個人事業主と法人の違い
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1 はじめに
フリーランスとして事業を始める前に、個人事業主と法人のどちらにするか、まずは検討してみてください。個人事業主と法人とでは、法整備、金銭面等でさまざまな違いがあります。では、個人事業主と法人を比較してみたいと思います。この記事を読んで、副業を始めるサラリーマンの方や、脱サラして新規に事業を始める方の少しでもお役に立てればと思います。
2 定義
個人事業主
自然人としての人(人間)が事業を経営する際、その経営主をいいます。
法人
法でつくられた人。法律上人格が認められたものをいいます。
3-1 開業手続について
事業を開始する場合、各関係行政機関に提出しなければならないものがたくさんあります。この記事では代表的な提出書類については以下のとおりまとめました。
3-2 開業時に提出すべき書類一覧(共通)
① 届出の名称
② 提出先
③ 備考
① 給与支払事務所等の開設届出書
② 税務署
③ 給与を支払う事業所等を開設した日から1カ月以内
① 所得税の青色申告承認申請書
② 税務署
③ 開業の日から2カ月以内 (青色申告を希望する場合)
① 健康保険・厚生年金保険の新規適用届出関係書類
② 社会保険事務所
③ 適用開始となった日からすみやかに
① 雇用保険の適用事業所設置届出書
② 公共職業安定所
③ 設置後 10日以内
① 雇用保険の被保険者資格取得届出書
② 公共職業安定所
③ 雇用した翌月の10日まで
① 労災保険の保険関係成立届
② 労働基準監督署
③ 保険関係成立後、10日以内
① 労災保険の適用事業報告
② 労働基準監督署
③ 事業所設置後、すみやかに
① 労働保険概算保険料申告書
② 都道府県労働局
③ 保険関係成立後50日以内
また、業界独自の提出書類もあります。例えば、飲食店を開業するのであれば、管轄する保健所から営業許可証の交付を受けなければ営業できません。各行政機関に問い合わせてみてください。
3-3 開業時に提出すべき書類一覧(個人事業主)
① 個人事業の開業・廃業届出書
② 税務署
③ 開業の日から1カ月以内
① 国民健康保険・国民年金適用届出書
② 各市町村役場
3-4 開業時に提出すべき書類一覧(法人)
設立前
① 設立登記の申請等
② 法務局
① 電磁的記録の認証嘱託
② 公証役場
① 電子署名付委任状の申請
② 公証役場
設立後
① 法人設立届出書
② 税務署・自治体
③ 設立の日から2カ月以内
① 事業開始等申告書
② 都道府県税事務所
③ 設立後、すみやかに
4 税制
事業形態別に課税される税金については主に以下のとおりです。
⑴ 所得(利益)から課税されるもの
事業形態 税金の種類 所轄庁
個人事業主 申告所得税 国
個人事業税 県
個人住民税 ※(所得割) 市町村
法人 法人税 国
地方法人税 国
法人事業税 県
法人住民税(法人税割)
※県民税を含む
イ 申告所得税(復興特別所得税は便宜上、除きます)
申告所得税は個人事業主がその年の1月1日から12月31日までの期
間で得た所得税法上の所得(収入-経費)からその申告者の家族形態、
障害、社会保険料の支払状況を加味した各種控除を差し引いたあとの
所得に対して税率を乗じて課税します。この所得は10種類に区分され
ますが、事業から生じる所得は「事業所得」又は「雑所得」として位
置づけられます。この税率は一律ではなく、所得が増加するにつれて
順次税率が上がる仕組みとなっています。これを「超累進課税制度」
といいます。
【参考】
所得税の税額早見表
ロ 事業税
都道府県内で法定業種に当てはまる事業を営み、290万円超の所得を
得た個人に税率を乗じて税額を計算します。税率は法定業種によって
3%~5%となります。
【参考】
法定業種税率早見表
ハ 個人住民税(所得割)
個人住民税は、市町村民税と道府県民税があり、1月1日にその市町
村(都道府県)に住所を有する者に対し、当該住所地団体が課税する
ものです。個人住民税の内、個人の所得に対して課税されるものを所
得割といい、税率は一律10%です。
【参考】
個人住民税とは
ニ 法人税
この記事ではフリーランス向けの記事なので日本国内で事業をされ
る法人で株式会社、有限会社、合同会社、合資会社及び合名会社を前
提とし、資本金又は出資金の額が1億円以下で一事業年度の所得金額
が800万円以下とします。
法人税は一事業年度に得た法人税法上の所得(益金と損金の差額)
に対して課税される税金であり、税率は15%です。
【参考】
法人税の税率早見表
ホ 地方法人税
法人税法上の所得金額に10.3%を乗じた金額となります。
ヘ 法人事業税
法人事業税の課税は法人税と概ね同様です。税率については、所得
のうち、400万円以下の金額については3.4%、400万円超800万円以下
の金額については5.1%となります。
【参考】
法人事業税・法人住民税について
ト 法人住民税(法人税割)
法人税の7%が課税されます。
⑵ 存在するだけで課税されるもの
イ 個人事業主
個人住民税(均等割)
均等割は、所得の非課税限度額を上回る者に定額の負担を求めるも
のであり、一律5,000円となります。
所得が35万円×世帯人員数+10万円+加算額21万円(同一生計配偶者
