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第6回 『天涯のステラ』――雨宮しずれ氏の作品について

 雨宮しずれさんという人の『天涯のステラ』という作品を読んだ。

 この本は、短編が二作品収録された70ページ程度の同人誌だ。どちらも女子大生二人が日常で交流をするというものになっていて、コンセプトとしては文化系と体育会系女子の百合というものであると、巻末に綴られていた。

 個人的には「百合」というものにこだわる人間の心理はよく分からない。自作内で女性同士の恋愛を描写することはあるけれど、そこに「女性同士である」必要性というものは特に押し出してはいないし、恋愛において性別の区別がどこまで関わってくるのかという部分については、一つの線で描けるものでもないだろう。ともかくとして、ジャンルとしての「百合」に、ぼく自身が無理解であるということはここに記しておくべきだと思うので書いておいた。

 同時にこれは同性愛者に無理解であると示さないということも強調したいのだが。

 さて、本の感想に戻ろう。2作品のうち表題である『天涯のステラ』は麗美という女性に恋心を抱いている真理という人物の視点から語られている。大学のコンピュータルーム、食堂、体育館に麗美の家。場所を変えながら、お互いの文化トライブの祖語によって起こる名詞の確認描写などは、丁寧に展開されていると感じた。

 物語の後半は麗美の出番が少なくなり、それに応じて主人公の独白の比率が増していく。大学に行っても、思ったような場所ではなかったという誰にでもありそうな悩みを持ち出してくるのは、安直でありながら鉄板ともいえるフックだなと読むことができた。

 現実の話をすると、この雨宮しずれ氏という人物は(通っている時期は被ってはいないが)ぼくの大学の先輩にあたる人物で大学構内の描写を読むには苦労がなかった。学科の特徴によって登場人物の性質を表現しようとする演出や、自転車通学の絶妙な不便さなど、ローカルネタとしてはこれ以上なく楽しんだともいえる。

 本作においては短編ということもあり、女子大生たちの軽快なトークという描写に大部分の紙幅が割かれてしまっていて、氏の力をすべて量れたわけでもないと思う。大先輩ということあるので、ほかにどんな作品を書いているのか、率直に気になった。

 簡単だがこれを感想としたいと思う。これからnoteの更新頻度を増していくつもりなので、読んでいただける方がいればいい。一種の修行のようなものなので、未来の自分が放り出さないことを祈るばかりだ。

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