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12月 山間の雪に埋もれて蕗の薹(積雪の京都・美山町の茅葺き農家)

 2020年もあと少し。今年は未曾有の長期政権が倒れ、しかし、それと余り変わることのない後継政権が相変わらず無為無策の政治を行なっています。こうした状況のもと、「実体」としての日本は、ここ10年足らずの間に進んできた世界に冠たる「後退国ぶり」が一層きわだった1年だったような気がします。
 政治と経済の世界では先進国で唯一、GDPが激減して過去最低の世界35位に低迷、世帯収入も激減しました。にもかかわらず昨年、消費税を上げるという愚策が講じられた結果、どん底にまで景気が沈み込んでいます。それに新型コロナ禍が拍車をかけているといった惨状です。

 さらに前政権とその周辺で続発した、文字にするのもけがらわしい法の蹂躙犯罪まがいの行為が今なお、法のお咎めを受けずに放置されています。で、力を誇示したがる人々が社会のあらゆる場所で守られるべき規範を蹂躙するという無規範状態が常態化しているのです。

 そのかたわらで、確実に子供たちの学力や体力が蝕まれ始めています。
たとえば昨年に実施された「学力の国際比較」では2012年以降、「数学」は7位から6位に上がったものの、「科学」は4位から5位に、「読解力」に至っては4位から15位に転落。まともに「日本文字の読めないリーダー」のマネが広がっているのでしょうか。さらに「50m走」「ソフトボール投げ」など、子供たちの体力もまた着実に低下しているようです。

 くわえて若い人たちが子供を産まなくなり、2019年には戦後初めて出生数が90万人を割りました。
 このように「実体」としての日本は、確実に衰退の兆候を示しているというほかありません。

 じゃあ、どうすればいいのか。思い出すのは有名な歴史学者の木村尚三郎さんの言葉です。いわく、

   「ふりかえれば、未来」

 むろん過去がすべて「結構ずくめ」だったなどとは思いません。が、さまざまな欠落がありながらも、他方に好ましいことのあった過去の知恵を振り返ることにも多少の意味があるかも知れないという気がします。
 年末に、そんなことを思いながら、こんなエッセーをお届けします。
                      (写真はWikipediaより)

 京都府南丹市の美山町には、たくさんの茅葺き農家が今も健在である。その緯度は北緯35度――ここから同緯度に沿って地球一周を試みる。と、中国の西安、チベット高原、カブール、メソポタミア平原、カサブランカ、大西洋を渡ってアトランタ、フェニックスに至る。
 そのほとんどは砂漠か半砂漠地帯だ。樹木が生えているのは中国の一部とアメリカの東海岸だけだ。それに対して日本の同緯度地帯は、本来がうっそうと繁る照葉樹林である。植林された杉や桧もあたりの山を美しく彩っている。

 そんな日本の山に夏、欧米の植物学者を案内する。と、熱気と湿気と植物の種類から、
 「ここは熱帯だ」
 と言いつのる。が、大雪の降る冬の風景を目にすると、今度は、そこが温帯だということを疑い始める。

  今でこそ日本人の多くは平野の大都市に住んでいる。しかし昔の日本人は好んで山の端を耕した。燃料や木の実や鳥獣を得るにも山が不可欠だったのだ。日本人の暮らしの原型は、山に囲まれた小盆地で育まれた。
 それは、冬と夏の寒暖差が激しい日本の気候が一層きわだつ地形でもある。断熱効果の高い茅葺き屋根は、そんな暑さと寒さに耐える住居の工夫のひとつとして工夫されたのだった。

 ただ、『徒然草』は、

 「家の作りやうは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる」

 と記した。が、山深い土地の日本家屋の冬は厳しい。そこで、頭はすっきり涼しいまま、下半身のみを暖めるコタツが広く愛されたのだろう。

 その偏愛は相当なものだ。ある真冬、都市のマンションのLDKでの生活行動を72時間にわたってビデオカメラで連続撮影するという調査をした。と、応接セットを壁際に寄せ、絨緞の上に置きコタツを持ちだし、ソファを背もたれに用途変更する家庭が多かった。
 かなり不思議な光景だ。が、たとえば冬の旅先が雪をいただく茅葺き屋根だったなら、コタツのある風景は心身ともに暖まる懐かしさに満ちているに違いあるまい。美山町の茅葺き農家の風景に、そんな思いが掻きたてられる。

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