又は扶養親族がいる場合)以内であれば非課税となります。
ロ 法人
A 法人住民税(均等割)
事業規模によって金額が7万円から380万円までとなります。例
えば資本金等が1,000万円以下でかつ従業員が50人以下の場合は7
万円となります。
B 登録免許税
法人の設立や資本金の増加による登記等により課税されます。法
人として事業を開始するためには、設立登記が必須です最低でも15
万円は支払わなければなりません。
【参考】
登録免許税の税額早見表
⑶ 預り金の性質があるもの
イ 共通
A 消費税(地方消費税を含む)
商品の販売やサービスの提供などの取引に対して課税されるも
ので、自身が預かった消費税と売り手に預けた消費税の差額分を
税務署に支払います。その年の消費税上の売上が1,000万円を超え
る場合、原則その年の2年後(法人の場合は、2事業年度後)の
消費税法上の売上に対して消費税の申告・納付義務が生じます。
なお、その年の消費税上の売上が1,000万円以下の場合は、納税
義務が免除されます。これを「免税事業者」といいます。
ロ 源泉所得税
従業員に給与支払った際に天引きされる所得税ですが、個人事業
主は直接、税務署に納付する申告所得税に対し、従業員に代わって
納付するのが源泉所得税です。支払額と従業員の家族形態に応じて
天引きする金額が異なります。
【参考】
令和3年 源泉所得税税額早見表
ハ 個人住民税(特別徴収分)
上記税金の地方税版となります。従業員の住民税を雇い主が代わ
って納付します。
5 社会保険関係(所在地が東京都新宿区であることを前提とします)
個人事業主
自身の社会保険については以下のとおりです。
① 国民健康保険
② 国民年金
③ 介護保険
法人
法人が加入しなければならない社会保険は以下のとおりとなります。
④ 健康保険
⑤ 厚生年金保険
⑥ 介護保険
⑦ 雇用保険
⑧ 労災保険
① 国民健康保険
公的医療の未加入者より安く受けるための保険料です。医療費の1
割から3割の負担となります。本人が35歳で所得が300万円、妻が3
4歳で所得が0円、子1人(10歳)の世帯とすれば
【均等割】
医療分 38,800円×3=116,600円
支援分 13,200円×3=39,600円
均等割合計 156,200円
【所得割】
本人 300万円―基礎控除43万円257万円
医療分257万円×7.13%=183,241円
支援分257万円×2.41%=61,937円
所得割合計 245,178円
国民健康保険料合計 401,378円
となります。
【参考】
保険料の計算方法
② 国民年金
日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人は、すべて国民年金に加入
し、将来、老齢基礎年金を受けます。国民年金では加入者を3種類に
分類され、そのうち、20歳以上60歳未満の個人事業主は1号被保険者
となります。保険料は以下のとおりです。
令和3年度の国民年金保険料 月額16,610円⇒年額199,320
※ 毎年度国民年金保険料は変動します。
【参考】
国民年金保険料について
③ 介護保険
17,000円×世帯の加入者のうち40~64歳の加入者数となります。①
の例ですと支払義務者は0人となります。
④ 健康保険
健康保険は、病気やけが、またはそれによる休業、出産や死亡とい
った事態に備える公的な医療保険制度で、健康保険適用事業者に勤務
する従業員等が対象となります。
支払保険料は、給与収入によって異なります。
計算式 標準報酬月額×健康保険料率
①の収入・家族形態をモデルとすると所得300万円相当の給与収入
は430万円となり、月額に直すと約358,333円となります。これを東京
都内に在住する被保険者に対応した計算表に当てはめると
340,000円×9.84%(東京都内在住の場合の保険料率)=33,456円/月
健康保険料は法人と従業員等で折半しますので、法人側の負担、
16,728円となります。
⑤ 厚生年金保険
②の内、会社員や法人の役員が該当します。
計算式 標準報酬月額×厚生年金保険料率
これも①のモデルに当てはめると
340,000円×18.3%=62,220円/月
これも法人と従業員等で折半しますので、法人側の負担は31,110円
となります。
⑥ 介護保険
③の会社員型となります。
計算式 標準報酬月額×介護保険料率
①のモデルに当てはめると40歳未満になるので支払義務者となりま
せん。
【参考】
介護保険料早見表
⑦ 雇用保険
労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、労働者の生活及
び雇用の安定を図るとともに再就職の援助を行うことなどを目的と
した機能を持つ制度です。したがって、法人の役員は適用対象外と
なります。
計算式 毎月の給与総支給額×雇用保険料率
事業主負担 0.6%
従業員負担 0.3%
※ 一般事業 事業主0.6% 従業員0.3%
農林水産・酒造 事業主 0.7 従業員 0.4%
建設 事業主 0.8% 従業員0.4%
358,333円×0.9%(一般事業)=事業主2,150円/月 従業員1,075円/月
【参考】
雇用保険料率について
⑧ 労災保険
業務上の事故や災害によるケガ、また業務が原因の病気などに対して
、補償する保険です。業種によって労災のリスクが異なりますので保険
