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プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】1

「ふう~っ、よかった。なんとか勝てた」

 リビングのソファにもたれかかりながら、アンバーは天を仰いだ。

「薄氷の勝利……というよりは、ほとんどズルですわね。あのような力の使い方があったとは」

 水晶に映る、牙のように歯が伸びたタンザナの姿を見て、イキシアが呆れたように呟いた。

「この女、ヴァンパイアだったのか? 実在していたとはな。面白いこともあるもんだ」

 ルチルは都合5杯目のコーヒーを飲み干すと、満足げに笑った。

「あの、ルチル王女。タンザナさんは確かにヴァンパイアですが……」

「うん? ああ、心配するな。別になんとも思っちゃいない」

 ためらいがちに伺いを立てるアンバーを、ルチルが一蹴した。

「イキシアやアンタが一緒にいるってことは、害はないってことだろ? 特にこの王女様は、何かあればすぐにここの王子にチクるだろうからな」

「随分な言い種ですわね、ルチル」

 水晶の映像が途絶えたのを確認しつつ、イキシアがルチルの言葉を聞き咎めた。

「いやいや、本当のことじゃないか」

 ルチルが口の端を緩めてニヤっと笑う。 

「どっちにしても、これでインカローズも負けた。アンタらが大分有利になったってわけだ」

「いえ、それはどうでしょうか」

 ここまで黙っていたジャスティンが、ルチルに反論する。

「ルチル王女も先程おっしゃっていたではありませんか。まだフローラ王女がいると」

「フローラか。確かにこういう戦いなら、お節介焼きのアイツが一番手強いかもな。だがまあ、そうは言うもののーー」

 その時、ルチルの話に割り込むようにして、玄関の呼び鈴が鳴った。

「おいおい、まさか噂をすればってヤツじゃないだろうな?」

「分かりませんけど、可能性はありますわね……」

 イキシアが眉根を寄せつつ、アンバーに視線を送った。アンバーは静かに頷くと、玄関へと歩いていき、静かに扉を開いた。

 扉の先には、髪の長い女性が立っていた。

「……突然お邪魔をいたしまして申し訳ありません。私はフローラ・ダリア・ラングデイル。イナアハム王国のプリンセスです。こちらへは、プリンセス・クルセイドを行いに参りました」

 女性は決断的な口調でそう言うと、恭しく頭を下げた。彼女の言葉どおり、その腰に聖剣が差されているのをみて、アンバーは静かに息を呑んだ。

2に続く




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