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「PCR検査の抑制派は卑怯者ではない」という話

正直、コロナの話題にはあまり触れたくなかったのですが、無視できないような問題が起きていたので書くことにします。
その問題というのは、「PCR検査抑制派の人がPCR検査を受けた時に、ネット上で誹謗中傷を受けている」という問題です。
何故、PCR検査の抑制派は批判されるのか?
そもそも誹謗中傷は問題ではないか?
そうしたことについて考えてみましょう。

PCR検査の抑制派は卑怯者なのか?
最近、PCR検査の抑制派の一人である爆笑問題の太田光さんが相方の田中裕二さんが新型コロナに感染していたということで、自費でPCR検査を受けたという報道がありました。

https://www.47news.jp/5182747.html

このニュース報道を受け、PCR検査拡大派(特にリベラル層)の人達の間では批判が噴出することになりました。
なぜかというと、太田さんが「PCR検査の抑制派だったくせに自分が感染したかもしれないとわかった瞬間、そそくさと検査を受けた卑怯者」に見えたからです。
更に、ほぼ同時期にPCR抑制派だったつるの剛士さんもPCR検査を受けていたことで、PCR検査拡大派の中では、「つるのさんや太田さんのようなPCR抑制派は卑怯者だ」というような怒りの声が上がりました。


しかし、PCR抑制派の2人が検査を受けたのは本当に卑怯だったのでしょうか?
今回は「PCR検査抑制派は卑怯者なのか?」について考えてみましょう。

PCR抑制派は政権を擁護してるのか
今回、太田さんやつるのさんのPCR検査を否定的に受け止めている層は殆どリベラル層だったように思います。
なぜ、リベラル層は検査抑制派をここまで攻撃するのでしょうか。
これは推論ですが、彼らリベラル層の中で、「検査抑制派は政権を擁護している」という認識が共有されているからなのではないでしょうか。
つまり、「PCR検査を拡大しないのは安倍政権が感染者数を少なく見せるためだ!」と彼らリベラル層は考えているので、PCR抑制派は政権を擁護してるように見え、憎いという感情があるように思います。
しかし、結局「PCR検査の拡大をしないのは感染者数を少なく見せたい安倍政権のせいだ!」というのは、十分な根拠のない陰謀論でしかありません。
そんな陰謀論を認めてしまっているようでは、彼らリベラルが憎む「新型コロナウイルスは中国のバイオ兵器だ」というネット右翼の陰謀論者と同列になってしまいます。
そもそも、PCR検査抑制派の意見はリベラル層の人達に正しく伝わっているのでしょうか?
まず、PCR検査の抑制派の意見について考えてみましょう。

PCR検査の抑制派の意見
PCR検査の抑制派の意見が長いのでざっくり5つの理由にまとめて書きます。

PCR検査を安易に拡大してはいけない理由

①PCR検査は偽陰性(または偽陽性)も出るため確実でない。(安心のための検査は無意味)

②医療現場がひっ迫し、重症者の治療に悪影響を与える。

③現状、新型コロナウイルスの治療法はなく早期発見をしても重症化を防ぐ手立てがない。

④人々が医療機関に押し寄せると、病院が大きな感染源になってしまう。

⑤PCR検査は確実ではないため、PCR検査拡大にリソースを割くくらいなら、PPEやサージカルマスク、ECMO等にリソースを振り向けた方が良い。

①の意見では、「そもそもPCR検査というのは完璧に陽性/陰性を見分けられるわけではないのだから安心のためにみんなが検査を受けられるようにしても意味がない」という意見です。
これはニュース等でも報道されているのでご存じの方もおられるでしょうが念のため説明を添えておきます。
PCR検査には「感度」と「特異度」というものがあります。
「感度」は、その病気に罹患している人の中で、検査で陽性になった人の割合のことを言います。
「特異度」は、病気に罹患していない人の中で、検査で陰性になった人の割合のことを言います。
PCR検査の特異度は99%と高いので「偽陽性」が出ることは、ほぼほぼないのですが、問題は「感度」にあります。
PCR検査の感度は、30%~70%とあまり高くなく、実際は新型コロナウイルスに感染していても「陰性」と判断されることがあるという問題があります。
安心のためにみんなが検査を受けられるように検査体制を拡大しても、偽陰性が30%~70%の確率で含まれてしまうため、安心は出来ても安全にはなれないのです。
つまり、「安全とは言えない検査を拡大しても意味はない」ということからPCR検査の拡大に反対しているということです。

