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誰にでも親はいる 介護生活と三島由紀夫

 誰にでも親はいる。
  
そして親を介護する立場になる(全ての人ではないけど)。
幸せのカテゴリーの一つとして普通に生きることがある。普通ってなんだと言われれば、私にとってはこんな感じだ。

  昭和31年(1956年)生まれの私にとって、大学を卒業したら働く。何時までもモラトリアムの中で生き残れる時代ではなかった。親は戦前戦後を経験している人達なので生半可な反抗など跳ね返される。まだ大人達が怖いし厳しい時代だ。
結婚はマスト、子供を作る。家を買って、地に足を付けて生活する。それが普通の生活だった。
その中でどれだけ自由に生きるか、そう考えて人生を生きてきた。

親を忘れていた
 結婚後は、賃貸費の安い横浜のチベットと言われている古い公団団地(現UR)に住んだ。世の中はバブルとか言っている間にお金を貯めていた。
そして、大手の企業が迷走をし始めた21世紀に会社を辞めて、会社の立ち上げに参戦した。
危険な挑戦だったが、上手くいき。そこで20年以上働いた。
その間に東京へ戻り家を買い、子供達3人を大学へ進学させた。

 この時期、自分のことで手一杯で、親の事は切り離して生きていた。
親も我慢強い人達なので、自分達で生きていた。何を訊いても
「大丈夫だよ、元気だよ」と答える。
ただ。常に頭の片隅に親の事はあった。だから近所へ、親の実家から3キロ内に家を持った。

介護は突然
 父親は早く亡くなったが、母親はガンとなりステージ4と診断された。この時、既に歩けなくなっていた。介護生活が始まった。
この時、子育てがピークだった。息子が大学1年、娘1が高校1年、娘2が中学1年だ。仕事はほぼ個人企業なので、休むようなことは出来ない。

 大手自動車会社で仕事をしている弟とシフトを組み実家において、昼間はヘルパーへ頼み、夜は自分達で翌朝までの介護をする。そんな厳しい生活が始まった。介護施設のショートステイも利用しながら3年間実家で介護を続けた。

 介護4年目だった。何故か病気が治った。かなり元気になり特別老人ホームへ入所する事も出来た。神様のご褒美だろう。ここで一息つく。

 しかし、その2年後、風邪から容体が急変し、緩和ケアの病院にて母親は老衰で亡くなった。がんは克服していたようだ。
人の死を看取ったのは初めてだった。
父親の臨終時は青森へ出張中で、東北新幹線の中で雪降る車窓を眺めていた。その喪失感と比較すれば、やり切ったという気分だった。悲しさはない。墓は田舎から移していたので、今は近所に眠っている。
そんな介護時代に書いていた日記の一つを取り上げてみた。

実家でのお泊まり 2015年1月31日(土)
 今週末は、お袋のショートステイのローテーションがずれたので、介護のため実家でお泊まりだ。これで土日は何処にも行けないことになった。つらい。
もうお袋との会話はない。
こんな生活が3年も続けば、お袋とはほとんど話す事はない。話しても愚痴になってしまう。

 そこでテレビを見るのだが、こんな状況で、民放のひな壇バラエティを見ていると、自分が馬鹿になっていくような気分になる。またコマーシャルがうるさい。
俺は真面な内容の番組を求め、結局NHKを見ることになった。

三島由紀夫
「日本人は何をめざしてきたのか 第7回 三島由紀夫」
こんな番組はNHKしかやらないだろう。スポンサー付きではあり得ない番組だ。
 今年は三島由紀夫(1925~70)の生誕90年・没後45年にあたる。戦後の日本を代表する文学者としてノーベル賞候補にもなった。
しかし、昭和45年、自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹し命を絶つ。(若い人は実際の内容を知らないかもしれない、興味があれば検索を)

 番組の中で印象に残ったのは、三島由紀夫と激論をかわした東大全共闘メンバーの話だ。思想として、三島氏は過去の歴史が日本という国と自分を作っている。戦後もそれは不変だと言う。
一方、全共闘は、戦後日本は敗戦で無になった、従って時間という流れは意味をなさないと言う。これからは新しい価値観、世界を作るのだと言う。

 過去の歴史、文化の否定。映画:キーリングフィールドを思い出していた。
ラジオから流れるimagine、泣けるなぁ。

 戦後、過去を捨て新しい生活を日本人は望んでいた。
そして日本は経済的に豊かになった。しかし、三島由紀夫は、現在の日本をどう見るのだろう。唐突だが村上春樹をどう見るだろう。その後、妄想にふける私。

三島氏の遺作「豊穣の海」
 純文学なんて、ほとんど読まないが、事務所のある神保町で探してみようと思う。読み解くのに時間がかかる文章もたまにはいいかも知れない。

 ネットに溢れる言葉はサビの部分しかない。それに条件反射して素晴らしいと感動する。あまりにも浅すぎる。
親との関係も浅すぎる。今の日本は家族が果てしなく分解している。今や独り身だらけだ。孤独死も多い。

しかし介護も苦労の果てなにかあるのだろうか、よく分からない。そこに幸せがあるとは思えん。今は明日に備えて出来るだけ眠るだけだ。

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Netflix Japan でも観ることが出来る


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