レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.68
[77枚目]●ココモ・アーノルド『オールド・オリジナル・ココモ・ブルース』<Pヴァイン>(10)
http://p-vine.jp/music/pcd-15060
※本文を書くに当たり、小出斉さんのライナーを大いに参考にしています。
<Pヴァイン>が戦前ブルース作品を1,500円でリリースしたシリーズの一枚。<デッカ>作品(34~38年)に、30年に<ヴィクター>に残した初録音の2曲(ギットフィドル・ジム名義)がプラスされている。「ロバート・ジョンソンに影響を与えたブルースマン」という紹介のされ方が一般的。確かに、ギターのフレーズやファルセット遣いに類似点が見られる。そういった部分に着目するのも一興だが、まずは素直に聴き込んでみたい。
ギターを膝の上に寝かせて弾くラップ・スタイルで、ナイフ・スライドではないかと小出さんは推測されている。左利きで、左手でピッキング、右手でスライドの形。時々音程の乱れもあるが、それを上回る迫力とスピード感だ。ヴォーカルも逞しい。ただ、豪快な歌と言うより、スコーンと抜けるような爽快さを強く感じる。ゴスペル的とも言える。
本名はジェイムズ・アーノルド。1901年生まれが定説だが、ウィキペディアに拠れば1896年とする研究者もいるとの事。「ココモ」というのはインディアナ州の都市。②「オールド・オリジナル・ココモ・ブルース」のオリジナルは、ピアニストのジャボ・ウィリアムスで、スクラッパー・ブラックウェル版もある「ココモ・ブルース」。アーノルドが流行らせた為「ココモ」というニックネームを得たものと思われる。因みに、ロバート・ジョンソンが舞台をシカゴに移し、「スウィート・ホーム・シカゴ」へと発展させている。「ワン・アンド・ワン・イズ・トゥー・・・」というお馴染みの歌詞も出てくる。
ココモ・アーノルドの出生地はジョージア州のラヴジョイ(アルバート・キングのアルバム・タイトルに取り上げられている)。1919年、ニューヨーク州バッファローの製鉄工場で働いた後、ペンシルヴァニア州ピッツバーグ、インディアナ州ゲイリーと渡り歩き、一旦ミシシッピ州に南下したところで、トミー・ジョンソンやイシュマン・ブレイシーと交流。彼らのどこか洒脱な感覚の影響も受けているのではなかろうか。時代のトレンドもあるだろうが・・・。
29年にはシカゴへ。禁酒法下でブートレッガー(酒類の密売や密造に関わる者)と釣り師を職業としていた。30年にメンフィスへ移動、<ヴィクター>のフィールド・レコーディングのスカウトを受け、前述の通りギットフィドル・ジムの名で録音する。「ギットフィドル」とは、スライド音からフィドルが連想される為、スライド・ギター・スタイルをギットフィドルと呼んだのではないかと小出さん。サム・コリンズの広告でも使われている文言だそう。
その後、シカゴに戻りブートレッガーを続けていた時、カンサス・ジョー・マッコイが<デッカ>のメイヨ・ウィリアムスを仲介。ただ、しばらくレコーディングはしなかった。禁酒法が解除になって、商売が立ち行かなくなって初めてスタジオ入りしたというマイペースぶり。しかも、デビュー盤が両面ヒットするという笑いの止まらない(であろう)好調ぶりである。それどころか、その後も高い完成度を保っているのはさすがである。㉒がラスト・セッションで38年5月22日。その後クラブでの演奏は続けていたものの、41年には音楽界から去る。59年にリサーチャーに「再発見」されたのだが、頑なに音楽活動を拒む。60年代に活動を再開したらしいが、本格的なものではなかったよう。こういうエピソードを知ると、奔放なギター・スタイルや直情型ヴォーカルに聴き取れるように、頑固で一本気な性格だったんだろうと思われる。
①はココモ・ブルースの基本形といった感じ。ロバート・ジョンソンとの共通点も把握しやすい。③はチャーリー・スパンドの曲。手数の多いギターが痛快。④では「アイ・ビリーヴ、アイ・ビリーヴ・アイル・ダスト・マイ・ブルーム」⑥では「アイ・ビリーヴ~アイル・ゴー・バック・ホーム」といった歌詞が出てくる。④~⑧辺りは、ややテンポが遅い分、スライドや下降フレーズの魅力が伝わりやすいような。ヴォーカルももちろん素晴らしい。⑨はスペックルド・レッド「ダーティ・ダズン」が原曲。ラップのような早口ヴォーカルに、高速だがメリハリもあるギターが凄まじく、思わず笑ってしまう。⑩はスロー・テンポ。甘いビスケットは女性の象徴とすると、ローラーは説明不要だろう。⑪もスローで聴き応えあり。歌声の伸びも良い。