②の意見では、「検査を拡大することで、医療現場が逼迫し、重傷者の治療に悪影響を与える」という意見です。
PCR検査のために人を割くと重傷者の治療が出来なくなる可能性があるため検査の拡大には反対ということです。

③の意見では、「PCR検査で感染者を早期発見したところで治療も出来ないし、重症化も防げないから検査拡大には反対」という意見です。
実際、この感染症は、たいてい軽症で、自然に治ります。
ですので、軽症患者や無症状者は家で安静にする方が、検査をするよりも理にかなっています。

④の意見では、「みんなが検査を受けられるように検査を拡大することで、多くの人が病院に押し寄せ、病院が大きな感染源になってしまうリスクがある」という意見です。
実際、韓国では、2015年にMERSの感染拡大が混雑した救急外来や病室での感染者と患者、医療従事者との密接な接触が原因で起きたという指摘もあります。( https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2320-related-articles/related-articles-430/6111-dj4303.html)
また、今回の新型コロナウイルスの致死率が中国・武漢だけ突出して高いのは、パニックに陥った患者が病院に押し寄せ、そこで感染を拡大してしまったことと、それによって重症者を集中的に診ることができなくなったためではないかという指摘があります。(https://webronza.asahi.com/science/articles/2020030500002.html)

⑤の意見では、「そもそもPCR検査の効果に疑問があるなかでPCR検査の拡大にリソースを割くくらいならPPE(個人用防護具)やサージカルマスク、ECMO等にリソースを割いた方が良い」という意見です。
こちらは、PCR検査の拡大には疑問点が多いので、そんなものにリソースを割くくらいなら、確実にあった方が良いもので、今不足しているものを優先的に増やした方が良いという意見ですね。

さて、ざっくりとPCR抑制派の意見をまとめましたが、一つ重要なことがあります。
それは、「PCR検査の抑制派は、PCR検査の安易な拡大に反対しているだけで、PCR検査そのものに反対している訳ではない」ということです。
つまり、太田さんやつるの剛士さんは、PCR検査を(無症状者含め)誰でも受けられるようにすることには反対していますが、濃厚接触者や症状のある人への適切な検査は否定していません。
PCR検査の拡大派(主にリベラル層)は、「PCR検査の抑制派=PCR検査の否定派」と意見を歪曲して、「卑怯だ」と批判していましたが、そもそもPCR検査の抑制派の太田さんやつるの剛士さんは適切な場合のPCR検査は否定していないので、濃厚接触者の太田さんや症状のあったつるの剛士さんが検査を受けたことは何も矛盾していないのです。

PCR検査抑制派はPCR検査を受けてはいけないのか
先程も述べた通り、PCR検査抑制派は適切な場合は検査を受けることを認めていますが、そもそも、PCR検査抑制派は検査を受けてはいけないという理由はどこにあるのでしょうか?
これは、疫学的公共善の観点からしても、人道的にも間違っています。
そもそも、濃厚接触者やcovid19の症状がある人が"検査抑制派"というだけで検査を受けられなくすることは、差別ではないでしょうか?
それに、検査抑制派の人は濃厚接触者であっても、症状のある人であっても、PCR検査を受けられないとするのは、感染拡大につながるリスクが高いように思います。

