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#25 先駆的発想で事業を拡大した父のDNAを受け継ぎ挑む、若き経営者の「ものづくり」と「人づくり」

有限会社鈴木農園/株式会社まどか菜園
鈴木清美さん

地産地消メニューを提供する郡山市内の居酒屋で人気の食材の一つとなっているジャンボなめこ。味噌汁などに使われる一般的ななめこの何倍もある大ぶりのなめこは旨味も食感も豊か。天ぷら、アヒージョ、マリネ、ラーメンやそばの具材など、用途もバリエーション豊富です。

このジャンボなめこをつくっているのは、郡山市東部の田村町できのこ栽培を手掛ける鈴木農園。大型のなめこは全国でいくつか生産されていますが、その中でも先駆的な存在として知られています。ジャンボ以外の一般的なサイズの商品も含めたなめこの年間生産量は800~1,200トン。創業者で社長の鈴木清さんを中心に50名以上の社員が働く、郡山随一の大規模農園です。

農業を法人事業化するのがまだ珍しかった1980年代に有限会社を設立。自社ブランドのなめこを商標登録して知財管理にも取り組むなど、発想力と行動力で事業を拡大してきた清さん。2012年からは長男の清美さんが加わり、新たな法人「まどか菜園」を設立して、郡山ブランド野菜をはじめとしたさまざまな野菜づくりも展開しています。また清美さんは、社員のやりがいや働く環境に配慮した組織づくりにも積極的に取り組んでいます。

地域の雇用を創出しつつ、ここにしかない魅力あふれる産品を生み出す鈴木さん親子。その歩みや、ものづくり、人づくりにかける想いを清美さんにうかがいました。

大きな農家に対する劣等感を原動力にした父

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清美さんの父、清さんがこの地できのこ栽培をはじめたのは、今から50年近く前のこと。清さんはもともと小さな農家の跡取りでしたが、農閑期になると仕事がなく、冬場に出稼ぎに出るのが当たり前の時代でした。

冬でも農業に打ち込み、かつ収入が見込める作物はないか。そんな模索を続ける中で出会ったのが、当時少しずつ広まり始めていたきのこの菌床栽培でした。

1975年、清さんが最初に手掛けたきのこはヒラタケ。もともと清さんのお父様の時代から少量のヒラタケを生産していたそうですが、菌床栽培はもちろん未知の世界。最初は苦労の連続だったようです。

「本当に小さな農家だったので、大きな農家さんに対する劣等感や、負けたくないという想いが強かったようです。私が子供の頃、父はよく家でサイエンス系の番組を見ていましたが、自分なりのきのこづくりを生命の起源のようなものから紐解こうとしていたのかもしれませんね。」

成熟した市場を独自性で切り拓いた「ジャンボなめこ」

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その後、努力の甲斐あってヒラタケ生産は順調に拡大しますが、やがてきのこの市場ではブナシメジの人気が拡大し、そのあおりでヒラタケの市場が急速に縮小。危機感を持った清さんは、ヒラタケからなめこへの転換を決意します。

「なめこづくりを教えてくれる方がいたことでなめこを選んだのだと思いますが、参入を決めた時点でなめこの市場はある程度成熟していて、その中で販路を広げていくには独自性がないと割って入れない状況だったと思います。どんななめこなら特色あるものにできるか。それを考えて父がたどり着いたのがジャンボなめこでした。

最初は市場の方から“そんなものはなめこじゃない”とか“B級品だろう”という批判もあったみたいですね。父はそんな声に、スーパーの価格破壊という言葉になぞらえて、“うちは規格破壊だ”と言って売り込んでいたそうです。」

栄養を豊富に与えて植菌から60日前後で収穫する通常のなめこに比べ、ジャンボなめこの生育期間は120日程度。きのこ本来の栄養素であるおがくずを中心に独自に配合した培土によりじっくり長期培養することで、大きいだけでなく酸味やエグみの少ないなめこが出来上がります。

「他のなめこは嫌いだけれど鈴木さんのなめこは大好き」

そんな声が清美さんのもとには多く届くそうです。

週末には市内のスーパーで試食販売をするなど地道な販路の拡大を続けた結果、ジャンボなめこをはじめとする鈴木農園のなめこの評判はきのこ市場の中で少しずつ高まり、やがて県内だけでなく「都民の台所」と呼ばれる東京・大田市場を通して首都圏のスーパーにも流通されるようになり、大きく成長しました。

大人になって初めて食べた実家のなめこに感動

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そんな父の姿を見て育った清美さん。高校を卒業し新潟大学農学部へと進学します。主に研究したのは、菌床栽培により出る使用後のおがくずの再利用など、バイオマスや資源循環について。家業にもつながるテーマではありましたが、卒業後は新潟で就職。同じ農業でも作物をつくることには興味がなかったと振り返ります。

その意識が大きく変わったのは2010年冬のこと。東京・六本木のレストランで開催された、生産者とシェフ、消費者が参加するトークライブに参加したことがきっかけでした。

