関西スーパー争奪 ドキュメント 混迷の200日を読んで 株主総会について考える

前回書評系の記事についてちょっとスランプ気味 、と記事をアップしましたが、今回のものは、クオリティー的にはあまり問題ないのではないかと思い、投稿してみますね。

今回は、小理屈野郎の地元、関西圏では有名な関西スーパーの合併問題について経時的に報道をまとめて、考察をした著書 を読んでみました。

関西スーパーは関東圏では有名なオーケーストアから買収提案を受けます。それを拒否すべく、元々資本提携のあったH20リテイリング(阪急・阪神の連合)とタッグを組みオーケーの買収提案をはねる画策をします。そして、その決議をとる臨時株主総会で、思いもよらないことが起こり、最終的には法廷まで話が持ち込まれますが、結局オーケーストアからの買収は不成立となった事件です。その事件についての著作です。

では、書籍のメタデータを貼っておきますね。

今回も読書ノートからの書評ですので、小理屈野郎の読書ノート・ローカルルールの凡例を以下に示しておきます。

・;キーワード
→;全文から導き出されること
※;引用
☆;小理屈野郎自身が考えたこと


書名 関西スーパー争奪 ドキュメント 混迷の200日
読書開始日 2022/05/23 22:01
読了日 2022/05/24 18:32

読了後の考察

あっという間に読み進めることが出来た。
ビジネス、そして経営に関わる著作だったこと、そして事実の報道がメインになっていたこともあって非常に読みやすかった。
また、今までの知識の蓄積が役に立ったと思う。

最終的に問題だったのは端的にいってしまうと、過去の実績や個人である創業者の偉大さにあぐらをかいた商売をしていた ことだろう。
それ以外にも取引企業による持ち株会社の問題、H20とともに示した成長戦略の脆弱さも問題になった のだろう。
ぱっとみた感じはオーケーの方が正々堂々としているような気もする。しかし企業は人が運営するもの。関東といわれてしまうと敵対してしまう関西という土地柄 もあったのではないか、と考えた。ある意味関東対関西の代理戦争 のような様相を呈していたとも考える。
オーケーは決着がついてからの行動がサバサバしてていいなと思ったが、これは経営判断が速く、もうこの問題は終わり、この結果をもって次の行動を起こそう、という決断の早さから来ているのかも知れないと考えた。
サバサバしすぎているから、最初の買収計画の時も関西スーパー側からしたら突飛な行動をとったと思われたのではないか 。今回についても最初から丁寧な根回しをしておけば良かったのではないか ?その事実の有無などについての突っ込んだ調べが欲しかった。

今回の問題は司法にも問題提起をした。今回の事案に関しては、高等裁判所や最高裁の判断は個人的には妥当だと思う。
そして、このような極めてセンシティブな議決をとる臨時総会であるにもかかわらず、事前に決議権を行使した人を本来は別室で総会をみるべきなのに、臨時総会本会場に入れ、投票箱を回した時に係員にその旨を話しているのにちょっと中途半端な対応にしてしまったところが問題だろう。それぐらいシステムの重箱の隅をつつくような案件 だったのかも知れないが。
会社法はスチュワードコードシップでかなりのところが欧米化や透明化がされてきている。しかし実際の企業の運営、それも上場していても大企業ではない場合は、それほど進んでいない 、という意識の差も出たのかも知れない。
各プレーヤーが欠かすことの出来ない働きをしていて、それらが今後に色々な問題を提起したと思われる。
単にゴタゴタした騒動、という新聞社会面の報道だけではみないものがみた と考える。

概略・購入の経緯は?

日経ビジネス書評に掲載されていたため、購入とした。
地元資本のそれなりの歴史あるスーパーが買収の対象になり、かなりの泥沼になったようだ。
真相はどのようなことだったのか興味があり購入とした。

本の対象読者は?

株式会社などの総会に関わる人(特に上場企業の)
会社経営に興味のある人

著者の考えはどのようなものか?

いくつかの論点に分け、それぞれをまとめてみた。

・関西スーパーの概要

効率的な店舗運営の手法を全国に広げ、かつて「スーパーの教科書」といわれた。
伊丹が始祖地。
成果の低音管理方法を研究し、ほぼ手作りで冷蔵庫(冷蔵オープンケース)を設置。これにより鮮度を一日中保ち、時間によって売価を変えることなく販売できるようになった。
食品販売に特化。贈答品の販売や衣料品の販売も元々はしていたが廃止している。
鮮魚や精肉を裁くには職人技は必要ないとして、そのノウハウは「関スパ方式」として全国に広まっていった 。加工センターなどに頼らず店舗内で加工を行っていた。
関西スーパーに学びたい、という人がいれば創業者は誰ひとり拒まなかった。そして丁寧にノウハウを隠さず教えた
創業者は毎日市場に出向き定点観測して、ものの流れや経済状況を押さえた。

