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【研修報告】 ジョブコーチ研修後に思ったこと

こんにちは。雇用支援員のサイトウです。

先日行われた、なよろ職親会のジョブコーチ養成研修にゲスト講師、アシスタント、サポートスタッフとして参加させていただきました。

3年前に受講してから、ありがたいことに毎年お声がけいただき、お手伝いさせてもらっています。


内容は研修を受けた方だけのヒミツですので、今回は研修をお手伝いして思ったこと、感じたことについて書いてみたいと思います。

よろしければ最後までお読みください。


研修の特色

なよろ職親会のジョブコーチ養成研修は、今年で13回目の開催です。
厚生労働大臣指定の研修ですので、ジョブコーチを養成するための基盤となる知識や技術を、6日間にわたってみっちりと学びます。

それだけ聞くととても大変そうですが、実際に修了された方からは毎回「楽しかった」というお声を聞くことが多いです(今回は特にそう感じました)。

研修は、各講師の皆さんがユーモアを取り入れていたり、演習ではグループでディスカッションをし、アシスタントスタッフが助言を(まさにジョブコーチ的に!)することで受講生の皆さんの参加意欲を高める等工夫しています。

もともと受講生の皆さんの意欲は高いのですが、そうした工夫もあり、適度な緊張と楽しさを持って受講されていることが、受講生の皆さんの満足感につながっているのではないかと思っています。

「真面目」と「楽しい」を両立させるのは非常に難しいですが、それをバランスよく達成できているのは、試行錯誤されながら続けてこられた実行委員の皆さんの努力だと感じています。


また、名物となっている(?)任意参加の懇親会にも、毎回たくさんの方が参加してくださいます。ついさっきまで「はじめまして」だった方々が、いつの間にか仲良くなっているのを見るのはとても微笑ましいです。


ジョブコーチってなんだろう

日本の職場適応援助者支援事業におけるジョブコーチは「障害者の職場適応に課題がある場合に、職場にジョブコーチが出向いて、障害特性を踏まえた専門的な支援を行い、障害者の職場適応を図ることを目的と」しているものです。 ※1

類型として、福祉施設等に所属する訪問型、企業に在籍する企業在籍型、そして障害者職業センターに配置される配置型ジョブコーチの3つに分類されます。

研修で取得できるのは、所属する事業所によって訪問型と企業在籍型のどちらかになりますが、研修での講義や演習の大半は同じものになり、また座席配置も双方が混ざるよう工夫しているため、福祉と企業お互いの視点を学び合うことができます。


わたしは、類型問わずすべてのジョブコーチ支援に共通する考えとして、必要最小限の介入にとどめ、支援対象者が職場に適応した場合には離れていくということがあると思っています。

基本的に職務を教えるのは会社の役割です。ただし障がいに対する適切な知識や理解がない場合には、当事者と企業の双方が困ってしまい、当事者は職務遂行が困難に、また企業は従業員を戦力化することができなくなってしまいます。そうした際にジョブコーチが介入し支援することで、円滑に職務を遂行し、戦力として働いてもらうことが可能となります。

近年は福祉機関の数も増え、障がいのある方が福祉機関から就職することも多くなりました。そのため、福祉機関が就職後のフォローをジョブコーチ的に行うことも少なくありません。ただし最初から手厚いフォローが行われると、企業が福祉に「おんぶにだっこ」の状態になってしまうこともあり、責任の所在が不明瞭になってしまいます。
かといって福祉機関が「仕事を教えるのは私たちの役割ではないので、相談には応じられません」とバッサリ切ってしまうのは、企業との信頼関係を損ないかねません。そのためジョブコーチには、企業に本来の役割を返すための必要最小限の介入と、信頼関係を作りながら企業支援を行うことが重要だと思っています。

また、日本の制度としてのジョブコーチは読んで字の如く、ジョブ(職務)のコーチであるため、基本的に支援対象者の生活支援は行いません。しかしながら、仕事というのは9:00-17:00の職業生活と、17:00-9:00、そして公休日のその他の生活が密接に関連し不可分の関係にあります。そのため「生活領域に対する支援は、同時に、就業の支援にもつながっています。」※2

