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【週刊プラグインレビュー】PSPaudioware / PSP Impressor

今月はPSPaudiowareから発売されたコンプレッサー PSP Impressorをレビューしていきます。

簡単なウォークスルーはこちらを。

プラグインの詳細についてはこちらをご覧ください。


最初に感想をまとめてしまうのですが、今回紹介するPSP Impressor(以下 Impressor)は、本当に良くできています。

インディビジュアルトラックにも使えるし、マスターバスにも使えるし、ソースも選ばない万能選手です。見た目に反して音作りの幅も広い。

かといって器用貧乏なっているわけではありません。
メーターやAB比較、オーバーサンプリングの搭載など細かいところもしっかり気を配れた実践向けのコンプになっています。

DAW付属のコンプレッサーに飽きた方の初めてのサードパーティーコンプレッサーとしてもお勧めできますし、数々のプラグイン(特にモデリング系)を使いこなしてきた方にもお勧めできます。

PSPはVintage Warmerしか知らん!というそこのあなた。
一度騙されたと思って使ってみてください。
それでは詳細なレビューに入ります。


PSPaudioware

PSPaudiowareは2000年 ポーランドで設立されました。
共産主義を脱して以降初めてのプロオーディオソフトウェア会社で、オーディオエンジニアのMateusz Woźniakと、経営学を学んだAntoni Ozynskiの2人が創業者です。
2002年に発売されたVintage Warmerがプロ・アマを問わず大人気となり、会社の地位を確立しました。

それ以降も開発を続けられるハイクオリティなプラグインは、世界中のプロジェクトやエンジニアの必需品となっています。
EMTがPSP 2445 EMTを、AVEDISがPSP E27を、LexiconがLexicon PSP 42をレコメンドしているように、PSPは由緒あるオーディオハードウェア企業からも認められています。

企業がモットーに掲げているのは
"It's the sound that counts!"
「大切なのはサウンドだ!」
というシンプルなもの。高品質なプロダクトをプロフェッショナルからオーディオ愛好家まで行き届くよう適した手頃な値段で提供することに専念しています。

この時点で推せます。
特にMateusz Woźniakは70,80年代の音楽に傾倒していたようで、プラグインのサウンドにもその影響が色濃く現れています。
Deniseもそうですが、プレイヤーやエンジニアが直で立ち上げて開発している企業って極めて音楽的で良いですよね。

確かにVintage Warmerがあまりに有名になりすぎたせいで、私自身もその印象しかなかったのですが、近年ではゼロレイテンシーでライブにも使えるAPI500ライクなチャンネルストリップ「PSP InfiniStrip WIND」や、イマーシブオーディオのためのミックスツール「PSP auralControl」など、面白くて現場向きなプラグインも多数リリースしています。


さて、今回取り扱うPSP Impressorは2022年にリリースされたコンプレッサーですが、実は全くの新規プラグインではありません。
PSP Mixpack2に含まれていた「PSP MixPressor2」にGUIやプロセッサーの追加を行なったアップデートバージョンです。

その為コンプレッサーとしての歴史やノウハウは深く、多数のフィードバックを得て進化を続けたため、かなり現場感のあるプラグインに仕上がっています。

詳細

プラグインのGUIや操作子を順に見ていきます。

Meter

Impressorは常に2つの針を表示します。
赤い小さな針はデジタルピークレベル・白い針がVUメーターです。
インプット・ゲインリダクション・アウトプットの切り替えが可能で、
大きく上部に表示されたメーターは視認性がよく、ピークとVUが同時に確認できるため狙いを持って作業しやすいです。
(例えばピークとVUの乖離を防ぐためにコンプを使う、VUを保ったままピークだけ適正に潰していくなど)

Dynamics Controls

ATT = Attack Time
コンプレッサーのアタックタイムを調整します。
x10を押すことで、10倍の時間が設定できます。
autoが3種類搭載されていますが、アルゴリズムは公開されていません。

HOLD
コンプレッサーに入ってくる信号がレベル低下してもリダクションを続ける時間を設定します。浅いゲインリダクションのままコンプ色を濃くしたり、ポンピングエフェクトを防ぐ効果にも使えます。
ベースに対するキックサイドチェインコンプにも有用。

REL = Release Time
コンプレッサーのリリースタイムを調整します。
ATTと同様10倍の設定もでき、autoも搭載しています。

FB - FF
コンプレッサーの動作をフィードバック(FB)にするか、フィードフォワード(FF)にするかを選択します。ここがこのコンプの肝です。

引用:https://mynewmicrophone.com/feedback-vs-feedforward-dynamic-range-compressors-in-audio/
引用:https://mynewmicrophone.com/feedback-vs-feedforward-dynamic-range-compressors-in-audio/

