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『怒鳴り声と雪』が教えてくれた優しさ

先日は冬のような雪でしたね。
週末は友達が送ってくれた雪桜の写真を
眺めながらお花見していました。

雪で思い出すことはたくさんあります。

一番に思い出すのは大阪の歩道橋。

23歳の頃、友人と二人で福岡から東京まで
車で遊びに行ったことがありました。

そして東京から福岡に向けて
京都、大阪、山口へと車で辿る5日間の旅路。

バンドマン時代に遠征に慣れていたので
基本的には車中泊、スーパー銭湯に寄りながら
目的も都度決める気ままな旅でした。

そんな旅の目的の一つは

「どこかの路上で言葉を書くこと」

ちなみにバンドボーカルをしていた友人は
「どこかの路上で歌うこと」が目的。

そしてそれを実践したのが大阪だったのです。

14歳の無鉄砲なころと違って、
多少人目を気にすることを覚えていたので…
最初に交番に行きました。

笑われてしまいそうですが
「どこ行けば路上で歌っても良いか、
 おまわりさんに聞こう!」

という単純な発想でした。

交番にいた女性の警察官にアコギを片手に尋ねると
答えはもちろん「No」なわけでして

「気持ちは分かるよ~応援したいんだけどね」と
世間話もしながら仲良くなりつつも歌は断念したのでした。

ただ、個人的には
どうしても路上で言葉書きをしたかったので
次の日友人とは別行動をして、
私は一人で場所探しへ。

車を止めていた場所から近い
大きな歩道橋へと向かいました。

(※写真はイメージ)

その日は朝から雪がちらついていて

なんとも寒い日。

歩道橋の上は当然風通しも良い…
とはいえとりあえずやってみる精神で
1人道具を取り出しながら座っていました。

直前で買ったホットミルクティーで
指を温めながら、体操座り。

「好きな言葉はなんですか?」
と書いたスケッチブックを
看板代わりにして、通り過ぎる人を眺めていました。

1時間くらい過ぎて
(さすがに雪の日に立ち止まる人もいないかな)
と思った矢先に、大声が頭のうえから降ってくる。

「お前!!馬鹿やろ!!!!!」

怒鳴り声に最初はびっくりして
ポカンとしてしまいました。

(あ・・・私に言ってる?)

キョロキョロとする私に
ため息交じりに近づいてくる大阪弁のお兄さん。
座ってる私と同じ目線に座り込みながら
話しかけてきました。

「お前あほやろ?!こんな雪の中でなにしとんか」
「寒くて誰も立ち止まらんやろが!」

この時私は不謹慎にも(大阪弁だ!)と
心の中で感動し…
(※人生で初大阪だったのです)


同時に誰も立ち止まらないと怒りながら
立ち止まってくれたお兄さんの
ギャップについニコニコ笑ってしまいました。

「凍えながら何しとんねん」
「好きな言葉を書いてます!
 好きな言葉はありますか?」

その前の1時間が静寂すぎて
凍えと寂しさがあったものだから
大声がにぎやかに感じる。

「好きな言葉~?そんなん浮かばんな~う~ん」
(けっこう真剣に悩んでくれるんだなぁ…)

「そや、【頑張れ!!】これがええな!」

震えながら筆ペンでA4サイズの紙に
でっかく【頑張れ!!】と書く。

「お~!ええやん!かっこいいやんけ!!」
お兄さんのニヤケ顔がまた私をニヤケさせる。

「ほいで?これどうしたらええの?入れ物は?」
「入れ物??あ・・・」
入れ物なんて全く想定してなかった。
紙と筆しかない…

「お前はな~!ほんま馬鹿やな~っ」

頭をかきながらお兄さんが力説してくれる。

「これな、せっかく書いたんやろ!
 俺もな、嬉しいから汚したくないやんか!
 せめて輪ゴムくらい用意せえやッ
 
 そしたらこれクルクルして持って帰れるやろ!」

お兄さんの言葉が全部嬉しいなぁと思って
つい「本当ですね」と言いながら笑ってしまった。

それからお兄さんは紙をクルクルと巻いて
片手に持ちながら
「じゃな!頑張れや!負けんな!」
また大声で言って去っていきました。


お兄さんが去った後は
すぐに静寂が戻ってきたけれど
ついニコニコしてしまう。

怒鳴り声すら優しく思えた。
ミルクティーはもう冷めきったけれど
心はホクホクとした。

この日、もし雪が降っていなかったら
あのお兄さんは素通りしていただろうか。

かじかむ指に息をかけながら、
雪が降っていて良かったとすら思えた。

人生は何が繋がりになるか分からない。

耐える間は心が消耗するけれど、
それを超える出来事も、確かにある。

冬はそんな温かい思い出がたくさんあります。
また少しずつ思い出しては記録していきます。

書芸家のさゆりでした。

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