料も異なり0.25%~8%の範囲となります。
従業員の賃金総額×労災保険料率=労災保険料(0.25%~0.8%)全額
法人負担となります。
【参考】
労災保険料率について
6 信用
法人は設立登記が必要で登記が完了すると法人番号が付与され、公に
供されます。法人番号検索サイトがインターネット上にありますので、
法人番号を検索すると会社の所在地、名称及び代表者名等が閲覧でき
ます。それゆえに、社会的な信用は個人事業主より比較的高く、取引先
の開拓や金融機関の審査でも有利になるケースが比較的多いです。また
、計算書類が個人事業主よりも厳格で法人の一会計期間の経営成績がわ
かる損益計算書や一定時点での財政状態がわかる貸借対照表等の財務諸
表を作成しなければならないため、金融機関も融資判断がしやすくなり
ます。その反面事務手続が煩雑で事務量が取られると言ったデメリット
があります。
7 まとめ
それでは先に述べた税金、社会保険(以下、社会保険料等)の年間の
支払金額について個人事業主と法人化させて代表者のみの事業とでどれ
くらいの負担があるか比べてみましょう。モデルは次の3パターンとし
ます。家族構成、家族の年齢、所得は先に述べた例と同じとします。
パターン① 個人事業主としての所得のみ 300万円
パターン② 法人としての所得 300万円
パターン③ 個人事業主としての所得 150万円
法人としての所得 150万円
パターン①
個人事業主として所得から生じる社会保険料等
申告所得税 76,900円
計算式 所得300万円-所得控除1,460,698円(社会保険料等控除600,698円
+配偶者控除38万円+基礎控除48万円)
=1,539,000円(千円未満切捨て)×5%
=76,900円(100円未満切捨て)
住民税 111,000円
計算式 所得300万円―所得控除1,360,698円(社会保険料等控除600,698円
+配偶者控除33万円+基礎控除43万円)
=1,060,000(千円未満切捨て)×10%
=106,000円(所得割)+5,000円(均等割)
=111,000円
事業税 5,000円
計算式(所得300万円―事業主控除290万円)×5%(第一種事業と仮定)
=5,000円
国民年金 199,320円
国民健康保険料 401,378円
社会保険料等合計 793,598円
パターン②
法人として所得から生じる社会保険料等
この場合、代表者の報酬が0となり国民年金、国民健康保険への加入となります
法人税 所得300万円×15%=450,000円
地方法人税 所得300万円×10.3%=390,000円
法人事業税 所得300万円×3.4%=102,000円
法人住民税 法人税割 45万円×7%=31,500円
均等割 7万円(資本金1,000万円以下とした場合)
国民年金 199,320円
国民健康保険料 156,200円(均等割のみ)
社会保険料等 合計額 1,329,020円
パターン③
個人事業主としての所得150万円、法人としての所得150万円に分けた場合から生じる社会保険料等
個人分
申告所得税 19,000円
計算式 所得150万円-所得控除1,118,278円(社会保険料258,278円-
配偶者控除38万円―基礎控除48万円)
=381,000(千円未満切捨て)×5%
=19,000円(100円未満切捨て)
住民税 29,000円
計算式 所得150万円―所得控除(社会保険料258,278円―配偶者控除
33万円―基礎控除―43万円)
=481,000円(千円未満切捨て)×10%
=24,000円(所得割)+5,000円(均等割)
合計 29,000円
事業税 0円(事業主控除より非課税)
国民年金 199,320円
国民健康保険料 258,278円
計算式 本人 150万円―基礎控除43万円=107万円
医療分107万円×7.13%=76,291円
支援分107万円×2.41%=25,787円
所得割合計 102,078円
均等割 156,200円
個人分社会保険料合計 306,278円
法人分
法人税 所得 150万円×15%=225,000円
地方法人税 所得 150万円×10.3%=195,000円
法人事業税 所得 150万円×3.4%=51,000円
法人住民税 法人税割 45万円×7%=15,700円(100円未満切捨て)
均等割 7万円(資本金1,000万円以下とした場合)
国民年金 0円
健康保険 0円
法人分社会保険料等合計486,700円
個人分・法人分合計 792,978円
パターン① 793,598円
パターン② 1,329,020円
パターン③ 792,978円
以上からパターン③の事業を個人分と法人分に均等に割り振った方が、負担が少ないという結果になりました上記の所得金額ですと、法人所得に関連した税率が個人に課税する税率より高まります。法人所得税に所得を割り振ってしまうと返って負担が増加してしまうので、独立して事業のすべてを法人化するのは愚策となります。所得税の超累進課税制度や法人所得税関係の税率を社会保険料の保険率を総合的に勘案して判断した方が良いですね。
ここで、あるテクニックを使うことで、社会保険料等を3割程度おさえることができます。
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