃん?」言葉には、そんなふうに空気を変える、力があることを。
オタクは無力なんかじゃないことを、この本が紐解く清少納言は教えてくれる。だって私は定子の大スキャンダルより、“キラキラ宮中ライフ@定子サロン”のイメージの方がずっと強かった。それは、ひとえに定子TO(トップオタ)である清少納言の言葉の力によるものだ。

急に、千年以上前の、歴史上の人物が身近に思えてきた。私はこういう、身近な言葉で視界をパーッと広げてくれる本が大好きだ。
起こってほしくない未来だが、万が一、億が一、推しや推しグループにスキャンダルが出たら、私はまたこの本を開くだろう。
大好きな推しを言葉の力で守った、そんな清少納言の姿に勇気をもらうために。

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