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「死に山 世界一不気味な遭難事故 《ディアトロフィ峠事件》の真相」 ドニー・アイカー著 を読んで

猛暑に読むのにぴったりな、1959年2月1日に起こった氷点下の雪山の遭難事件のノンフィクションである。

冷戦下のソ連で雪山登山の若者たちが、何故か靴もはかずにテントを破って外に出て、亡くなったという不思議な事件に興味を持ったアメリカ人が、2012年に、ロシアに2度も渡り、テントがはられた真冬の雪山に足を運ぶのだ。

1959年1月末から、雪山行きの準備をしているところから始まり、彼らの死の真相にせまるべく、ロシア行きを決行する2012年の著者のドキュメンタリーが交互に描かれている。

亡くなった彼らの日誌と撮影された写真も豊富に掲載されていて、不可解な死を迎える彼らが、陽気などこにでもいるような大学生や卒業生だったことがわかる。

当時のソ連では、外国にはいけなかったが、登山が空前のぶーむだったこと、当時のソ連の様子が詳しく描かれている。

この話は、テレビの未解決事件みたいな感じでさらっと見たことはあった。

殺人説、UFO説、軍事ロケット説など色々な憶測がとびかいつつ決め手がない。

最初は猟奇的な感じがしたものの、著者はシャーロックホームズのごとくに、冷静に一つ一つの説を消していく。

そして最後の最後に、なぜ彼らが安全なテントを無防備に飛び出していったのか、という真相にきちんと結論を出しているのだ。

詳細はここでは敢えて省くが、なるほどと思わされる裏付けもきちんと専門家から取っている。
そして、それぞれの若者たちが、どのように亡くなっていったのかということまで、遺された物証を元に描かれている。

そうしておいて、本の最後に事実だけを時系列にまとめていて、この本で出した真相はそこにはない。そういう清さもいい。

私はこの本に描かれた真相に近い事が起こったのではないかと思ったが、感想は人それぞれだと思う。

ただ、猟奇的に思えたこの遭難事件や、巻き込まれた人たちに光を当てて、悲劇的な結末を迎えたものの、血の通った未来の希望に満ちた純粋な若者たちだったことが分かりホッとしたことも確か。