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#26 「せっかく始めるのだから当たり前ではないことを」新しい農業を探したどり着いたエディブルフラワーの道

せっちょっぱら農園
影山智さん、美樹さん

食べられる花、エディブルフラワー。料理やスイーツに彩りとして添えられているのを、みなさんも一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか。見た目の美しさ、可愛らしさが大きな魅力ですが、実は栄養価が非常に豊富であるとも言われ注目を集めています。

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近年、福島県内でも少しずつエディブルフラワーの生産者が増え始めているようですが、ここ郡山でも、あるご夫婦が2019年からその栽培に取り組んでいます。市内富久山町八山田の影山智さん、美樹さんご夫妻。この地で約100年続く農家の4代目です。

代々続けてきたコメ作りを受け継ぎながらエディブルフラワーの生産に取り組む影山さん。その想いやこれまでの歩み、エディブルフラワーに乗せて描く将来の夢などを語っていただきました。

農業をやるにしても親と違うことがやりたかった

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子供の頃から田んぼや畑が遊び場で、農業の楽しさを肌で感じながら育ったという智さん。岩瀬農業高校や福島県農業総合センター農業短期大学校(アグリカレッジ福島)で一貫して農業を学びました。しかし、専攻したのは実家で手掛けるコメではなく野菜作り。「農業をやるにしても親と違うことがやりたかった」と振り返ります。アグリカレッジ福島を卒業後は、会津農林高校や磐城農業高校に実習助手として勤務しました。

磐城農業高校での3年目、長く田んぼを守ってきたお爺様が亡くなったのを機に、智さんは農業を継ぐ決意をします。しかし、お父様の代に兼業農家となっていた影山家の田んぼは3haほど。コメ一本で生計を立てるには難しい規模でした。

家族の命をつないできたコメ作りの伝統を受け継ぎつつ生活を支えることができる新しい農業の形はないか。智さんは東京にある日本農業経営大学校に入学、経営を中心にあらためて農業について学び、その道を模索し始めます。

1年が経った頃、ゼミで訪ねたある農家の生産物に智さんの目は留まりました。実家のコメ作りとも、学んできた野菜作りとも違う、これまで触れたことのない作物の世界。それがエディブルフラワーでした。

これからの土地で広めることにこそ意味がある

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智さんの実家の裏手に建つ一棟のパイプハウス。稲苗を育てるためにお爺様が建てた、家族の農業の歴史を見つめてきたハウスです。苗はその中で一ヵ月ほど成長し、ゴールデンウィークには田んぼへと植えられます。次の春が来るまで、苗を育てたハウスに役割が与えられることはありませんでした。

「エディブルフラワーの農家さんを見た時に、うちのハウスがすぐに頭に浮かびました。小さい面積でも栽培できるし、ハウスを使わない期間をすべて花作りに充てることができる。これからの時代にうちのような小規模な農家がやっていくにはピッタリだと思いました。

でも、東京で流通しているからといって郡山でも需要があるかどうかはわからない。不安もありましたが、せっかく新しいことを始めるのだから、誰もがやっている当たり前のことではなく、手がけている人がまだあまりいない土地でそれを広めることにこそ意味があるだろうと考えました。」

2年次にはエディブルフラワーの卸を手掛ける会社でインターンシップを経験。市況や人気の品種、パッケージングや発送などの知識を身につけ、美樹さんと共に2019年の春に帰郷します。美樹さんは会津の出身。東京で知り合いましたが、智さんとはアグリカレッジの先輩後輩の関係で、卒業後は東京のフラワーショップで働いていました。奇しくも花でつながった2人の、まさに二人三脚での花作りが始まりました。

「百姓っていう言葉が好きなんです」

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今、ハウスでは、ビオラ、アリッサム、ナデシコの3品種に季節ごとの花を2~3種類加え、合計常時約1,600鉢もの花を栽培しています。

「ビオラの場合、1鉢で約100輪、3ヶ月ぐらい花を取り続けることができます。花を摘むという行為が最初は痛々しくも感じましたが、摘まれても生きようとして次々に花を咲かせる姿を見ると、この子たちは自分たちが思っているよりはるかに逞しいんだと感じます。」

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味は花によってほんのり甘みを感じたり、ハーブのような風味があったり。冷蔵庫で保存すれば2~3週間はその美しさが保たれます。口に入るものだから農薬は一切不使用。仕入れる種から無農薬で育ったものだけを選び、土も自分たちで配合して丹念に育てます。花を育てるポットを管理する台もDIYが得意だという智さんの自作です。

「“百姓っていうのは100のことができるからそう呼ばれるんだ”と祖父から言われて育ちました。だから僕も何でもできてこそ農家だと思っていますし、百姓って言葉が好きなんです。」

すべてにおいて2人の手間と愛情がかけられた花。それが影山さんのエディブルフラワーです。

「“うちの子かわいいでしょ”って、心の中で(笑)」

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就農して2年が経ち、地元でのつながりも生まれ、着実に販路を広げる2人。一番の励みはやはり、お客様が喜んでくださるその声だそうです。

「うちの花を手に取って第一声で“きれい”とか“かわいい”と言っていただけるのは、やっぱりめちゃくちゃうれしいですね。そのたびに、“そうでしょ、うちの子かわいいでしょ”って、いつも心の中で思ってます(笑)。」

せっちょっぱら農園という名前は、ここの地名である「節上原せつじょうはら」をお爺様や地域の人達がそう呼んでいたのが由来です。

「体験型の農園など、いつかは食育に関わるようなこともやりたいと思っています。その時に小さいお子さんでも読めるような名前の農園にしたかったこと。かつ、その土地に根差した唯一無二の名前にしたいと考えた時に、“これだろう”と思いました。

体験農園以外にもやりたいことはいろいろあります。まずはハーブを育てたいですね。純粋にハーブとして出荷するのはもちろん、ハーブティーとドライにしたエディブルフラワーをセットにして商品にするのもいい。それを売るための直売所もあるといいでしょうし、そしたらそこで、うちのコメを米粉にしてお菓子を作って、そこにうちのお花を添えて販売したりとか…」

とアイディアは尽きません。そんなたくさんの夢を叶えるために、今日も2人はハウスに立ち、色とりどりのエディブルフラワーたちに愛情を注ぎ続けています。

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せっちょっぱら農園
E-mail secchoppara.farm@gmail.com
Instagram @secchoppara_farm

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<せっちょっぱら農園のエディブルフラワーが買える場所>

■旬鮮直 食材しのや
福島県郡山市桑野3-15-6
https://www.instagram.com/syokuzai_shinoya/

<せっちょっぱら農園のエディブルフラワーを使っているお店>

■和楽カフェ
福島県郡山市新屋敷2丁目111-2
https://www.instagram.com/warakucafe/

■ショートケーキ専門店 KINU
https://www.instagram.com/kinu_no.ie/

取材日 2021.1.11
最終更新 2021.4.6
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Interview / Text by 髙橋晃浩マデニヤル
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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