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ふらっと海へ(767文字)

1992年と言えば、スペインではセビリア万博とバルセロナオリンピックが開催された年。二つの大イベントに国中が盛り上がっていた。この年、始めて一人でスペインを訪れた。

5日ほどの限られた日程の中、ホームステイで滞在していたバルセロナ郊外の家から、地下鉄に乗ってバルセロナ中心に行って、ランブラス大通りを歩いた。両側を車道に挟まれた歩行者用の通りには、色鮮やかなお花屋さんや本屋さんが、キオスクのような小さなボックス型の店構えでたくさん並んでいる。行き交う人で賑わうその通りを、海に向かって歩いた。特に目的があった訳ではなく、ただ海に行ってみようと思っただけだった。知らない街の知らない海。

まもなく、ランブラス大通りは海に突き当たった。大通りの賑やかさはなくなり、静かな、そして大きな空が開けた。オリンピックで見かけた巨大なエビがシーフードレストランの屋根に乗っかっていた。日本を発つ前に、旅行に先立って空想の中で歩いた地域だ。

そこから海に沿って左に向かうとバルセロネータと呼ばれる海岸がある。少し寂しげな砂浜に出ると、一層静かな空間に波音だけが聞こえた。故郷の海と同じ波の音。しかし、そこに漂う空気は明らかに異国のものだった。

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今日、この記事を書きながら、今でもシーフードレストランの上にエビのモニュメントはあるのだろうかと検索してみた。すると、レストランはなくなっているが、モニュメントだけは残っているようだ。1992年と言えば既に30年以上前の話。その後何カ国でオリンピックが開催されたことか。お店が残っていなくても不思議ではない。でも巨大エビが生き残っているのなら、また会いに行けたらいいなと思う。


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