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「番付表」から見る『三役』の凄さ

実際に「番付表」を見たことがない人が多い


相撲は、日本の「国技」といわれるということもあり、生活の中でも相撲用語が出てくることもある。

例えば、期待が外れることを「肩透かしを食う」と表現することや、まだ始まったばかりのことを「まだ序の口だ」と表現したりする。この番付に関するものでは、最上級のことを「横綱級」と表現することもある。

相撲の地位は、上から横綱、大関、関脇、小結、前頭(平幕)、十両、幕下、三段目、序二段、序の口、あと番付外という順番になり、番付表には番付外以外の力士が記載される。

そして、番付表の最上段に横綱から前頭(平幕)まで、上から2段目に十両と幕下、上から3段目に三段目、下から2段目に序二段、一番下が序の口となる。つまり、地位の呼び方は「番付表の書き方」に由来するものと考えられる。
十両と幕下は同じ上から2段目に書かれているものの、十両からは「一人前」とされる関取となり、幕下力士よりも太字で書かれている。これは、幕末から明治時代にかけて、幕下の上位10人に対して十両を与え、関取待遇としたことに由来するとの一説がある。そのため、十両を「十枚目」とも表現される。

ここまで番付表の概略を述べてきたが、実際にこのコラムをお読みの方で、実際に番付表を見たことがある人は、どのくらいいるだろうか?
元力士が経営しているお店や和食店、店主が相撲の後援会に入っている等で店内に番付表が貼られていることはあるものの、その番付表をじっくりとご覧になったことはあるだろうか?

よく聞くのが、「番付表を見たことがない」「見たことはあるけど、何が書いてあるかよくわからない」との声である。おそらく、相撲に興味がなければ、番付表の存在自体に気にも留めないのであろう。

「番付表」が物語るもの

このコラムをお読みになられた方は、ぜひ番付表をじっくりとご覧いただきたい。実際には、番付表の「楽しみ方」は色々とあるものの、ここでは番付表から見る「三役の凄さ」についてお伝えしたい。

先ほど、「地位の呼び方は、番付表の書き方に由来している」と述べた。また、相撲の地位の中で「前頭(平幕)」と書いたことにも、理由がある。

「相撲の地位」について、先ほど述べたことくらいは相撲を知っている人なら「当たり前」のことのように思われるだろう。ただ、その「当たり前」と思われていることにも、隠れた事実がある。

十両も「前頭」?


番付表を実際にご覧になると、十両力士の四股名の上部に「前頭」と書いてあることに気づくだろう。
実は、「前頭」とは、幕内の平幕力士の「専売特許(?)」ではないのである。

便宜上、相撲のアナウンスでは、幕内力士の中でも平幕力士を「前頭〇枚目」と表現し、引退後の力士の最高位も、同じような表現をする。また、最高位が十両以下の場合も、地位の呼び方に基づいて表現される。そこが、真実を見過ごしてしまう「盲点」となっている。

では、幕下力士以下はどうなっているのか?

改めて番付表を見ていただくと、幕下力士の四股名の上に「同」という字が連なっている。これは、三段目や序二段、序の口でも、略して書かれているものの「同」の字が連なっているのである。

つまり、平幕以下、序の口力士まで、番付表の四股名の上に「前頭」と表記してある、ということである。
この点は、相撲ファンでも知られていない、というか、気づいていない方が多い「盲点」なのである。

三役力士の「特権」


三役とは、大関、関脇、小結を指す。

「横綱は入らないのか?」ということになるのだが、「横綱」は元々、大関の中でも、綱を締めることを許された力士のことを俗称として「横綱」と呼ばれたことから始まっている。後に、横綱免許を受けた大関が、当時まだ横綱免許を受けていない大関よりも下の地位(張出扱い.。この点も最近のファンには伝わりにくいところだが…)に書かれたことにクレームを出したため、収拾を図るために「横綱」と記したことが、番付上に横綱が表記された始まりとされる。
よって、現在でこそ「横綱」は地位として定められているものの、実際には大関に含まれるとも解釈されており、番付上から「横綱」が消えることがあっても「大関」が消えることはない(令和5年夏場所は、照ノ富士が「横綱大関」と記載されたことは記憶に新しい)。

この「横綱」を含め、「大関」「関脇」「小結」が四股名の上に記載されるということは、どういうことなのか?
それは、大相撲の力士が全体で600~700人いる中でも、四股名の上に横綱、大関、関脇、小結と書かれる力士は、多くても10人程しかいない、ということなのである。三役以外の力士が全員「前頭」であることを考えると、これはかなりの「特権」と言えるのではなかろうか?

NHKの解説者である舞の海秀平氏が、「小結に上がったとき、『元小結』と名乗れることが嬉しかった」と語っている。この気持ちは、番付表をじっくり見ることを通じて、「三役の凄さ」を考えると、決して大げさなことではないだろう。

(参照 「相撲大事典」(金指 基著 現代書館)

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