「実はそれまで、うちのジャンボなめこを一度も食べたことがなかったんです。家でつくっているものをわざわざ自分で食べようなんて思わなくて。

ところが、その時に天ぷらで食べたジャンボなめこがめちゃめちゃうまかった。大きいのはもちろん魅力ですが、雑味のなさと食感にものすごく感動して、“農業ってすごい。今すぐにでもこれを広めたい“と思うようになりました。」

その後、震災を挟み2012年に本格的に農業に取り組み始めた清美さん。ジャンボなめこをどう広げていくか。その取り組みの中でまずは宣伝や広報に注力しましたが、当時の取り組みには反省も多いと振り返ります。

「まずは広報活動が大事だろうと思い現場の写真をSNSに上げることから始めましたが、それは大きな間違いだったと今では思っています。就農して2年目かな、夏の仕事が忙しすぎてニンジンの種まきが遅くなり、冬場にまったく収穫できない年がありました。どんなに発信しても売れるものがなければ発信する意味がないということをその時に痛烈に感じ、発信よりまずはつくることだと考え方がシフトしました。」

「社員の人生を良くするのも悪くするのも俺だなと」

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野菜づくりに加えてもう一つ、清美さんが農業経営に携わる中で痛切に感じているのが、人を育てることの大切さ。面積拡大に伴い目配りの限界や作業精度の低下を感じる中、仕事に向き合う意識を社員と共有し、仕事を自分事として捉えてもらうことで、効率や精度の向上を図っています。

「若い社員と接していると、ここまで彼らを育ててきた親御さんの努力を強く感じ、“社員の人生を良くするのも悪くするのも俺だな”って思うんです。だから、人が育つ土壌づくりにも積極的に取り組んでいます。広い意味で言えば農業も製造業ですから生産性を上げるためのPDCAサイクルについて学ぶセミナーに出てもらったり、中間管理職や広報の社員と一緒にコミュニケーションやタイムマネジメントの研修に参加したり。農業の会社だから農業だけできればいいというのではなく、社会人としてのマナーもしっかりと身につけてほしいんです。」

分け隔てなく社員と向き合い、作業一つひとつにおける必要性や意図を丁寧に説明しながら仕事を進めるうちに、社員の意識や行動も確実に変わってきたと言う清美さん。その成果は収量や品質に顕著に表れています。

「例えばカブで言うと、以前はどんなに頑張っても1日40ケースの出荷が限界だったのに、今では最高で200ケース出荷できるようになりました。これは単にマンパワーの問題ではなく、みんなの意識が変わり、配置や段取りを一人ひとりが考えるようになったからです。1日200ケースという数字が成功体験として蓄積されれば、次はもっとこうしようという意見が彼らから生まれるようになる。そういうサイクルが回り始めていると感じています。」

人材はコストではなく大切な財産

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なめこに加えて野菜の作付面積も年々拡大。約50ヘクタールの畑では、自社ブランドの枝豆「おひさまの香り」や郡山ブランド野菜の「あこや姫」「御前人参」などを生産しています。畑はGoogleMapでマッピングし生産を管理。肥料の散布にはドローンを導入するなど、清さんのDNAを感じさせるアイディアも。この先、さらにどんなビジョンや夢を農業に描いているのでしょうか。

「食文化や食材が多様化する中、どうしたらうちのなめこや野菜を選び、食べてもらえるのか。そのための取り組みを今後は強化しなければいけないと思います。対面販売もいいと思いますし、今までほとんどやっていなかった個人のお客様への宅配やネット通販もやってみたいですね。

人材の雇用はコストと考えられがちですが、若い社員が育っていく過程を見ていると、本当はコストではなく大切な財産なんだと強く感じます。そうした財産がより生きるような場面を、これからも仕事の中でどんどん探していきたいと思います。」

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有限会社鈴木農園/株式会社まどか菜園
福島県郡山市田村町
Instagram @suzuki_nameko.madoka_vegetable

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<鈴木農園のジャンボなめこ、まどか菜園の野菜が買える場所>

■旬鮮直 食材しのや
福島県郡山市桑野3-15-6
https://www.instagram.com/syokuzai_shinoya/


<鈴木農園のジャンボなめこ、まどか菜園の野菜が食べられる店>

■居酒屋しのや 郡山駅前本店
福島県郡山市駅前2-6-3 メッソビルB1
TEL 024-983-0787
https://www.instagram.com/shinoya1102/

■居酒屋しのや 郡山桑野店
福島県郡山市桑野2-7-1
TEL 024-983-0787
https://www.instagram.com/shinoyakuwanoten/

■居酒屋安兵衛
福島県郡山市大町1-3-12
TEL 024-933-9326
https://www.instagram.com/izakaya.yasubey.koriyama/

■Best Table
福島県郡山市朝日1-14-1
TEL 024-983-3129
https://besttable.gorp.jp/

取材日 2020.12.16
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Interview / Text by 髙橋晃浩マデニヤル
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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