ざっくりと言えばフィードバックコンプレッサーはOpto / Fet / 真空管っぽい挙動で、フィードフォワードはVCAっぽいクリアな挙動になるということです。それくらいの理解で十分です。私も細かいこたぁわかりません。

詳しく知りたい方はこちらを。

LOOK
オーディオの先読みを行い、正確なゲインリダクションを実現します。
不要な歪みを回避するのに役立つケースがあります。

RMS
RMSレベルを検知してコンプレッサーを動作させます。
より音楽的な処理が可能ですが、パーカッションなどの速いトランジェントは取りこぼしてしまいます。

Compression Configuration Controls

すでに気づいた方もいるかもしれません。
このコンプレッサー、レシオ・スレッショルド・ニーの設定がありません。
基本的にこの2つのツマミを操作してコンプ感をコントロールすることになります。

COMPRESS
コンプレッサーの深さを調整します。

SHAPE
6種類のカーブを選択し、コンプレッサーのカラーを決めます。
ワンノブでレシオとニーを決定することになります。

・None : 圧縮を行わない
・Soft : 非常に緩やかなニーで最終的に2:1の比率
・Wide : 広めなニーで最終的に3:1の比率
・Medium : 広めなニーで最終的に∞:1の比率
・Short : 短めなニーで最終的に∞:1の比率
・Sharp : ソフトニーリミッター
・Hard : ニーをほとんど持たないハードニーリミッタ

使ってみるとわかりますが、これで全て事足ります。
そして76やCL1B、SSL BusCompなど散々選んできましたが、
その違いはニーとレシオの違いだったんだ!と気付かされます。

Noneを選択することで、純粋なサチュレーターとして使用することも可能です。

Side Chain and Filter Controls

MK-UP = Make Up Gain
圧縮した信号のレベルを調整します。
AUTOを押すことで自動でレベルを調整します。

FREQ = Frequency
サイドチェインフィルターの周波数を選択します。

Q
サイドチェインフィルターの勾配を決定します。

scFLTR = side chain Filter
サイドチェインフィルターのタイプを選択します。通常はベルですが、ハイパスフィルターとイコールパワーフィルターも選べます。

イコールパワーは信号をローシェルフ&ハイシェルフでカットした後、高域をブーストさせることで、周波数が高くなるにつれて弱まりがちなパワーを均一化させ、ドラムバスやグループバスなど複雑なソースに対するコンプレッションを自然に聞かせます。

Global Controls

PROC - BYPASS
PSP Impressorのバイパス

GAIN LINK
INPUT OUTPUT横のチェーンマークをクリックすると、INPUTとOUTPUTをリンクできます。
これにより、レベルは保ったまま、コンプレッサーのドライブ感をコントロールできます。

MIX
ドライとウェットのバランスを設定します。

LIM
ブリックウォールリミッターを有効にして、コンプレッサー最終段で0dbFSを超えないように信号を叩きます。

SAT
サチュレーションリミッターを有効にして、トランジェントに歪みを加え明るさを演出します。

THRU
いずれのリミッターアルゴリズムもバイパスします。

Internal Board Controls

FAT = Frequency Authentication Technique
いわゆるオーバーサンプリングの設定です。
オンにすることで、CPU使用率が上がりますが、エイリアスノイズを抑制します。

LINK
サイドチェイン信号のチャンネルリンクを設定します。
この設定でステレオコンプとして使うことも、デュアルモノコンプとして使うこともできます。

AutoStr
オートゲインの強さを設定できます。
デフォルトではCOMPRESSとSHAPEによって変化した信号量をRMSレベルで合わせるようにオートゲインが駆動しますが(聴感上の印象が変わらないような設定)、その強度を増減させることができます。

Block Diagram


ここまできっちり読んでいただいた方、なんでもできるじゃん!って思いませんか???
まぁ試して音聞いてみないとわからないと思うんですが、いわゆるシンプルなプラグインのコンプレッサーに求めていることが一通り全部できるし、それぞれの詳細な設定も可能なので、どんなコンプにも化けることが可能なんです。

感覚としてはLogic純正のコンプレッサーやDMGのTrackCompに近いです。
とりあえず何も考えずに立ち上げちゃって、叩きながら色々考える系のコンプレッサーです。
触る必要のないノブは搭載していないし、小難しくしないおかげで直感的でわかりやすい。
良いです。非常に良いです。

続いて実戦での使い方を見ていきましょう。


実戦での使い方

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