マイリファレンストラック 2021
自分はサブスクで音楽聴き漁れる時代サイコーって思っていて、
いつどんな曲のレコーディング・ミックスするにあたっても
様々な先人達のナイスソングをディグってリファレンスにして作業を進めています。
リファレンスにするのは、その楽曲に対して作曲段階からお題に挙がっていた楽曲の場合もあるし、構成する楽器の編成が似ている楽曲の場合もあるし、アーティスト本人が気に入っている過去の自身の音源だったりします。
そういったピンポイントに狙った実務直結型のリファレンスもありつつ、自分の音像を作り上げるヒントとしての"オールタイムリファレンス"みたいな楽曲が自分の中にあります。
要は個人的に音像や精神性が気に入っていて、レコーディングエンジニアでいる上で常に見習いたい楽曲ってことですね。
スピーカーチェックに使ったり、自分の体調確認に使ったり、ミックス終盤に「お前本当にかっこいいもの作れてんのか?」の自省の為に聞いてみたり。
今回はその中から2021年に発売された楽曲に絞って10曲紹介します。
去年の制作はほぼこれらの楽曲と共にありました。
紹介順に特に意味はないです。
OMSB / CLOWN
とにかく無駄がない、完璧な削ぎ落とし芸術。
低音の出方が素晴らしくて、車で聴くとちょっとイク。
2021年はillicit tsuboi さんが新曲のツイートをされる度に全部聴いてたんだけど、ほんとにやばかった・・・。
楽曲の完全なる拡張。
やり過ぎない本当にギリギリのえぐ低音のリファレンスとして聞くケースが多かったです。
2020年は「The Plan」をその用途に聞いていたけど、2021年はこの曲で。
4s4ki / OBON
このジャンルだと突っ込みまくって潰れた音像にされがち、というか潰れるのがかっこいいんじゃん、みたいなところもあるんですが、
そうでないダイナミックレンジを確保したミックス・マスタリングもあるんだぜっていう提案がかっこいい。波形マジで洋楽。
FLAIRの小島さん、最高です。
https://victorstudio.jp/hd/e214/
MVが完全にお盆なのも意外でウケる。
Fuji Rockでのパフォーマンスもやばかったすね。
Doja Cat / Kiss Me More(feat. SZA)
とにかく気持ち良い。自宅でもコンビニでもカフェでもどこでも散々聞いたけど、どこで聞いたって気持ち良い。
完全にこの曲の影響でリズムトラックの扱いが変わったし、一点ものの効果音は馬鹿でかくする癖がつきました。
2021年のSZAのfeatものは全部良くて、James Blakeも良かったし、Cali Ushisとかもよかった。
もちろん「I Hate U」もよかったです。
僕もフィルターかけてfuck youと言ってみたい。
Park Hye Jin / Let's Sing Let's Dance
2020年に出したEP「How Can I」も音像が好きで、よく低音のリファレンスに使っていました。
https://music.apple.com/jp/album/how-can-i-ep/1511050526
しっかり響くロー感ももちろん参考にしているんですが、この楽曲に関してはエンジニアが介入しすぎて楽曲の魅力を損なっていないかの自省に使うことが多いです。
"ストイックなループに対して絶妙な時間軸変化を加えていくからこそ生まれる高揚感"みたいなものがあると思っていて、それは無粋なエンジニアリングで簡単に壊れると思っています。
無駄に素材を豪華にしていないか、エフェクトでオナニーしていないか、とかをこの曲を落ち着いて聴きながら確認しています。
quickly, quickly / Phases (feat. Sharrif Simmons)
quickly, quicklyは、apple musicのエレクトロのプレイリストで聴いた
「feel」が知るきっかけだったんですが、まぁこのアルバム全曲やばいです。
特に一曲目「Phases」は新時代のサウンドスケープ。
異常に気持ち良い生音の質感とステレオ感よ。
ストーリーに合わせたアレンジ・音像の展開も素晴らしい。
サチュレーションやクリッピングを本当に絶妙な塩梅で使いこなしていて、
ちょっと別軸だけどGinger Rootと共に、マルチプレイヤーの宅録感のある音像の参考によく聴いていました。
コンシューマー機で張り出してくる歪んだリズムが肝。
ENHYPEN / Drunk-Dazed
この曲に関してはとにかく声周り。
ハモの重ね方、オクターブの重ね方、定位。
歪みの種類とその出し引きのタイミング、強さ。
ピッチエディットの強度の違いでのパート分け、厚みの演出などなど。
本当に勉強になる。引き出し多過ぎ。
オケもほぼキックとベースで進行していくストイックなダンスミュージックなので、そういうタイプのオケの依頼が来たときは参考にしています。
Tamed-Dashedも同じ用途でよくDAWに立ち上がってました。
meme tokyo. / アンチサジェスト
ミームトーキョーは2021年で一番聴いたアイドルグループだと思います。
特にアンチサジェストは楽曲の攻め込み方がミックスも含めて本当にカッコ良いし、ENHYPENに続き声の重ね方や遊び方も素晴らしい。
メインの歌も明らかに現場のボーカルディレクションが良いし、メンバーがそれに応える力も強いんだろうなって一聴して確信できます。