→**「スーパーは素材を売り、調理は家庭で」** という方針で商売をしていた。

ダイエーがイオングループに買収されたことで、自分たちは買収の洗礼を受けないだろう と慢心していたところもある。
どちらかというと独立志向が強かった。
現在は東証一部上場企業。
21年3月期の連結売上高は約1300億円、売上高営業利益率は2%とライバルに見劣りするレベル。

・H2Oリテイリングの概要

阪急のブランドの元にあるので、ブランド力は強い。
百貨店に続く事業がない、ということで食品スーパーを第2の柱と据えることになる。
16年にオーケーが関西スーパーの大株主になり買収をされかけたために泣きつかれて、資本提携を結ぶ 。ちょうどその時期、イズミヤと阪急Oasis(阪急が起こしたスーパーマーケット事業)の合併の時期ともかぶっており以降、関西スーパーとの協業は進まず。
万代とも業務提携を行った。万代は関西スーパーの教えを忠実に再現する「一番弟子」ともいる存在
これらの売り上げを合わせると、かなりのシェアを奪えることになる。
今回のTOBに対抗すべく、H2Oと関西スーパーの合併によるシナジーを理論計算して公表したが、イズミヤも阪急Oasisも非上場会社になっていた ので、みんなが納得できるような説明ではなかった。
また、今後の成長もペースを異常に高く見積もったと思われる内容だった。
手元のキャッシュが薄めで、オーケーのTOB価格でもH2OはTOBできないぐらいの内部留保だった。
オーケーは関東では国道16号線の内側でドミナント化を進めることは出来るが16号線外側では難しかった。
関西は、阪神間のレールサイドの都市部である「内」と郊外・ロードサイドの「外」に分けられれ、レールサイドのH2Oとしては進出は是非とも避けたかった。

→食品スーパーが資本の理論だけでは割り切れない存在であることの証拠

・オーケーの概要

どちらかというとディスカウント系。
セコムの飯田氏の末弟が創業者 。セコムの飯田氏のすぐ下の弟は「天狗」という居酒屋チェーン店の創業者。(起業家一家といわれているらしい)
米国流の店作りを日本に取り入れていた関西スーパー総合者の北野祐次氏に教えを請うた 縁がある。
大手食品メーカによるナショナルブランドを大量に仕入れて徹底した安売り戦略 に強みを持つ。
昭和の時代は流通大手からM&Aを良く仕掛けられていたが、取り込まれるような仕草をするものの、資本のみそぎからするりと抜け出し 独立を保っている。
ディスカウント系なので、店舗を出店する時もコストをなるべくかけない。他の店舗を居抜きで買い取ったり借りたりすることにより、コストダウンをしている。
現在も非上場企業

・オーケー提案の概要

16年に大株主になり、関西スーパーのM&Aをもくろむも、H2Oと関西スーパーが資本提携をすることにより、無理となった。
今回有効定期TOBを行うこととし、関西スーパー株の取引市場の最高値で買い取ることを提案した。

・取引先持ち株会の問題

元々は理事会で理事長一任にするのが今までの慣例だった。
持ち株会の会員企業は関西スーパー・オーケー両方ともに取引がある ところが多い。そのような企業としては、どちらかに賛成をすることによって、反対された企業から取引を注視されるのが一番怖いところ。踏み絵を踏まされている 状態。
持ち株会員の伊藤忠は、自社の株主に対しての説明責任を果たす、という意味で、(本来であれば取引先持ち株会の会員であるし、どちらも関西発祥の企業でもあり、苦楽をともにしてきたので関西スーパーとしては賛成してくれると思っていたが)関西スーパーに公開質問状を出したりした。これが関西スーパーにとっては紙爆弾 、とみたようだ。
持ち株会の議決権行使結果は開示されない。持ち株会全体としての賛成、反対、棄権の比率が開示されるのみ
結局、臨時株主総会では会員各社の独自の投票を行うこととなった。

・総会運営

まずは重要なルールを整理しておく。

・事前の決議権行使を行うと、総会での議決には加わることは出来ない。
・もし事前の決議権行使を行い、総会の議決に加わる場合は、事前の議決権行使の意思表明は撤回したものとされ、総会の議決が決議の意思表示となる。

総会の投票の意思の意味
1.賛成;合併に賛成
2.反対;合併に反対
3.棄権;投票総数に含まれるので、賛成票の比率が下がる。
4.不行使;投票総数にカウントされず、有利になる。