検査拡大派(主にリベラル層)の傲慢さ
「PCR検査の抑制派は安倍政権を擁護している」という一種の陰謀論ですが、そもそもまともな感染症の専門家でPCR検査の(誰でも検査を受けられるようにする意味での)拡大に賛成している人は見たことがありません。
それは、安倍政権に否定的な岩田健太郎教授でさえ、PCR検査の安易な拡大には反対しています。

https://medical.jiji.com/topics/amp/1572?__twitter_impression=true

まともにPCR検査の抑制派の意見を聞かず、陰謀論を展開して、独善的な検査拡大論を唱えるのは、むしろ有害ではないでしょうか。
また、PCR拡大派(主にリベラル)がよく言う「PCR検査を芸能人だけが直ぐに受けられるのは、特権階級なので優遇されているからだ」というのも無根拠な陰謀論でしかありません。
こちらは太田光代さんもコメントしているので紹介します。

「太田は陰性と判定されました。PCR検査について、誤解を受けるといけませんので補足しますが、自費の検査の場合は即日、検査が受けられます。最近、有名人は優遇されるとの誤解が広まっていますが、そこはご理解いただけますようお願い致します」(太田社長)

(https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/news/2110914/?ampより)

「芸能人という特権階級だけが優遇されている」というルサンチマンを煽って、社会の分断を深めるような行為は問題があるのではないでしょうか。
そして、PCR検査の抑制派の意見を勝手に誤解して(あるいは歪曲して)、個人攻撃(誹謗中傷)するような行為も絶対に許されることではありません。
PCR検査の拡大派は、PCR検査の拡大するメリットにばかり目を向け、デメリットについて真剣に考えていないのではないでしょうか?
私個人としては、PCR検査抑制派の方がPCR検査の拡大をするメリット・デメリットを真剣に考えているように見えました。
物事には、良い面と悪い面があり、良い面だけを強調して、「ほら、PCR検査を拡大した方が良いじゃん」というのは間違っています。
PCR検査を拡大するメリット(良い面)とデメリット(悪い面)を天秤にかけて、冷静に考えることが大事なのではないでしょうか?

まとめ
PCR検査の抑制派は適切な場合の検査を否定していないので、今回、つるのさんや太田さんがPCR検査を受けたことは、それまでの言動と何も矛盾していませんし、卑怯者ではありません。
むしろ、「PCR検査抑制派はPCR検査を受けるな」という風に言うことの方が、人道的にも、疫学的公共善としても問題があるのです。
ここから余談になりますが、今回、私はリベラル層の人達を批判しましたが、決して、私は保守層を支持している訳ではありません。
なんなら、安倍政権の感染症対策、経済対策にも問題が多くあったと思っています。
ただ今回は、人権を語るリベラル層の人達がPCR検査抑制派の人達の人権を軽視しているということが許せなかったのです。(太田さんやつるの剛士さんを誹謗中傷してカタルシスを感じ、他者への尊重の精神がないような人達は本当のリベラルではありません。)
本来、民主主義とは多様な意見の溢れるものであり、自分とは違う意見を持つ人も尊重しなくてはいけません。
自分とは違う意見を持つ人の人権を軽視する行為は絶対に許してはいけないのです。
更に、検査拡大派(主にリベラル層)は自分とは違う意見を正面から受け止め議論するのではなく、自分達(検査拡大派)に都合の良いように相手(検査抑制派)の意見を歪曲して反論するという、他者への尊重の精神が感じ取られないことをしたことにも問題があります。
これから先、社会の分断された溝を無くすためには、保守層もリベラル層も相手の意見を尊重した上で議論していくことが大切ではないでしょうか。
頭ごなしに、政敵に対して「あいつはバカだから」と言っているのでは、お互いに理解は深められないでしょう。

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参照
https://digital.asahi.com/sp/articles/ASN3M7G1XN3MULBJ01C.html

https://president.jp/articles/-/33665?page=4

https://medical.jiji.com/topics/amp/1572?__twitter_impression=true

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