⑫⑬のリロイ・カー曲も、濃度高めのココモ・スタイルに。⑭は、ジェイムズ"プードル・イット"ウィギンス+ボブ・コールの作品。リトル・リチャード「キープ・ア・ノッキン」に繋がる。歌もギターも軽快だ。⑮落ち着いた展開。アンノウン・ピアニストが絡む⑰は、味変曲。⑱のギターも手数が多く乗れる。⑲はギター・フレーズの外れたような合ってるような感覚が何とも。⑳は故郷ジョージアに思いを馳せた曲。㉑は、ピーティー・ウィートストローがピアノで参加。軽快に飛ばす。ラスト録音の㉒は、ヴォーカルに一段と力強さを感じる。㉓㉔が<ヴィクター>発正真正銘の初録音。㉓は淡々としているが、㉔は、ブラインド・ブレイクのラグみたいに流暢なギター・プレイが愉しめる。
① Milk Cow Blues
https://www.youtube.com/watch?v=5Q1591inGqo
② Old Original Kokomo Blues
https://www.youtube.com/watch?v=3lZv52l0C94
③ Back To The Woods
https://www.youtube.com/watch?v=xXIZqTpaRV8
④ Sagefield Woman Blues
https://www.youtube.com/watch?v=V4ew4EhQOWU
⑤ Old Black Cat Blues (Jinx Blues)
https://www.youtube.com/watch?v=akN8qBMfROU
⑥ Sissy Man Blues
https://www.youtube.com/watch?v=uxpsV5o6I8I
⑦ Front Door Blues
https://www.youtube.com/watch?v=3FbvaLnVGfM
⑧ Back Door Blues
https://www.youtube.com/watch?v=hIA0S_oPT0k
⑨ The Twelves (Dirty Dozens)
https://www.youtube.com/watch?v=mKCNVNkTPY0
⑩ Biscuit Roller Blues
https://www.youtube.com/watch?v=IVK12CH5wOQ
⑪ Chain Gang Blues
https://www.youtube.com/watch?v=YrE9vnrjwBo
⑫ How Long, How Long Blues
https://www.youtube.com/watch?v=vKwM4Kjo7dY
⑬ Bo Weavil Blues
https://www.youtube.com/watch?v=NOFSMUQOsdQ
⑭ Busy Bootin'
https://www.youtube.com/watch?v=u4Rva6F_hro
⑮ Let Your Money Talk
https://www.youtube.com/watch?v=4GYtiETLi88
⑯ Policy Wheel Blues
https://www.youtube.com/watch?v=7OGF8XMsH80
⑰ Stop, Look and Listen
https://www.youtube.com/watch?v=MU6fFSiFDs8
⑱ Big Leg Mama (John Russel Blues)
https://www.youtube.com/watch?v=SXQvxTxuwFE
⑲ I'll Be Up Someday
https://www.youtube.com/watch?v=eKogl9PmuTs
⑳ Red Beans and Rice
https://www.youtube.com/watch?v=BA_JXC5Qs24
㉑ Set Down Gal
https://www.youtube.com/watch?v=c0gxqb1JrJo
㉒ Bad Luck Blues
https://www.youtube.com/watch?v=-SJKQF4Qpw8
㉓ Rainy Night Blues
https://www.youtube.com/watch?v=0GslLWoA0QI
㉔ Paddlin' Madeline Blues
https://www.youtube.com/watch?v=SQmPt5AlU-E
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?