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俺の音楽3「Born To Be Wild 」スーパーカブでワイルドに行こう。バイクは俺の人生になった

いつから中学生の制服から学帽が消えたのだろうか、1970年当時は学帽着用しないと生活指導の体育教師に殴られていた。子供の人権なんて遠い話。
そんな時代、中学生は大人達や青年達と違う独自の時間と空間で生きていた。SF的に言えば、同じ空間なのにお互いが見えてない。リアルレディプレヤー1、そんな仮想空間だ。

部活の帰りだった。秋の日はつるべ落とし、空はあかね色に染まっていた。同じ部活で同級生のHが言う。
「ここに隠してある」
そう言うと原っぱの横の竹藪からそいつを引っ張りだしてきた。
「どうだ、凄いだろう、この前、ここで拾った」

ホンダスーパーカブがあった。フロントの泥よけとか風よけとかはなくフレームだけになっている骸骨みたいなカブである。
「拾った???」俺は信じられなかった。
  
「お前、盗んだ?」
「でけぇ声出すなよ。俺は盗んでない。きっと誰かが盗んで、そのまま捨てたんだろう。だってナンバープレートもないし・・」
「だったら、もっとやべぇー」
Hは困った顔したが、それには答えず、カブを揺すった。
「ほら、音がするガソリンがまだ入っている。エンジンを駆けよう」

Hはカブに跨がりキックをするが、エンジンはウンともスンとも言わない。
「壊れているに決まっているよ」と俺が言うとHは考え込んだ。Hは模型好きで、エンジンで飛ばすUコンを趣味としている。だから多少はエンジン始動に詳しい。
「バッテリーかな」Hはつぶやく。
「もう、帰ろう」俺は飽きてきた。
「そうだ押し駆けだ!後ろからバイクを押してくれ」
「なんだよ、疲れてるんだよね」と言いつつ、俺はHが乗るバイクを押した。原っぱの横の道を5m位押したところで、Hがカブのギヤを入れた。カブはがつんと言う音を立てて、咳き込むようにエンジンがかかった。
  
「ひやっほー」と雄叫びを上げてHはそのまま道路を走り出した。道の周りは空き地や畑だらけだから余り問題はないだろう。Hは道が竹藪で見えなくなる向こうに消えていった。エンジン音が遠ざかっていく。

しばらくすると、エンジン音近づいてきた。今度は俺が乗るぞ。竹藪の陰からHとカブが見えた。えらく飛ばしている。「あれ?」カブの後ろに自転車が、
「あっ!」なんとお回りさんだ。
俺はHに手を振るのを止め、慌てて駆けだし、原っぱの反対側にある塀を乗り越えて逃げた。
 
家に帰ってきた俺は、飛んでもないミスに気づいた。
「あれ?」
なんとサッカー部の用具を入れたバッグを原っぱに置き放しにして逃げてしまっていた。
あわてて、取りに戻ったが、すでにバッグは消えていた。
お袋に話すと当然、馬鹿かアホと怒られた。これで当分学校ジャージを着て部活をしないといけなくなった。格好悪いなぁ。

全くさんざんな目に遭わしてくれたHは、なんとかカブで逃げ切ったそうだ。
翌朝学校でHに会うと、困り顔で俺に言った。
「なあ、俺さあ、レコードをあそこに忘れちまったよ、全くついてないぜ、知らないか?」
「さぁ・・」

実は、バックを探していたとき、竹藪の中にトキワレコード店の袋が落ちていた。中を開けるとシングル盤が1枚入っていた。
「ワイルドで行こう」ステッぺンウルフ。イージーライダーのテーマソングだ。
家で、何時もの真空管のステレオで、大音量で聴いた。軽快なサウンドを聴きながら広大な大地に延びる一本道。キャプテンアメリカのチョッパーバイクが疾走する。

アメリカ国旗の描かれた小さな燃料タンクと長く延びたフロントホーク、チョッパーバイクだと部活の先輩が教えてくれた。Hのカブと大違いだ。このときバイクに絶対バイクに乗りたいと思った。
俺の人生にバイクが入り込んだ瞬間だ。この後怒濤のバイク人生が始まるのはこの時点では俺は知らない。
「うるさい!」お袋が怒鳴っている。

「Steppenwolf - Born To Be Wild 」

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