自分がアイドルのボーカルをディレクションしたりレコーディングする時も「ミームトーキョーはこうだったな」とめっちゃ参考にさせてもらってます。
「THE STRUGGLE IS REAL」もめっちゃ良。
Pino Palladino + Blake Mills / Just Wrong
美学校時代の先生である中村公輔氏の仕事を手伝いに行った時に現場で話題になった音源。
その場で携帯でチラ聞きしただけでも嫌な汗が出たんですが、じっくり聴くとさらにやばい。
密度とかローがスモーキー過ぎて酔うし、この空気感とか距離感とかどうなってんだよっていう驚きとか、自分にはこれは永遠に辿り着けないなっていう敗北感とか、いろんな感情が聞くたびに湧き上がります。
生楽器の再現が狙いの打ち込みを処理するときに、この音源の空気感というか、それぞれの楽器の密着感を狙った処理をよくしていた覚えがあります。全員が同じ部屋で同じ空気を揺らす感覚っていうんですかね。
特に劇伴系ではお世話になりました。
ライブ版はライブ版でトリップ効果あります。
Hiatus Kaiyote / Chivalry Is Not Dead
Nai Palm ガン治療から戻ってきてくれて本当によかった。
過去作「Breathing Underwater」もオールタイムリファレンスって感じで、
常に作業用USBに入れて持ち歩き、スタジオスピーカーチェックに使用していました。2021年はこの曲もそのポジションにジョイン。
音像はもちろんなんだけど、このバンド全体から溢れる精神性みたいなものを参考にするケースが多いです。
技術的に言えば楽器の大胆な処理と声の重ね方(特に定位と帯域処理)はすごく参考にしています。
この楽曲自体はコロナ前に来日公演していた時からプレイしていた楽曲で、結構歴史は古く、現在のライヴアレンジはとんでもないところまで達してます。
James Blake / Famous Last Words
2021年、個人的にはJames Blakeのアルバム「Friends That Break Your Heart」における有機的なローエンドをずーっと追い求めていたような気がします。
リサージュというもので視覚的に確認するとよくわかるのですが、James Blakeの楽曲には必ず有機的なうねりが存在しています。それはアナログシンセの影響だったり、コーラス郡の影響だったり、イメージャーやモジュレーションの影響だったりするんですが、身体のエモーショナルな部分を支配されるそのうねりをどの楽曲でも再現したくて、ミックスのワークフローやエフェクトのテンプレートにかなり変更を加えました。
現代のラウドネス規制にも完璧に沿ったアレンジと音像になっていて、2022年も引き続き聴きまくって真似しまくる音源になると思います。
これからリファレンスにしたい楽曲
楽曲の発売日や知ったタイミングの関係で、2021年に作業をした楽曲には反映できなかったものの、これからどんどんリファレンスにしていきたい楽曲の紹介をおまけでいくつか。
きゃりーぱみゅぱみゅ / パーフェクトおねいさん
知ってますか?「キャンディーレーサー」大名盤ですよ。
初期capsuleを感じさせるような中田ヤスタカさんのアレンジになっているんですが、コンセプト通りしっかり原点回避できてるんですよね。
サウンドも遊び切ってて最高です。
振り切ってるビートとか、局所的にビッチャビチャなボーカルとか真似すると思います。
Tyondai Braxton / Dia
Tyondai Braxton、多分多次元宇宙に住んでますね。
自分には空間オーディオより全然立体的に聞こえるし、2Mixってここまでいけるんだ〜っていう可能性を感じさせてくれます。
一音一音命削ってるサウンドしてます。
アーリーリフレクションの使い方を真似ていくかなぁ。
Arlo Parks / Portra 400
恥ずかしながらGrammyのノミネートを見て初めて知ったアーティストArlo Parks。
アルバム「Collapsed in Sunbeams」の中でも一番好きなのがこの曲。
質感としてはHiatus Kaiyoteに近いかも。
ちょっと苦めなローファイビートと甘いボーカル。
Mitski / The Only Heartbreaker
全ては後半の展開の気持ちよさのためにある。
そのセクションのために、他のセクションでいかに引き算をしながらクレッシェンドさせていくかに命をかけるか、という美学を感じる。
アルバムの発売が楽しみです。
ポストプロダクションで可能なストーリーの演出を極めたいと思います。
まとめ
2021年はざっくりこんな感じでしたかね・・・。
他にも音像好きでプレイリストも組んでるんだけど、実際の仕事に転用できていない楽曲も結構あります。
良い楽曲に囲まれて、しかもそれが数クリックでどこからでも聴ける時代。ほんとありがたいっすけど、同時に全ての過去の曲がライバルになってしまう時代でもあるので、引き続き気を引き締めて精進していこうと思います。
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ひとつよしなに。
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