今回問題になったのは4600株(46個)の決議権
まず、事前の決議行使を行い、書面を提出していた。
その後、状況がかなり微妙になってきたので、臨時総会に出席することにした。
会場入場時に、事前の決議行使を行っていたので、総会の本会場ではなく別室でみることになっていたが、総会の雰囲気をみたいということで、本会場に入場。
その時に受付の係員に「事前の決議行使の内容は破棄される」という意味のことをいわれている。本人は投票しないつもりだったようだ。
マークシート方式だったこともあり、とりあえず投票用紙は白紙(=棄権)で投票した。その時に、事前の決議権の内容を活かしたいので投票しないといったが、集票の係員は、投票用紙の受付番号で、個人特定できるので問題ないとし、投票用紙を投票箱に入れさせた。
投票結果が非常に微妙なため、再三の結果発表の延期がアナウンスされる。
それによって今回の投票の意思がちゃんと出ているかが心配になり、本人が受付にその旨を伝えた。その後弁護士が登場。投票内容と事前決議権行使の時の内容に齟齬があることに気付く。弁護士と本人が会う直前からの内容は弁護士が録音していた。
以上のことから、開票場で、その個人の白紙の投票用紙は賛成票とカウントされた。それにより賛成比率は66.68パーセントとなった。(そうでなければ57.1%だったとのこと)
また、総会の本会場の様子は多数のビデオカメラで収められており、投票時の本人の行動はきれいに残っていた
これにより騒動が起こる。

・総会後の司法の騒動

開票時の一悶着を開票に立ち会った、地裁選出の検査役弁護士が総会後1週間という早い時期で報告
それをみてオーケーが決議を不服として地裁に提訴。地裁はオーケーの判断を認めた。
高裁での判断に移り、高裁では、ビデオの内容、弁護士の録音、本人の言い分などにすべて合理性を認め、決議は問題なしと判断。
さらに最高裁に判断が移ったが、高裁の判断を支持して決着。

・その後の両者の様子

司法の決定通り、H20の食品スーパー事業を統括する中間持ち株会社となった。
長い目でみると、地元企業の方が親和性が高いという地場の論理 が一定レベルで働いた。
オーケーは保有株を1518円というかなりの安値で放出 した。

その考えにどのような印象を持ったか?

どれも現在システム上問題になることを提起すべく動いている 感じがして非常に興味深かった。
また、会社も従来の企業、そして先進的な企業と二極分化が起こってきている 印象を受けた。
スーパーという業態が非常にある意味特殊 であることも分かった。

印象に残ったフレーズやセンテンスは何か?

スーパーが乱立しているのは、地域の消費者ニーズがきめ細かいほか、日本人が長期の保存が難しい生鮮品を好むということもある。

→品揃え、味の嗜好、顔見知りの店員など、価格や規模でない特質が地域スーパーの生命線 として全国チェーンの進撃を食い止めてきた。

・地元のスーパーが遠隔地も含めて大きなアライアンスを組みだしている。

規模の拡大に伴い競争力の向上と、地域の生活を守るため(☆画一的なスーパーチェーンが蔓延ると日本中どこでも同じ様子になってしまう)
地域ならではの食文化が廃れないように、地域の雄で手を取り合う

企業統治改革で持ち合いの解消が進み、海外株主も増える中で、総会は株主と経営者が主張をぶつけ合う場に変わった。株主総会はもはや「なれ合い」が許されなくなってきた。

買収されるかどうかの重大局面に置かれ(中略)与党株主、つまり安定株主が、突然「不安的株主」に立場を変える 

ビジネス上で付き合いがある企業同士が、相手先の将来を左右する株主総会議案に疑義を唱えることはこれまでの日本ではほぼあり得なかった。
機関投資家が株主総会の個別議案の議決権行使結果を開示し始めている。そのため、企業と機関投資家の間には健全な緊張関係が生まれつつある。**

→☆色々と面倒にみえるが、今までがいい加減すぎた 、ということだろう。

かまびすしくなろうが、議論と情報が増えることは市場にとってプラスにこそ慣れ、マイナスにはならない。
(自社の保有株の)一部を持ち株会から引き出して自社名義での保有にする企業もある

→☆すごく戦略的。どちらにもいい顔が出来る 、ということだろう。
こうなってくると株式会社制度の意味もない ような気もする。

類書との違いはどこか

今回の騒動について時系列で経済・経営・司法的なところからしっかりと掘り下げたところ

関連する情報は何かあるか

会社法、それらの運用の歴史、そして会社間の関係について

まとめ

非常にたくさんの問題点を提起した著書だと思った。
この決定を受けて、今後関西スーパーとH20リテイリングがどのように業績を伸ばしていくかがある意味楽しみになってきた。


この著書も読み終わった後、感想がぶわぶわとあふれ出してきた著書 でした。
今回は果たしてうまく表現できていますでしょうか…

よろしければサポートお願いいたします。 頂いたサポートは、書籍購入や電子書籍端末、タブレットやポメラなどの購入に充当させていただきます。