最近では仕事と生活を分離したニュアンスを感じさせる「ワークライフバランス」という言葉よりも「仕事も、家族や友人、趣味、休み、健康、学びなどと同じように、自分の人生の中の一つとして捉え」※3 るという「ワークインライフ」という考え方が注目されています。

そうしたことから、現行の制度では難しいかもしれませんが、ジョブコーチは職務の支援、助言を中心的に行いつつも、個別の状況によっては生活場面に顔を出すくらいの姿勢が、現代的なジョブコーチのあり方ではないかとわたしは思っています。そうすることで、各機関が支援を躊躇するスキマの部分(ここが一番大切だったりします)に効果的に作用することができるのではないかと考えています。

重なるスキマの部分


養成研修で得られるもの

小川(2012)の挙げている「ジョブコーチが大切にすべき6つのポイント」※4 を紹介します。

①社会の中で働くことを支援する
②労働に応じた相応の報酬を得られるように支援する
③重度の障害のある人を優先的に支援する
④障害のある人のみでなく企業も支援する
⑤地域に根差して継続的に支援する
⑥プロ意識をもって支援する

小川(2012)p.14より


個人的に、これらを6日間の養成研修で身につけることは正直難しいと思っています。だからといって、この研修には意味がないのかというと、そうではないと感じています。

どんな人にでも一律に効果的な、魔法のようなジョブコーチ支援というものも存在しません。日頃から支援の現場で働かれている皆さんならよくご存知かと思いますが、支援対象者の特性や職場環境、生活状況や時間経過などで支援の方略は異なります。端的にいえば、全く同じ支援というものは存在しません。なので、ジョブコーチ的なものの見方を学びながら、その方に合った最適な支援を見つけるために試行錯誤する姿勢こそが大切なのだと思っています。そして、そうした姿勢を身につける入り口として、ジョブコーチ養成研修は意味のあるものだと感じています。


わたしにとってのジョブコーチ養成研修

最後に、わたしにとってのなよろジョブコーチ養成研修について、今まで記載したことからまとめてみたいと思います。

まず、なよろジョブコーチ養成研修の特徴について書きました。「真面目」と「楽しい」を両立させる研修を企画することで、受講者の満足度が高まり、支援仲間が増えることは、この研修のストレングスであると感じています。そうした場を作るために毎年お手伝いできるのは、わたしにとって貴重な経験になっています。

また、ジョブコーチという視点(メガネ)を学ぶことで、企業と福祉の互いの立場を理解し、連携しながら試行錯誤していく支援姿勢を身につけることができます。交流によって企業と福祉のあいだに共通言語が生まれ、活性化されることは、これからの「雇用支援」においてとても大切なことです。

そしてなにより、わたしにとってこの研修は、仕事でも家庭でもない、まさにサードプレイスです。

「名寄ロス」という言葉を受講生の方から聞いたことがありますが、言い得て妙な表現だと思います。ライフの中にあるワークでもホームでもない場所で、毎年新しい方に出会え、講師やアシスタント、サポートスタッフの皆さんと顔を合わせるのは、わたしの人生の中でとても大切になっています。終わったときに「よかったなあ〜」と「さびしいなあ〜」が混在するこの気持ち、なんだか夏フェス終わりのような気分です。

ジョブコーチの考えが輸入され、制度化されて20年弱。最近では国家資格化の話も出ています。これからも最新の情報を取り入れながら研鑽していく必要はありますが、まずはジョブコーチとなられた皆さんが、現場でそのノウハウを存分に試していただければと思っています。

ご参加くださった皆さま、運営や講師、アシスタント、サポートスタッフの皆さま、本当にありがとうございました。




引用

1. 厚生労働省「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について」( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.html )2024.05.31閲覧.

2. 松為信雄(2021)『キャリア支援に基づく職業リハビリテーションカウンセリング-理論と実際-』ジアース教育新社,p146. https://amzn.to/3Kb09x5

3. 株式会社オカムラ「WiL-BE Work in Life」( https://www.okamura.co.jp/company/wil-be/workinlife/ )2024.5.31閲覧.

4. 小川浩編(2012)『障害者の雇用・就労をすすめる ジョブコーチバンドブック』エンパワメント研究所,p14. https://amzn.to/4dLSDX4


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